衣料品卸を営んでいたプロルート丸光は、2023年4月に雇用調整助成金の不正が発覚して以来、相次いで不祥事が発覚。
2024年1月6日には、有価証券上場規程第504条第1項第1号(開示された情報の内容に虚偽があり、改善の必要性が高いと認められる)の違反により東京証券取引所における上場が廃止となりました。
衣料品のブティックや小売店の強い味方であったはずの老舗アパレル卸問屋が粉飾決算に手を染めることになった背景にはバブル崩壊後の景気悪化によるもののほか、アパレル業界のパラダイムシフト、新型コロナウイルスによる経済衰退がありました。
2024年7月22日には元社長に有罪判決が下ったプロルート丸光は、果たしてこれから「自主再建」で再生できるのでしょうか?
粉飾決算について、こちらの記事でも詳しく解説しています。
プロルート丸光による決算粉飾事件の全貌
プロルート丸光は、27億300万円という負債額をもって2023年12月5日の会社更生手続開始の申立てを申請。
2024年1月6日付けで東京証券取引所において上場廃止となりました。
2004年12月に東京証券取引所JASDAQ市場(現・東京証券取引所スタンダード市場)へと上場を果たした同社ですが、その後、雇用調整助成金の不正受給や元社長らによる粉飾決算など、コンプライアンス上の問題が相次いで発覚し、上場維持が困難な状況となり、今回の措置となったのです。
今後、プロルート丸光は事業再生できるのでしょうか。
本記事では、同社における粉飾決算までの経緯と会社更生法による再生計画案についてもお伝えしていきます。
不正受給発覚から不祥事が噴出!
2023年4月、プロルート丸光による雇用調整助成金の不正受給が発覚しました。
そして同年4月3日には、大阪労働局から雇用調整助成金支給決定の取消と返還通知を受けています。
その実態は、休業日に出勤している従業員がいるにもかかわらず、休業をしたと申請していたことからでした。
雇用調整助成金の返還額については、約2.6億円にものぼっています。
2021年6月の株価上昇は架空黒字によるものだった
さかのぼること2021年6月上旬におけるプロルート丸光の株価は終値が100円台でした。
しかし有価証券報告書を提出後の同月下旬にかけては株価が200円台に上昇しています。
この有価証券報告書は、プロルート丸光が資本提携する予定である筆頭株主のコンサルティング会社「ウェルスブラザーズ」(WB)とともに共謀して提出したものでした。
この黒字報告を受けウェルスブラザーズ社は「当初15億円だった時価総額が100億円を超える規模となり、想定を上回る資本提携の成果を達成した」として、同年8月には同社株式の大半を売却して筆頭株主から外れています。
粉飾額1億3000万円!金融商品取引法違反で元社長らが逮捕
2023年10月12日、プロルート丸光の元社長ほか、同社の筆頭株主だったウェルスブラザーズの代表ら3人は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で逮捕されることになりました。
2021年3月期におけるプロルート丸光の連結決算の実態は営業損失約6900万円という赤字だったにもかかわらず、提出した有価証券報告書では営業利益が約6300万円という黒字に転換する粉飾を行った容疑です。
結果的に判決で認定された粉飾額は、1億3000万円にものぼっています。
創業明治33年のアパレル総合卸企業に何が起きたか
プロルート丸光は、明治33年(1900年)創業した卸問屋をルーツに持ちます。
その後、1951年には丸光株式会社を設立し、「センイ丸光」と呼称するようになりました。
さらに1959年にはセルフサービス方式による総合衣料品前売現金問屋に業態を転換。
1984年には業界初となるキャッシュレスタイプの小売店用仕入れカードシステムを開発しています。
1987年には年売上高が500億円を突破して首都圏へと進出したことで1988年には株式を店頭登録しています。
そしてピーク時の1992年3月期には、年売上高約529億円を計上するまでになりました。
このように、専門店やブティックの強い味方だった老舗アパレル卸問屋が、経営の道を踏み間違ったのは何故でしょう?
バブル崩壊で狂い始めた経営の歯車
順調な経営を続けていたプロルート丸光ですが、1990年代初頭におきたバブル崩壊後の景気悪化により同社の経営状態も悪化。
貿易部門を担っていた連結子会社でも多額の不良債権が発生(その後、特別清算)していきました。
また1995年5月に中国・上海へ設立した子会社についても、1998年4月には撤退を決めたことで多額の損失計上を余儀なくされるようになっています。
アパレル業界のパラダイムシフトによる大打撃
バブル崩壊により起こった経営の悪化に加えて、SPA(製造小売り)というパラダイムシフトが発生します。
アパレル業界では1990年代以降、企画から生産、販売までを垂直統合したビジネスモデルであるSPAが台頭。
プロルート丸光のような旧来の衣料品卸業者の出番はなくなってきたのです。
新型コロナウイルスの追い打ちで赤字拡大
バブル崩壊後の景気悪化やアパレル業界のパラダイムシフトに加えて、プロルート丸光へ追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。
2020年以降、新型コロナウイルスが感染拡大したことにより衣料品の需要が大きく落ち込み業績は悪化。
最盛期には年売上高500億円以上を誇っていた同社も、2020年3月にはプロルート丸光新東京店を閉店。
その後、全国の小売店へ販売網を広げていきましたが2023年3月期の年間売上高は40億3717万円まで落ち込み、13億円の赤字で連結最終損益を記録するまでになっています。
社長交代でどう変わる?プロルート丸光の未来展望
金融商品取引法違反の容疑で逮捕されていたプロルート丸光の元社長である安田康一被告は、2024年7月22日に執行猶予4年(求刑懲役2年)の有罪判決を言い渡されました。
次期社長である森本裕文氏も2023年10月12日に金融商品取引法違反の容疑で逮捕されており、2023年8月28日付で内田浩和氏が後任として社長に就任しています。
内田氏は1986年にプロルート丸光へ入社し、2015年に取締役、2021年に副社長へと就任していた人物です。
この内田氏へと社長が交代したことでプロルート丸光は変わっていくのでしょうか。
2023年12月に会社更生法の適用を申請
2023年12月5日、プロルート丸光は会社更生手続きに入ったと発表しています。
さらに、2023年12月には大阪地方裁判所へ会社更生法の適用を申し立てて同日受理。
2024年1月6日には東京証券取引所スタンダード市場における上場が廃止となりました。
「自主再建」方針の意外
2024年5月22日、プロルート丸光は大阪地方裁判所へ更生計画案を提出しています。
そこで打ち出されたのは、異例ともいえる自主再建の方針でした。
当初は会社更生スポンサーを選定するとしていたプロルート丸光ですが、2024年5月22日に大阪地方裁判所に「当社による自主再建」という基本方針の更生計画案を提出しています。
そして更生管財人を務める山本幸治弁護士は、「現在も大半の取引先との取引継続が実現できているように、強みである商流を維持できる見通しだ」と話しました。
新社名は株式会社ルートスタイルに
2024年7月19日付で、大阪地方裁判所から更生計画認可が決定されたプロルート丸光。
この認可決定に伴って、プロルート丸光は管財人団で組織する一般社団法人が新たな株主となることになりました。
さらに、会社の体制を一新すると共に社名を「ルートスタイル」へと変更し、事業再建に向けた第一歩を踏み出すことになりました。
今後同社では、アパレル卸売事業をベースにメーカーから消費者へのファッションスタイルのルートをつなぐ役割を果たそうとしています。
そのためには、自社で企画・製品化するブランドプロダクト事業の強化により収益性を高めていき、永続的・安定的に事業を継続しようとしています。
同時に、事業を支援するスポンサーや事業提携先の選定手続きを実施していく予定です。
粉飾があっても事業の立て直しは可能です
本記事では、粉飾決算をしたとしても自主再建の道を採ることができたプロルート丸光の希有な事例を簡単に解説してきました。
いくら企業の業績が悪化したとしても粉飾決算に手を出せば、関わった人物は逮捕へと陥り、上場は廃止され、倒産や精算に至る高い可能性があります。
粉飾決算には大きなリスクが伴います。
粉飾決算の実行を考える前に事業再生の専門家へ一度ご相談ください。
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