2022年10月28日
目次
私的整理の全債権者同意が不要になる理由
経営状態が悪化している中小企業経営者に向けて、政府では「私的整理円滑化法案」の制定を検討しています。この法案では私的整理の際に企業再建の障害となっている「債権者全員の同意」ではなく多数決で進めることができるようになる予定です。
「私的整理円滑化法案」が可決することでどのような変化が訪れるのでしょうか。本記事ではそのメリットをご紹介します。
債務増加企業が急増!私的整理を促す政府
2021年秋以降、特別立法で中小企業向け「私的整理のガイドライン」を制定して、規制緩和が行われることが喧伝されてきました。しかしコロナ禍以降、債務残高が大きく膨らんでいる企業もさらに増加していることから、2023年の通常国会に「私的整理円滑化法案」に提出される見込みとなってきました。
この法案では、これまで関係する債権者全員の同意が必要など、利害調整のハードルが高く、中小企業には導入しにくいものとなっていた私的整理を、「債権者全員の同意」ではなく「多数決」で進められるようにする方針です。主要国では同様の制度は既に導入済みであり、そこに日本が続くことは産業の新陳代謝を促す効果が期待できるものとされています。
これまでの私的整理の経緯については過去記事もご参考ください。
日本企業の債務は高止まり状態
アフターコロナに入り債務が減りつつある欧米企業に対し、日本企業はいまだ債務残高が高止まり状態のまま、そこからなかなか脱却できていません。過剰債務から抜けだし、経済を前に進めていき連鎖倒産を防ぐためにも、スピード感のある企業再生手法の導入や普及は必須の状況となっています。
コロナ直撃の宿泊・飲食業が対象
これまでコロナ禍により経営に打撃をこうむった業種は多岐にわたっていますが、宿泊業や飲食業がもっとも大きな打撃を被っています。国や自治体により、多くの補助金や助成金が投入されてきましたが、コロナ禍が落ち着くに従ってそれらも終了するようになり、多くの企業で経営状態の悪化が叫ばれています。
その経営悪化が経営破綻に進む前に、経営再建に進むことができる中小企業向け「私的整理のガイドライン」の制定が待ち望まれています。
ハードルが高い私的整理の全債権者同意
現行の「私的整理のガイドライン」では、私的整理を進めていく中で決めていく債権カットの割合や債権放棄については、金融機関などの債権者全員の同意を得なければいけません。そこで債権者全員の同意が得られずに法的整理に移行せざるを得ないことも多くありました。
債権者全員から同意を得ることは難しいため、せっかく制度として私的整理が用意されていても活かしきれていませんでした。
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企業再生はスピードが命
事業再生は、自社が保有している資金が底をつく前に行わないといけません。自社資金が底をついてしまえば、その企業は経営破綻したこととなり、法的整理に移行することになってしまいます。そのため経営破綻し倒産する前に企業再生に持っていくためにははスピードが要求されます。
関連記事として以下の過去記事もご覧ください。
倒産回避は債権者にもメリット
企業が倒産を回避することは債務者だけが得するのではありません。倒産してしまうと債権が回収できなくなってしまうので、金融機関などの債権者にもメリットがあることです。
産業の新陳代謝を図れる
日本で企業再生というと、その企業は「経営不振だから企業再生をした」と思われマイナスのイメージを持たれますが、ヨーロッパや韓国ではすでに当たり前に行われている行為です。停滞している企業をそのままにせず、新しく再生することで産業の代謝を促すことができますので、肯定的なイメージで捉えられています。
『ゾンビ企業』の延命が問題点
2023年の通常国会に提出される「私的整理円滑化法案」はあくまでも再成長の見込みのある企業が対象です。経営につまずいても法的整理や私的整理に踏み切れないで、赤字の借金を返すためだけに存続している「ゾンビ企業」を延命させるための法律にしない対策も必要です。
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者に個人保証を求めることが多く、経営不振となっても法的整理にも私的整理にも踏み切れないで、借金を返すためだけに存続している「ゾンビ企業」となっているのです。
またこれまで新型コロナウイルス感染症の影響に対して、中小企業には手厚い資金繰り支援がありました。この支援により、経営破綻せずに何とか存続できている企業も多く存在しています。社会保険料や消費税もコロナ禍によって納付が猶予されており、コロナ融資も含めた未払債務が膨れ上がっている企業も増えており、このような企業は延命されているだけであり、収益体質改善をしていかないと「ゾンビ企業」のまま、結局は経営破綻の道を辿ることになってしまいます。
経営者が私的整理を成功させる注意ポイント
経営者が私的整理を成功させるためには、以下2点の注意ポイントがあります。
リスケに頼らない
経営不振に陥り資金繰りに悩んでいるとき、金融機関に対して借入金返済のリスケ(リスケジュール)は助かるものです。借り換えをするよりも余計な費用をかけずに経営立て直しのための時間的猶予を得られることで、企業の延命措置を図ることができます。
しかしリスケをしても借入金は返済しなければなりませんし、リスケ中は新規の融資を受けにくくなります。そこでリスケだけに頼らずに、新規ビジネスモデルの創出などを考えるようにしましょう。
経営体質の改善
いくら私的整理を行ったとしても、企業の経営体質がそのままではまたいつか債務が膨らんでいき法的整理に移行していく可能性もあります。そこで、自社の収益を悪化させている原因を徹底的に究明し、その原因をなくし経営体質を改善していくことが大事です。
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今後は政府も後押しすることになる中小企業の私的整理を成功させるためには、スピード感を持って事業を分析して自社のことを見極める目を持つことが必要です。
事業を再建するために、何を捨てて何を残すのかを時間をかけずに判断し、事業再生ための準備を行い、実行に移していくことを考えて行くには自社だけでは難しいことだと思いますが、事業再生の専門家に依頼することで、この問題を解決することが可能となります。
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