2023年12月28日
赤字決算が続いていると「早く会社を立て直さなければ」と焦り、夜も眠れないという経営者も多いでしょう。取引先や従業員のためにも、「倒産」という最悪の事態は避けなければなりません。
では赤字を解消し会社を立て直すためには、どのような対策をとればよいのでしょうか?本記事では、赤字経営とは何かを明らかにし、会社の立て直し方を解説します。事業再生コンサル会社が手がけた立て直しの3つの成功事例も参考にしてください。
目次
赤字経営とは?倒産リスクはどれくらいあるのか
赤字経営とは、売上額よりも支払額が超過し利益を出せないまま経営を続けている状態のことをいいます。このように資金繰りが悪化してくると倒産のリスクが高まるため、経営立て直しの策を考える必要があります。では、赤字経営を続けた場合の倒産リスクは、どのくらいあるのでしょうか。考えてみましょう。
日本における赤字企業の割合は6割超
2021年度における赤字法人(欠損等法人)は日本全体で187万7,957社もありました。これは国税庁が公表した「国税庁統計法人税表」(2023年)による数字です。この赤字法人率は全体の65.3%にも上る数字です。
日本においては6割を超える会社が赤字経営をしていることになりますが、すべてが倒産しているわけではありません。2022年に調査した東京商工リサーチの数字では「倒産」や「休廃業・解散」で市場から退出した法人の割合は、2年ぶりに増加したものの全体のわずか1.65%(4万7,578件)でした。そのうち「倒産」した会社の数は5,538件で、全体の法人数における0.2%弱にあたります。
このように見ていくと、赤字経営でも事業を続けている会社の数が圧倒的に多いというのが日本の現状になっています。
赤字経営=倒産ではない?その理由とは
先ほど記載したデータからもわかるように、「赤字経営=即倒産」ということになるわけではありません。それは会社の経営が赤字になる原因はさまざまであり、決算上の赤字や黒字は、経営状態と一致するわけではないからです。
たとえば、成長している事業にさらなる投資をして赤字を計上することもあります。また、将来の収益を見越して投資を先行させ、赤字経営を続けることもあります。そこで、赤字経営で得られるメリットを優先する企業もでてきます。
逆に、会社の売上が伸びており決算上は黒字になっていたとしても、その売上金が売掛金となって回収できない場合、会社の資金繰りが悪化してしまい「黒字倒産」になることもあります。
「赤字経営」と一口に言っても、すべてが悪いわけではありません。その赤字の質の内容が重要というわけです。
赤字には「良い赤字」もある
戦略として「良い赤字」である赤字経営を続けることもあります。
この「良い赤字」とは、将来の収益を見込んで事業拡大や投資などを行うことによって、一時的に赤字になることをいいます。本業の収益力が高く、損失を補填できる見込みがある会社の場合には、成長戦略の一貫として赤字経営をすることがあるからです。
この「良い赤字」を成長戦略に使っている会社の代表として、米企業である「Amazon」や「テスラ」が挙げられます。インターネット通販で成長してきたAmazonは、創業から7期にわたって経常赤字を計上していました。現在は黒字転換していますが、それでも物流やクラウドサービス、AIなどの分野に大規模に投資を続けています。
またEV(電気自動車)で有名なテスラは、EV、自動運転技術、太陽光発電などの分野に大規模に投資してきたことで、2008年から2018年までの11年間、経常利益と純利益の両方で赤字を計上していました。赤字経営を続けてきた結果、テスラはEVの市場リーダーとなり株価が高騰。現在ではみごと黒字転換しています。
「良い赤字」で経営を続けていくには
Amazonもテスラも純利益で赤字を計上していましたが、倒産することは一度もありませんでした。その理由は、経常利益も純利益も、どちらの赤字でも会計上の損益であり、実際の現金の動きとは別だからです。つまり、キャッシュフローが常にプラスであれば、経営を続けていくことは可能になるというわけです。
「良い赤字」を出し続けながら会社を成長していくためには、「事業に収益性があること」「キャッシュフローがプラスで現金が手元にあること」がポイントになってきます。
赤字経営のメリットとは?
赤字経営を続けている中には、わざと赤字決算をしている会社もあります。その理由は赤字経営にもメリットがあるからです。
そのメリットには、法人税に関連する3つがあります。法人税の負担を軽くすることで事業を発展させる戦略として、赤字決算を使うというわけです。
法人税・法人事業税を軽減できる
法人税は事業利益が出た場合にのみ支払うという義務があります。逆にいえば、赤字決算の法人からは徴収されないということです。そこで1~2年は赤字決算をして法人税の支払いをゼロにし、収益を生み出してから税金を納める戦略をとる会社もあります。
赤字分の繰り越し・相殺ができる
会社の赤字決算分は、次年度以降に繰越・相殺が可能です。その赤字は「繰越欠損金」として扱われ、翌年の決算が黒字だったとしても課税所得から控除することができます。
この赤字繰越は2018年4月1日以降に事業をスタートした法人であれば最大10年間はできるようになっていますが、赤字分の繰越・相殺については資本金1億円以上の法人だと控除できる金額に制限があるなど、いくつか条件があります。
法人税の還付が受けられる
前期に支払った法人税に限られますが、赤字になった期は還付を受けられるというメリットがあります。ただし法人税の還付を受けられる法人は、「資本金が1億円以下」「確定申告を青色申告書でしている」という条件を満たした法人のみに限られます。
赤字経営のデメリットとは?
前項では戦略的に赤字経営を行うという考え方を紹介しました。しかし実際には、事業の不振で赤字経営に陥ることが一般的です。そこで会社の赤字経営が続くと周囲からの見方が厳しくなり、経営上のデメリットも発生してきます。
もっとも大きな2つのデメリットとして、「金融機関からの融資が厳しくなること」「資金不足による倒産リスクが高まること」が挙げられます。
金融機関からの融資が厳しくなる
会社が赤字経営の状態では、金融機関の信用が低下するというデメリットが発生します。そのため、融資を受けることが難しくなってきます。そこで融資を維持してもらうために、赤字隠しの「粉飾決算」をする企業もあるほどです。
繰越欠損金を使ってやりくりをしていたとしても金融機関からは評価されません。金融機関からの信用を取り戻し、必要な時に資金の融資を受けられるようにするためには、早期の黒字化が必要になります。
倒産リスクが高まる
赤字経営を続けていれば融資を受けられない状態が続いて、会社の運転資金が不足してきます。会社の運転資金が不足すれば、仕入れ代金の支払いや借入金の返済も滞るようになってきます。さらに従業員への給与が支払えなくなると倒産リスクが高まるようになります。
このような時点で会社の倒産を回避するには、事業体制の立て直しが必要となってきます。
赤字の種類を4つの数字から読み解く
損益計算書における赤字は、「営業損失」「経常損失」「当期純損失」「現金収支の赤字」という4つの種類があります。
そこで事業不振で赤字経営に陥った時には、どの数字が赤字であるかによって対策が変わってきますので、決算情報を踏まえつつ、どのような赤字を計上しているのかを正しく見極めることが大切です。
営業損失|事業の見直しが必要
「売上総利益-販売費および一般管理費」という式で表される「営業損失」とは、本業で得られる営業利益がマイナスになっている状態です。売上が損益分岐点を下回った場合や、原価の高騰でコストが上回った場合などにこの「営業損益」に陥ります。
会社の事業で営業利益の赤字が続いた場合には本業で稼ぐ力が弱くなっており、資金繰りが悪化し、金融機関からの信用も失われている可能性があります。このような場合には、たとえ売上が上がっていても仕入れコストや販売コストがそれを上回っている状態では利益は出ません。そこで収益構造を見直す必要があります。
「営業損失」に陥っている場合には、事業そのものを見直し、成長戦略を立て直す必要があります。
経常損失|本業以外の要因もチェック
「営業損益+営業外収益-営業外費用」という式で表すことができる「経常損失」とは、企業全体の収支を表す経常損益がマイナスになっている状態です。「営業外収益」や「営業外費用」とは、本業以外での収益と費用のことを指し、受取利息や不動産収入などを指していますが、為替・株式相場の変動・不動産の価格下落などに起因してマイナスになることがあります。
「経常損失」が発生するケースは、営業利益が赤字で経常利益が赤字の場合と、営業利益は黒字だが経常利益が赤字の場合の2通りあります。
営業利益が赤字であれば、事業の収益力の改善が急務となります。また、営業利益が黒字であれば、支払う利息が多かったり、為替・株式相場などが不利になっていたりなど、本業以外の要因で収支が悪化していますので本業以外を見直します。
これらを実施することにより、倒産リスクは低減することができます。
当期純損失|一過性の赤字なら緊急性は低い
「経常利益+特別利益-特別損失」という式で表される「当期純損失」とは、一会計期間における会社全体の収支がマイナスになっている状態のことです。「特別損失」とは業務内容とは直接関係ない特別に発生した損失であり、通常は発生しない予測が難しい一過性の損失のことです。
そのため、営業利益・経常利益ともに黒字であるのに関わらず「当期純損失」が発生する場合は、一過性の「特別損失」の理由が多いので、緊急性のある赤字ではないといえます。
現金収支の赤字|キャッシュフローの改善が急務
損益計算書では黒字なのに運転資金を確保できていない状態のことを「現金収支の赤字」といいます。売上が急増して売掛金の回収が間に合わない場合や、借入金の返済額が多くて現金が枯渇する場合、商品の仕入れをしたものの想定より売れず在庫が増えた場合などに発生します。
「現金収支の赤字」の状態が続くと、資金繰りに困難が生じ、倒産の危機に陥る可能性が最も高くなり「黒字倒産」をすることもあります。
そこで「現金収支の赤字」になった場合には、運転資金の融資を受けるほか、売掛金の回収、在庫の見直し、経費の削減などを行い手元の現金を確保して、キャッシュフローを改善する必要があります。
赤字経営の立て直しの進め方
赤字経営を立て直す場合には、順を追って経営改善を続けていく必要があります。そこでこの章では、経営者が立て直しを進めるときに重要となる5つのステップを紹介します。
赤字の原因を分析し、問題点を明らかにする
まずは自社が赤字に陥った原因を分析し、問題点を明らかにしていきます。その際、問題がわからなければ対策は立てられませんので、財務諸表を使って売上や利益、資産などの状況を分析します。
そこで導かれたものが、事業の不振の原因や問題点であった場合には次のようなことが考えられます。
- 利益を生み出せないビジネスモデルを続けている
- マーケットが縮小し、売上が減少している
- ライバルが出現し、シェアが縮小した
- 原材料価格が高騰し収益率が悪化している
- 売上が急増したものの売掛金が回収できていない
赤字の種類や規模、発生した背景や要因を明確にすることで、対策の優先順位や方向性を決められるようになります。
金融機関、取引先と交渉し、資金繰りを改善する
会社の立て直しをする資金を確保するためには、融資の返済計画を見直しや売掛金の回収を行い、キャッシュフローを改善しましょう。そこで金融機関とは、借入金の返済猶予やリスケジュール、追加融資などの交渉を行い、手元に資金を確保するようにします。同時に取引先と交渉し、売掛金の回収や支払い条件の見直しなども行います。
その際、金融機関との交渉を行って赤字経営の立て直しのための資金を確保してくれる事業再生コンサル会社もあります。その会社の活用も考えましょう。
コストの見直し、業務の効率化をはかる
赤字を改善するためには、無駄な支出やムダな業務を削減し事業を効率化する「支出の見直し」は欠かせません。無駄な在庫を減らし業務を最適化することも、収益アップにつながります。
自社に赤字事業がある場合には、今後の収益性を検討し改善の見込みがないのであれば、事業の切り離しや縮小を検討する必要もあります。
売り上げアップ、新規展開など成長戦略を立てる
赤字経営の立て直しには、コスト削減だけでなく、収益の増加も必須です。そこで、売上アップや新規事業の開発などの施策も行う必要があります。
顧客ニーズの分析やマーケティング戦略の見直し、新規顧客の開拓などを行うことで売上アップにつながりますし、将来性の高い事業の開発や参入を検討することで会社の成長につながる可能性があります。
組織体制の見直し、人材の育成を進める
事業の不振は組織がうまく機能していないことが原因の場合もある原因につながっている可能性もあります。そこで組織体制に問題点がないかを見直し、業務の効率化や売上アップにつながる組織の仕組みに変えていくことも検討しましょう。
組織体制の見直しだけでなく、同時に社員のモチベーションアップも不可欠です。社員の能力やスキルの向上を支援する他、適切な評価や報酬、キャリアパスの提供などの組織改革を進めていくことも大事です。
社内に人材がいない場合は、専門家の力を借りる
この5つのステップは、赤字経営の立て直しに必要不可欠なステップです。ただし、財務分析や金融機関との交渉、マーケティング、組織改革など、専門性の高い課題に対応する必要があり、社内に適した人材がいないこともあります。特に、金融機関との交渉や事業の立て直しなどは、事業再生の専門家の力を借りることで早期に解決できることもあります。
ヒアリングをもとにした見積もりまでは無料で行う事業再生コンサル会社も存在しています。専門家の力を積極的に使うことも視野に入れましょう。
赤字経営を立て直した3つの事例
ここからは、事業再生コンサル会社に依頼し、見事事業再生を成し遂げた3つの企業の成功事例を紹介します。赤字経営にはさまざまな原因が存在しています。問題点をどう明確にしたか、問題解決の優先順位や進め方はどう判断するのかについて、事例を参考にしてみてください。
売上拡大を優先してV字回復した有料老人ホームの事例
入居率75%が採算分岐点であるのに68%の入居率しかない大赤字の老人ホームがあり、毎月のように亡くなる入居者もいたことで入居率は減る一方でした。
そこで売上アップへと舵を切り、マーケティングと組織改革の方法を取るようになりました。入居率を上げるだけではなく、従業員のモチベーション管理を行い、10か月で入居率は89%までに回復し事業売却を実現しました。コスト削減からではなく、売上アップ策に取り組んで再生できた好事例です。
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事業を分割して4つの会社に譲渡した多角経営企業の事例
物流業務を中心に、人材派遣や小売、飲食店までさまざまな事業展開を行っていた企業では、過剰投資とその失敗を隠ぺいするための粉飾決算、経営陣に対する内部告発等、様々な問題が噴出し社内が大混乱していました。
法的問題や労務問題にも発展していたので、企業再生経験が豊富な弁護士とタッグを組み、事業を4つに分け、それぞれを別の会社に譲渡する戦略を立てたのです。そこで全事業を4社にきれいに譲渡し、従業員は100%新会社に移籍、金融機関には一括弁済を実現しました。事業再生ンサル会社と弁護士が主導で、労働問題は顧問弁護士、事後処理は顧問税理士と、プロフェッショナルがチーム一丸となって再生を成功させた事例です。
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20億円の債務を解消し、利益率を改善した老舗小売業の事例
店舗単位の売上の粉飾、特定店舗の店長の在庫詐取も判明し債務超過は20億円となり、金融機関も回収に向かうなど、危機的状況となっていた小売業の企業です。
先代の兄弟が所有する不動産会社に時価30億円の土地があり、コンサルタントが話し合いを続けた結果、その土地を譲ってもらい一気に資産超過となりました。その後、不採算店舗の閉鎖、人員整理の実施、資金確保のための在庫処分等、リストラクチャリングにも着手。現場の意識改革にも着手し、利益率の改善に取り組んだ結果、利益率を10%近く改善できました。
赤字経営の立て直しに親族にも協力をお願いする際には、経営者とコンサルタントが深い信頼関係を築けているかどうかが、鍵となった事例です。
詳細はこちらをご覧ください。
この記事のまとめ
赤字経営にはメリット・デメリットの両方があります。ただし赤字経営には、「金融機関からの融資が厳しくなること」「資金不足による倒産リスクが高まること」という大きなデメリットが生じるのが一般的です。そこで事業不振で赤字経営に陥った時には、どの数字が赤字であるかによって対策が変わってきますので、決算情報を踏まえつつ、どのような赤字を計上しているのかを正しく見極めることが大切です。
その上で赤字経営の立て直しは、事業を再成長させることが必要です。しかし、金融機関との交渉や事業の立て直しなど専門性の高い課題への対応は、事業再生の専門家であるコンサル会社の力を借りることもおすすめです。