【曙ブレーキ工業の事業再生ADR】完了までの道のりを徹底解説

自動車部品大手メーカーの曙ブレーキ工業は、自動車用だけでなく、鉄道車両向けのブレーキも生産しており、非常に高いシェアを持っていました。ただ、アメリカにおける自動車メーカー向けの受注が減少するなどして経営が悪化。2019年から債務削減や資本増強、工場閉鎖を柱とする事業再生計画を進めていました。

本記事では、このように経営が悪化していた曙ブレーキ工業が、事業再生ADRで再生するまでの道のりを紹介します。どのような状況に陥ったら事業再生を申請するべきか、成功事例としてぜひ参考にしてください。

曙ブレーキ工業が借入金490億円を完済し事業再生ADRを終了

ブレーキシステムを主力製品とする大手自動車部品メーカーの曙ブレーキ工業は、2024年6月14日、既存の借入金490億円を同年6月28日に完済し事業再生ADRによる再生計画期間を当初の予定通り終えると発表しました。

2019年から債務削減や資本増強、工場閉鎖などの事業再生計画を進めていた同社ですが、既存の借入金の返済に、170億円の自己資金と、ドイツ銀行をはじめとした金融機関に対して新たに借り換えを要請した320億円を充てる予定です。

5年に及んだ事業再生ADR終了までの道のり

曙ブレーキ工業は2019年にスタートした事業再生ADRをどのように進めていったのでしょうか。ここからは、その再生までの経緯を解説していきます。

北米事業の悪化により経営危機に

曙ブレーキ工業が、ドイツ・ボッシュからアメリカの2工場を約10億円で買収したのは2009年のことでした。この買収により、米3大自動車メーカー(GM、フォード、クライスラー)との約580億円の取引を収めることで、2008年に発生したリーマンショック後のアメリカ市場が回復していく過程で受注は急増しました。その当時、この工場買収は成功したかに思われたのです。

しかし曙ブレーキ工業はボッシュ方式の工場をマネジメントできずに、生産現場は混乱に陥いることとなったのです。それに対応するためにヘッドハントした外部経営者によって立て直しを行いましたが、新製品の立ち上げ失敗が続きました。

顧客の信頼を裏切ったことで、主要顧客の1つであるGM向けの部品を失注することとなりました。以来、アメリカ工場の稼働は低迷していったのです。

2019年事業再生ADRを申請

続いて曙ブレーキ工業の北米事業では、2014年度から生産混乱による業績悪化が発生していました。それに対処するために、以下の点に取り組みました。

  • 組織・管理体制の抜本的な改革
  • 生産性の改善
  • 生産能力の増強
  • 収支構造の改革

その結果、2017年度の北米事業の営業利益は、2016年度から約48億円の収支が改善し15億円の黒字に反転しています。しかし、一部セダン系車種生産からの撤退や、生産混乱によって次期モデルの受注を逃し売上高が減少しました。

また同社では、2018年度を最終年度としていた『akebono New Frontier 30 – 2016』と銘打った中期経営計画を進めており、「北米事業の立て直し」「製品別事業部制への移行」によるグローバルネットワークの確立、ハイパフォーマンスブレーキビジネスの拡大、欧州事業の新たな構築などに取り組んでいました

しかしこのような取り組みを行ったのにもかかわらず、北米事業の立て直しは進まず、曙ブレーキ工業は経営環境や財務体質は依然として厳しい状況だと判断。2019年には事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)手続の申請に至ったのです。

難航した銀行団との交渉

曙ブレーキ工業では2019年時点で日米欧に所有している18工場のうち、アメリカの2工場を含む6工場の閉鎖・売却や、従業員の3割弱にもなる3000人規模の人員削減、信元久隆会長兼社長ら現経営陣の退任などを提案。同時に、金融機関に対して560億円の債権放棄を要請しています。

この債券放棄額は2019年6月末の有利子負債1132億円の5割カットに相当するものです。この提案はすべての金融機関(メインバンクや地方銀行など37行)に対して5割の債権放棄が一律要請されており、下位行を中心に債権放棄額が大きすぎるといった厳しい声が上がりました。同時に、このリストラ案では業績回復が見込めずに、残債権の回収ができるのか不安がありました。

金融機関にとって債権放棄は歓迎できないことですが、業績が悪化する中で有効な手を打たず、危機的な事態に陥るまで手をこまねいていた曙ブレーキ工業の現経営陣に対する不信感もありました。

銀行団が560億円再建放棄し事業再生ADR成立

2019年9月27日、曙ブレーキ工業は臨時株主総会を開くことになりました。そこで29年間にわたり企業トップを務めてきた信元久隆社長兼会長が退任。ボッシュの専務執行役員などを務めた宮地康弘氏が社長兼CEOに就任すると発表しました。

そこでようやく銀行団は560億円の債権放棄に応じることとなりました。また、日米欧6工場の閉鎖・売却を含む再建計画案についても銀行団から承認を得ています。2019年1月末に申請した事業再生ADRの手続きが成立しました。

メインバンクや地方銀行など37行からなる銀行団すべてが有利子負債半分の債権放棄に応じたことで、曙ブレーキ工業の資金繰りは大幅に改善します。さらに2019年7月には、事業再生ファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)から200億円を調達することで合意。そのうち、曙ブレーキ工業が着手している構造改革に150億円を投じるほか、残りの50億円は企業の成長に向けた投資に回す予定としています。

曙ブレーキ工業の事例から見る事業再生の成功ポイント

ここからは曙ブレーキ工業が発表した決算資料をもとにして、同社が事業再生の申請にいたった理由、経緯を明らかにしていきます。

資金繰りの鍵となるキャッシュフロー

会社はただ赤字なだけでは潰れることはありません。逆に利益を出していてもキャッシュがなければ会社が倒産してしまう「黒字倒産」はあり得ます。「黒字倒産」は以下のような原因から発生します。

  • 多額の固定資産購入、過大な設備投資への返済
  • 規模の急成長による運転資金の増大
  • 不良在庫の発生
  • 借入金の過大返済
  • 得意先倒産による連鎖倒産

会社の売上が高かったとしても、借入金が多すぎると返済が滞り、資金繰りが行き詰ってしまい倒産に至ることはあります。逆に社内にキャッシュさえあれば、銀行からさらに融資をしてもらい、それを原資に返済へ回したり、返済のリスケをしてもらえたりできるようになります。

キャッシュを多く抱える会社には以下のようなメリットがあります。

  • 会社の経営陣にも余裕があるので長期的視野で経営ができる
  • 売上をさらに高めるための広告宣伝費などを使える
  • 必要となる新たな固定資産を購入やリースできる

逆に、キャッシュが少ない会社のデメリットは以下のとおりです。

  • 経営陣に余裕がなく、短期的で行き当たりばったりの経営になる
  • 早期に現金が必要なので、過度の値引き販売を行う
  • 広告宣伝など販売促進ができず、新規の客が増えない
  • 店舗や備品などの固定資産が古いままになり、さらなる「客離れ」が進む

曙ブレーキ工業のキャッシュフローの推移

(※数字は曙ブレーキ工業
2019年3月期 決算短信
2020年3月期 決算短信 より抜粋)

曙ブレーキ工業が事業再生ADRを成立する以前の2019年には、1100億円の借入金に対し、営業キャッシュフローが52億円、社内にある現預金は188億円しかありませんでした。営業キャッシュフローは堅調に推移していましたが、なにせ借入金が多すぎ1年以内には685億円の返済が必要であり、完全に返済不能に陥っていました。

それが事業再生ADRの成立により、借入金は約半分に減額されたことで、債務償還を10年以内で返せるようになっています。

キャッシュフローの目安は月商2~3か月分

会社が必要な現預金は、その会社の月商が一つの基準になります。会社では、仕入れ代金や諸経費、借入金の返済を毎月の売上金から行います。そこで、仕入れ代金、諸経費、借入金の返済などの支出が、月の売上金額を上回ると、資金がショートしてしまうことになります。

では会社にキャッシュが月商の何倍あれば安全かといいますと、基準としては月商の1.5か月分から2か月分です。最低でも月商の1か月分は必要であり、理想としては月商の2~3か月分となってきます。危険なのは月商の1か月を切っている会社であり、特に月商の0.5か月を切る会社は倒産危険水域に入ります。

このような会社は早めに対策が必要です。

積極的なIR情報開示で信頼を回復

(出典:曙ブレーキ工業株式会社公式HP 対処すべき課題|経営方針

事業再生ADR成立後の曙ブレーキ工業は自社ホームページ上で積極的に事業再生計画についての情報を開示し、売上高や営業利益などをわかりやすく株主に提示してきました。その上で、各事業の現況や今後の見通しまで明記しています。

さらに、曙ブレーキ工業の現代表取締役社長 CEOである宮地康弘氏が自ら、トップメッセージで事業再生について状況を説明し、真正面から自社の事業再生に取り組んでいることをアピールしています。

事業再生終了が好感され株価は大幅高に

2024年6月、曙ブレーキ工業は、事業再生ADRによる再生計画期間を当初の予定通り終えると発表しています。有価証券報告書における「継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)に関する注記」の記載も解消した結果、株式市場で材料視され株価は大幅高を付けることなりました。

曙ブレーキ工業の一連の流れは、事業再生により経営を改善し、信用を取り戻した好例として参考にしましょう。

返済に不安を感じたら早めに専門家に相談を

キャッシュが少なくなり、資金繰りが行き詰まって倒産に至りそうな大手メーカーであっても事業再生ADRで見事よみがえることもできます。会社返済に不安を感じたら専門家に早めの相談をすることをおすすめします。

リスケや債務減額などの選択肢が広がる

曙ブレーキ工業は事業再生ADRのおかげで債務削減や資本増強ができ、既存の借入金の返済は自己資金170億円と、ドイツ銀行などの金融機関から新たに借りられる320億円を充てることで倒産を回避することができました。

専門家に相談することで、返済方法の選択肢が増え、倒産を回避できる可能性が高くなります。融資の返済が難しくなったときの対策を紹介したこちらの既存記事もご覧ください。

経営者保証により早期の再起も可能になる

資金繰りに行き詰っても、絶対に高利の貸金業者から資金を借りてはいけません。「経営者保証に関するガイドライン」が制定されたことで、たとえ会社が破産したとしても、「破産手続きにおける自由財産」「一定期間の生計費に相当する現預貯金」「華美でない自宅」は残すことはできます。昔の経営者のように、会社が倒産して無一文になるといったことはおこりません。また、倒産したとしても新たに起業でき、再起することも可能です。

もちろん倒産しないことが一番です。そうならないためにも、早めに専門家に相談することが大切です。

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