日産旧子会社「マレリ」が負債1兆円超 事業再生ADRで4500億円の債権放棄

日産旧子会社「マレリ」が負債1兆円超
事業再生ADRで4500億円の債権放棄

かつて日産自動車の子会社として、長い間、日産の部品製造を担っていた「カルソニックカンセイ」。米投資ファンドに買収され「マレリ」へと生まれ変わり、売上高世界7位を誇っていた大手自動車部品メーカーだったのですが、経営不振に陥いり多額の負債を抱えるようになりました。

本記事ではマレリが事業再生ADRへと追い込まれていった理由を明らかにしていきます。

負債額1.1兆円で事業再生ADRを申請

グループ全体で売上高1兆2660億円を誇っていたマレリですが、2019年3月期から2020年12月期(2019年12月期は9カ月の変則決算)まで3期連続の赤字(2021年12月期も赤字と予想)を発生させていました。関係が深かった日産自動車が経営不振に陥っていたことに加え、コロナ禍で世界的な自動車生産台数激減のしわ寄せを受けたのです。

その結果、製造業としては過去最大規模となる約1兆1000億円規模の債権額を抱え、2022年3月1日に事業再生ADR制度の利用を申請することとなりました。

2022年5月には親会社である米投資ファンド「KKR」をスポンサー(支援企業)に選定し、約4500億円の債権放棄を金融機関に求めています。マレリでは今後、国内外で3000人の従業員削減やヨーロッパ中心となる生産拠点の閉鎖など大規模なリストラ案を提示しており、債権への道のりは厳しいといわれています。

マレリ(旧カルソニックカンセイ)の歩み

前身は日産系車部品メーカー「旧カルソニックカンセイ」
1938年 日本ラジエーター製造(旧カルソニックの前身)が創立
1954年 日産自動車が資本参加
1956年 関東精器(旧カンセイの前身)が創立
2000年 日産系のカルソニックとカンセイが合併、カルソニックカンセイに
日産の連結子会社になる
2015年 2016年3月期の連結売上高1兆円到達
2017年 日産から独立し、米投資ファンドKKRの完全子会社化、上場廃止
2019年 伊自動車メーカーFCAの自動車部品部門マニエッティ・マレリを買収。「マレリ」に社名変更
2020年 新型コロナウイルスによる経営不振により、KKRと邦銀から1300億円を増資、及び借入れ
2022年3月 事業再生ADRを申請
同5月 KKRがスポンサーに決定

自動車部品メーカー大手であるマレリはもともと、自動車用ラジエーターを製造する「日本ラヂヱーター株式会社」として1938年に日本で創業されました。1988年にカルソニック株式会社と社名を変更。2000年には同じく日産自動車系列の自動車部品メーカー「株式会社カンセイ」と合併して、カルソニックカンセイ株式会社となります。

2005年には日産自動車の連結子会社となりましたが、2017年に日産自動車は米投資ファンドであるKKRに全株式を売却した後に現・ステランティス N.V.であるFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の自動車部品部門 「マニエッティ・マレリ」を買収。経営統合を行い、社名をマレリ株式会社へと変更したことで、売上高世界7位の自動車部品メーカーが誕生したのです

現在では日産自動車の資本はまったく入っていませんが、これまでの経緯から今でも日産自動車との関係が深く、取引も日産自動車に大きく依存している自動車部品メーカーとなっています。

また、FCA傘下だったマニエッティ・マレリは日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、1919年にイタリア・ミラノで設立された歴史ある老舗自動車部品メーカーです。モータースポーツへの部品供給も行っており、F1レースではフェラーリのスポンサーを行っていたことでヨーロッパでは知名度の高いメーカーでした。

米投資ファンドKKRが7200億円で買収

マレリは、米投資ファンド「KKR」傘下だったカルソニックカンセイがマニエッティ・マレリを約7200億円で買収したことで誕生した企業です。このような大きな金額で、マニエッティ・マレリを買収するに至った経緯はなんでしょうか。

2022上場を目指していた

長らく日産自動車系列であったカルソニックカンセイですが、カルロス・ゴーン氏のリストラ策により2017年にKKRに全株式を売却。KKR傘下に入り上場を廃止していました。

その当時のKKRジャパン社長「平野博文氏」は強気の姿勢を持っており、「2021年までに営業利益率で業界トップ10以内を目指す」としてマニエッティ・マレリを買収したのです

当時の年間売上高としては、カルソニックカンセイとマニエッティ・マレリの2社を併せて2兆円規模となっていました。2022年をめどに東京証券取引所への上場を目指すとしており、統合されたマレリは順調な船出をするかのように見えていたのです。

米国ファンドKKRとは?

米投資ファンド「KKR」とは、3名の創立者の名前である「コールバーグ・クラビス・ロバーツ」の頭文字を取って1976年に設立されました。同社は、LBO(レバレッジド・バイアウト)を使用した案件としては最大の250億ドルで食品・タバコメーカー「RJRナビスコ」を買収したことでも有名です。

同社の日本法人であるKKRジャパンでは、パナソニック ヘルスケアやPioneer DJ、日立工機、日立国際電気、西友などの大型投資案件を手がけています。

マレリについても同社の大型投資案件の1つなのですが、KKRが実質的に経営を率いていたので、経営再建に際してスポンサーになることへの反発の声も上がっています。

なぜ資金繰りは悪化したのか?

(出典:日経ビジネス

マレリの前身であるカルソニックカンセイは2017年までは好調な業績で推移していたものの、マニエッティ・マレリ買収に乗り出した2019年3月期から赤字決算となっています。以降、赤字決算が続き、4期連続で赤字を出しているのです。

設立当時は好調かのように見えたマレリの資金繰りは、なぜ悪化していったのでしょうか。

7200億円の買収が負担に

まず最大の原因は、2019年にマニエッティ・マレリを7200億円で買収したことが挙げられます。カルソニックカンセイとマニエッティ・マレリの経営統合前の資料では、統合会社の売上高を約1兆9750億円としていました。しかし統合したマレリの2020年12月期売上高は1兆2660億円です。

売上高が下がっている状況の中で7200億円の買収金額が大きな負担となっていました。日本国内工場の閉鎖や埼玉県さいたま市にある本社ビル売却などを行い、コスト削減のために動いてきてはいました。しかしマニエッティ・マレリ側の欧州での拠点閉鎖については、現地の労働組合から強い反発にあって先送りされてきました。2社経営統合により過剰となってしまった生産設備も残ったままでした。

また製品や会社機能など、マニエッティ・マレリ側との重複を解消する統合作業が遅れており、これも業績不振の一因だといえます。

頼みの日産の凋落

2017年にKKRの傘下に入り日産自動車の系列でなくなったカルソニックカンセイですが、取引ベースでは日産への依存が続いていました。日産を主な取引先とするカルソニックカンセイと、欧米の自動車メーカーを主な取引先とするマニエッティ・マレリが経営統合して設立されたマレリについても、売り上げは日産に頼っていました。

しかしその大口取引先である「日産自動車」自体が業績不振を続いていました。さらに2020年春以降になると、コロナ禍によって日産自動車だけでなく自動車業界全体の生産量が減少したことで売上高も下がっていたのです。

半導体不足、コロナ禍の自動車生産量減少が追い打ち

コロナ禍が続いたことにより、世界的に半導体の生産量が落ち込んでいきました。そのために半導体不足が続き、自動車の生産調整が余儀なくされています。

同時に、新型コロナウイルス感染拡大による大都市のロックダウンが続いたことによって自動車工場が稼働できなくなり、自動車生産量減少したことも追い打ちをかけていました。

EV対応の遅れ

欧州を中心に自動車のEV(電気自動車)シフトが行われています。ガソリン車向けの部品生産が主力だったマレリではEVへの対応が遅れていました。このことも業績原因の一因です。

近年ではEVを視野に入れた研究開発も加速させており、EVを走らせる動力ユニット「eアクスル」の開発を進めてはいますが遅きに失した感もあります。

ウクライナ侵攻でロシア工場がストップ

さらに追い打ちをかけたのが、2022年2月24日から開始されたロシアのウクライナ侵攻です。

マレリはロシア・サンクトペテルブルクの日産工場の中に運転席のコックピットモジュールなどの製造拠点を持っていました。しかし、ウクライナ侵攻を受けて日産が工場を停止したことで、連動してマレリもロシアでの生産停止となってしまったのです。

暗雲たちこめ事業再生ADRも茨の道

2022年3月1日に事業再生ADR制度の利用を申請したマレリ。それから3ヵ月の期間をかけてスポンサーの選定に向けた入札を実施しました。途中、スポンサーに手を挙げた外資企業もありましたが交渉は難航していました。

結果的に親会社であるKKRをスポンサーとする再建案が2022年5月31日に開催された債権者会議で説明されています。

主力のみずほ他26行の銀行団が合意

マレリのメインバンクはみずほ銀行であり、数千億円の貸出残高があるようです。そのほか、三菱UFJ銀行や三井住友銀行、日本政策投資銀行との取引がありました。

マレリでは2022年3月にすべての取引先金融機関を集め第1回の債権者会議を開催しましたが、そこではトラック向け熱交換器を製造する子会社の売却方針を示しています。

その上で、全取引先金融機関である26行の銀行団が同意したことで事業再生ADRが進められることになりました。

インド部品メーカーがスポンサーから離脱

KKRがマレリのスポンサーになる形で決定しましたが、当初はインド財閥で傘下に自動車部品会社を抱えるインドのサンバルダナ・マザーソン・グループも共同スポンサー候補として手を上げていました。

同時に、米投資ファンドであるベイン・キャピタルとアポロ・グローバル・マネジメント連合が共同スポンサー候補として手を上げています。

ベイン・キャピタルとアポロ・グローバル・マネジメント連合は資産査定に必要な時間が足りないとして詳細な再生計画案を提示できないためにスポンサー候補から離脱しました。

また、KKRの共同スポンサー候補であるサンバルダナ・マザーソン・グループについても、条件が合わないことから交渉中にスポンサーから撤退することとなりました。そのためにスポンサーはKKRのみと決定しましたが、 出資額は当初の想定から大きく減ることになっています。

このことはマレリ再建には大きな痛手となっています。

国内は工場閉鎖、本社売却の大規模リストラの一方、欧州のリストラ難航

2022年5月31日に開いた債権者会議では、マレリが大幅なリストラ案も提示しています。その内容は国内外で3000人を削減し、ドイツを中心に欧州の生産拠点を閉鎖する方針でした。

しかし欧州における生産拠点の閉鎖やリストラはこれまでも提案されてきましたが、労働組合の反発にあって先送りされてきたものです。

リストラや生産拠点の閉鎖が実現しなければ、高コストの赤字体質から脱却はできません。世界的な原材料高を部品価格へ転嫁していくことも売上高の回復には重要です。

当初はマレリの事業再建計画に合意していた銀行団も、見通しの懸念から事業ADRが成立するか否かも流動的です。

鳴り物入りで企業を買収した強気な米投資ファンドでも、結果的に経営に失敗することもあります。事業再生ADRの難しさは過去の事例でも紹介していますので、参考にしてみてください。

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