2024年03月27日
中小企業の経営者であれば、「節税のために、会社をわざと赤字にする」という話を聞いたことがあると思います。
企業が存続する目的は売上を上げて利益を出して成長することにあります。
しかしそこで、あえて赤字決算にする中小企業もあるのです。
この記事では、中小企業が赤字決算をすることのメリット・デメリットを解説します。
赤字を解消したいという企業に向けたヒントも参考にしてください。
赤字決算がメリットとされる3つの理由
「わざと赤字にする」企業があるのは、赤字決算にメリットがあるからです。
赤字決算のメリットは、主に節税対策ですが、大きく分けて3つあります。
ただここでは、その内容とメリットとは言えない理由を詳しく解説します。
1.法人税が軽減できる
法人税は、企業が1年間に発生した売上から経費などを差し引いて得られた「利益(所得)」に対して定められた税率から算出されます。
資本金1億円以下の中小企業では、法人税率23.2%(年800万円以下の所得に対しては15%)ですが、赤字決算の場合にはそれがなくなり、その年の法人税等はゼロになります。
そのために「わざと赤字にする」のは利益がある企業が節税をして利益を圧縮するからです。
ただその際、単に不要なコストを増やし利益を圧縮した場合は、税金を払わなくても現金が減ることになりますので、経営メリットはありません。
2.欠損金の繰越(10年繰越)ができる
青色申告の承認を受けている法人であれば、赤字決算の場合には「繰越欠損金控除」という税法の制度を活用できます。
そして繰越欠損金控除は、赤字が発生した翌年度以降、赤字部分を10年間繰り越せ(資本金1億円以下の中小企業)、繰越期間の間の黒字と相殺できるのです。
繰り越された赤字は課税所得から控除されるので、結果的に法人税が安くなります。
ただし、10年間が経過してしまうと繰越欠損金は消えますので、11年以上先の黒字を見越して赤字を計上しても意味はありません。
また、将来黒字になるような経営をしなければ、永遠に相殺する黒字は出ません。
わざと赤字を続けている限り、メリットはないのです。
3.前期が黒字なら税金還付を受けられる
赤字が出たときは前期に支払った法人税の還付を受けられますので、その税金の還付を目的としてあえて赤字にするパターンがあります。
ただし還付されるのは、前期に支払った法人税の金額が上限となり、前期より前に支払った法人税は還付されません。
また、毎年「わざと赤字決算」にしているのであれば、還付金を受け取れる黒字の年が前期にはありませんので、このメリットは得られません。
業績が悪化している会社はまず利益を出すこと
企業が「わざと赤字決算」にするメリットは、基本的に法人税の節税しかないといえます。
そこで、わざと赤字にする企業では、「必要以上に経費を使う」「余計な商品を購入する」「役員報酬を高額にする」などを行うことになります。
しかし逆に、本業で稼ぐ力が落ちて赤字になりはじめたときには、このような体質がリスクとなり得ます。
「わざと赤字決算」でメリットを享受できるのは、「利益を出しているときの節税だけ」であることを理解しておきましょう。
赤字決算における5つのデメリット
「わざと赤字決算」にするメリットは、意外に少ないことをお伝えしました。
そこで次章では、赤字決算にするデメリットを5つ紹介します。
「わざと赤字決算」で得られるメリットに比べ、デメリットの方が多いと感じるのであれば不要かもしれません。
1.融資が受けづらくなる
赤字決算にするデメリットの大きなものとして、金融機関からの融資が受けづらくなることです。
金融機関から融資を受けるとき、既に事業を行っている企業であれば決算書の提出が必要です。
しかしそのとき、赤字決算を提出してしまうと返済能力がないと見なされ、金融機関からの借入の難易度が上がってしまいます。
目先の節税に気を取られて「わざと赤字決算」にすることで税負担は減らせます。
その代わりに金融機関からの資金調達ができなくなると、経営リスクが増えてしまいます。
それでは本末転倒です。
2.手元の現金は少なくなる
「わざと赤字決算」にする際、「必要以上に経費を使う」手法を使って利益を圧縮する場合には、その分、現金も出ていきますから会社の現金は目減りしていきます。
たとえば、税引き前利益が500万円あった場合、「わざと赤字決算」にするためには500万円分の経費を計上して税引き前利益を0円にする必要があります。
税引き前利益500万円を経費として支払っているので、手元の現金は少なくなるのです。
3.債務超過・倒産リスクが大きくなる
健全に会社を経営していくには、自己資本額(純資産額)をいかに増やしていくかがポイントとなります。
もし黒字決算であればその純資産額がプラスになっていきますが、赤字決算であれば純資産額が目減りしていくことになります。
赤字決算が続くことで、資産よりも負債が大きくなり、純資産額がマイナスとなって債務超過に陥ることになります。
そして、債務超過に陥ることで金融機関からの融資も受けづらくなります。
そうすると資金繰りが厳しくなり、倒産リスクも高まることになります。
4.税額控除を活用できない
中小企業に対しては、「中小企業経営強化税制」「中小企業投資促進税制」「中小企業向け賃上げ促進税制」など、さまざまな税額控除制度があります。
しかしこれらは税額控除のための制度であるため、赤字決算で税金が発生していないと利用することはできません。
5.役員報酬を上げれば個人の税負担が増加
「わざと赤字決算」にするための手法の1つとして、「役員報酬を高額にする」ことがあります。
役員報酬が毎月定額であれば損金計上できるため、役員報酬を増やすことで、その分だけ会社の利益を減らせるからです。
ただ所得が上がると、その分、役員個人に対して多額の税金が課せられるようになります。
所得税の最高税率は45%であり、住民税と合わせると最高で55%です。
社会保険料も上がってきますので、実質的な負担はさらに大きくなります。
赤字経営から抜け出すための3つのステップ
中小企業が「わざと赤字決算」にすることは、節税面でのメリットはあります。
しかし企業の長期的な成長という観点から見れば、黒字化して自己資本を増やしていく方が得策です。
そこで自社が赤字経営に陥った場合、わざとであるにしろ、無いにしろ、早期に黒字化を目指して経営の立て直しを図るようにしましょう。
そこでここでは、赤字決算に陥ったときに最初に取るべき行動を解説します。
1.赤字の原因を見つける
まずは自社が赤字に陥った原因を見つけましょう。
原因が明らかにならないと適切な対策が立てられないからです。
赤字の原因を見つける方法として大きく2つに分けると、損益計算書から分析する方法と、キャッシュフローを分析する方法があります。
損益計算書から読み解く
損益計算書の赤字には、「営業損失」「経常損失」「当期純損失」「現金収支の赤字」という4つの種類があります。
自社が赤字経営に陥った時、どの数字が赤字であるかによって取るべき行動も変わります。
決算書上の赤字がどの部分で発生しているかで、その赤字の意味が異なるからです。
そこで損益計算書の情報を分析しながら、どのような赤字を計上しているのかを正しく見極めていくようにしましょう。
「赤字の会社を早く立て直したい」と考えている経営者の方はこちらの記事もご覧ください。
キャッシュフローを見直す
赤字経営の原因を見つけるために、キャッシュフローを計算し資金の流れを見直す方法もあります。
キャッシュフローを大きく分けると、3つの要素があります。
- 固定資産など投資にかかる資金の増減→投資キャッシュフロー
- 借入金など金融取引にかかる資金の増減→財務キャッシュフロー
- 営業活動にかかった資金の増減→営業キャッシュフロー
キャッシュフローのどの要素で手持ち資金を減らしたのかを知ることで、キャッシュフローを見直せます。
2.コストを見直す
赤字の原因がわかったら、コストの見直しをします。
赤字経営とは、収益に対しコスト(費用)がかかり過ぎている状態です。
そこで会社の赤字を解消していくためには、無駄な支出や業務を削減し事業を効率化していく「支出の見直し」は欠かせません。
無駄な在庫を減らし業務を最適化することも、収益アップにつながり赤字解消につながります。
無駄なコストを削減して赤字を削減していくためには、このような「リストラチャクリング(リストラ)」の実行が効果的です。
効果的なコストカットについてはこちらの記事もご覧ください。
3.金融機関と交渉して資金繰りを改善する
経営の立て直しには、財務キャッシュフローの改善は必須です。
自社が保有する手元の現金を増やすためには、金融機関からの追加融資や融資返済計画の見直し交渉も必要になってきます。
「金融機関との交渉はハードルが高い」と感じる場合には、赤字経営を立て直すための資金を確保してくれる事業再生コンサル会社もあります。
まずは無料相談などを活用して、事業再生のパートナーを見つけることも検討しましょう。
この記事のまとめ
中小企業が「わざと赤字経営」にすることは節税面でメリットがあります。
しかし企業の経営面で見れば、数々のデメリットもあります。
「わざと赤字決算」は儲かっている企業の節税対策です。
企業の成長に欠かせない資本は基本的に黒字を出して積み上げていくしかありません。
そこでもし自社が赤字決算になってしまったら、その赤字原因を突き止めて対策を講じる必要があります。
金融機関との交渉など、ハードルが高い場合は、事業再生コンサル会社の力を借りるとよいでしょう。
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