船井電機、創業者逝去後の迷走と転落。M&Aから破産まで

かつて、世界的電機メーカーとして名を馳せた船井電機。2017年に創業者の船井哲良(ふない・てつろう)氏が逝去した後、さまざまな要因が重なり2024年秋に破産しました。しかし、一方では再生への動きもあり、世間の注目を集めています。
事業再生のリアルでは、船井電機の破産は「M&Aの失敗」が大きな原因になったのではと推測しています。
同社の成り立ちから繁栄、混乱、そして破産までの道のりを事業再生のプロの目で、ひも解いてみたいと思います。

船井電機とは

創業者の船井哲良氏が実家の家業を継ぐ形で1951年、ミシン本体や部品の卸問屋として開いた「船井ミシン商会」という個人商店が、船井電機の前身にあたります。
その後トランジスタラジオの生産に着手し、事業の急拡大を経てラジオ部門を独立させ、船井電機株式会社が誕生しました。

戦後の混乱期に創業、世界的電機メーカーへ

船井哲良氏の開いた会社が船井電機として歩み始めたのは、1961年のことです。
そのころ、日本は戦後の混乱期を経て、1964年の東京オリンピック開催を目指し好景気に沸いていました。街に「上を向いて歩こう」や「銀座の恋の物語」などの名曲が流れた時代です。
このころ、ミシンからトランジスタラジオに舵を切った船井氏には、先見の明があったと言えるでしょう。その後はラジオにとどまらず、家電・オーディオ機器全般を取り扱うようになります。
そして1999年の大阪証券取引所への上場を経て、2000年には東証・大証1部上場を果たし、名実ともに船井電機は大企業の仲間入りをしました。

海外勢台頭などの影響を受け、20年の売上は全盛期の半分以下に

しかしながら、2000年代に入ると同業の新興メーカーが力をつけ始め、国内外で競争が激化。船井電機の快進撃にも暗雲が見え始めました。
DVDや液晶テレビ等のAV製品を主力に据えるも、2010年代には海外勢の低価格攻勢や市場の変化が直撃。そんななか、2017年には創業者・船井哲良氏が逝去します。
2020年代に入ると、売上はさらに落ち込みました

21年にM&A。再編も24年秋、従業員解雇・破産申請

売上が減少のさなか、2021年に秀和システムホールディングスの株式公開買い付け(TOB)を受けて船井電機は上場廃止となり、同社の子会社になりました
このM&Aで経営陣が刷新され、再出発を目指したものの衰退の一途をたどり2024年秋、従業員に解雇が言い渡され破産に追い込まれます。

外部者が経営に関わるようになると、金の流れに不透明感

長年に渡り良質な家電やAV製品等を生産し続け、信頼と実績を得ていた船井電機ですが、子会社化とともに外部経営者が参入すると、企業内の資金の流れが不透明化し始めます。
突如としてエステティックサロンを買収、その後短期間で売却するという不可解な動きもありました。
このような経営判断は社内外に混乱を招き、経営への疑念を高めることになりました。
さらに破産の直前、実体があるかどうか分からないファンドに会社が売却される一幕も。「金になるものだけ取り、企業をタダ同然で売却したのでは」という疑惑も取り沙汰されています。
こうした動きを経営改善を目指した真っ当な施策とみるか、外部者によるマネーゲームとみるかはまだ、答えが見えない状況です

24年冬、破産・再生で闘争中

大手メーカー・船井の破産が大きく報道されたことは、読者の皆さんの記憶にも新しいことと思います。
破産だけでもビッグニュースですが、同時期に「破産していない!」と経営者のひとりが民事再生法の適用を叫ぶ一幕もあり、各種メディアやSNSを賑わせています。

船井電機は破産したのでは?

破産申請後、急転直下での民事再生法の申請。
どうなるの?と、FUNAIのロゴのついたテレビに釘付けになった方も、いらっしゃるかと思います。
破産が決まってからの再生は、果たして可能なのでしょうか。

創業家系の取締役が破産申請、地裁が破産手続の開始を決定

2024年10月24日、経営再建を断念し、創業家系の取締役が地裁に「準破産申請」を提出した船井電機。破産に“準”がついているのは、反対の意思を示す役員がおり、取締役会の同意を得られないなかでの申請を意味しています。
東京地裁が破産手続きの開始を決定したことで同社は、閉業の道を歩むように見えました

代表取締役会長は民事再生法適用を地裁に申請

破産申請から1ヶ月あまりが経った12月2日、役員のひとりである代表取締役会長が「破産しない。再生する」と、民事再生法の適用を申請
破産決定を不服として、すでに東京地裁に抗告していたことも分かりました。
破産・再生どちらに転ぶかは、いまだに不透明な状況です。

【事業再生のプロの視点から】船井電機の民事再生は非常に困難

事業再生を生業とする我々からみても、一連の流れを観察するとやはり、船井電機の再生の道は困難を極めていると言わざるを得ません。
その理由は大きく分けて、4つあります。

破産手続き開始後の民事再生法適用申請は超異例

破産手続き開始後に、民事再生法の適用申請を行うケースは稀です。全くないわけではありませんが、とても希少なケースといえます。
破産手続きはすでに始まっており、再生を試みても法律上の手続きの矛盾や債権者への説明が行き届かないことなど、数々の困難が考えられます。

財務状況からも、経営再建は現実的に難しい

膨大な負債を抱えているとされる船井電機の財務状況では、外部支援を得ても再建の道筋を描くのは難しいでしょう。
事業の立て直しには多大な資金が必要です。事業の一部を売却する動きがあるようですが、それは元従業員の未払い給与・賞与を支払えばなくなってしまうとのこと。
現状ではまとまった資金の調達はあまり、見込めていません

経営再建のための人手もほぼゼロ

破産申請にともない従業員は解雇されており人材は、不足を通り越してほぼゼロに等しい状況です。
解雇された従業員ひとりひとりには、生活があります。新たな仕事を求めて活動を始めている人がほとんどでしょう。
時間が経ってから「また船井電機で働きませんか」と呼びかけて、戻ってくる人は多くないと推測できます
再建に必要な業務を行う適切な人手がない状況では、事業再生はとても厳しいでしょう。

経営陣が破産・再生の真逆に割れ意思疎通も困難

経営陣が破産と再生で対立しており、意思決定がなかなかできないのも問題点のひとつです。
同じ方向を向いて邁進していても、会社を経営し、存続していくことは簡単ではありません。
同じ会社を経営する人たちが、真逆のことを言う状況自体とても不自然です。そうした環境下では、まともな経営は成り立たないでしょう。
内部の混乱が解消されなければ、事業再生への道は開けません

わずかに残る、船井電機再生への光明

長い歴史を閉じたかのようにみえる船井電機ですが、再生への道を模索する人がおり、実際にその手立てを探っています。
どうすれば船井電機は、再出発を図れるのでしょうか。

「約200億円の純資産が残っている」との主張

破産申請をものともせず、船井電機の再生を宣言した取締役は「グループ全体で約200億円の純資産が残っている」といいます。
この資産が本当に存在し、なおかつ有効活用されれば、再建への糸口となる可能性もないわけではありません

資産があれば、再生は不可能ではないが

200億円にのぼる資産が実際に確認され、それを再生計画に充てられるのであれば、復活も不可能ではないでしょう。
ただし、業務に当たれる従業員はすでに解雇され、復活してもマイナスからのスタートになること必至です。

裁判所の判断に加えて、債権者の同意を得られるか否か

再建のカギを握るのは、裁判所の判断と債権者の同意です。
この2つがが揃わなければ、どれだけ資産が残っていても再生は実現しません。

【破産手続き開始からの再生】船井電機は超絶レア復活できるか

破産からの再生という、とても珍しいシナリオの可能性が残されている船井電機。
かつての大企業で、こうした逆転劇が現実になる日は来るのでしょうか。

事業再生のリアルも、今後のゆくえを見守りたい

破産と民事再生という異例の状況にある船井電機。
再建の道は極めて険しいですが、そのゆくえは事業再生の新たな可能性を示す事例になるかもしれません。

そうした意味合いもあり、事業再生のリアルも船井電機のこれからを、興味深く見守っています。

※この記事は、2024年12月現在の情報をもとにまとめたものです。最新の情報につきましては、別途ご確認のほどお願いいたします。

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