ビックモーターの現在の状況とは!買収成立後の事業再生はどうなる?

保険業界大手を巻きこんだ不正や整備工場の行政処分、従業員の暴力行為や違法な街路樹の伐採行為など、さまざまな不祥事で日々世間を賑わせていた中古車販売大手の「ビッグモーター」。伊藤忠商事グループと企業再生ファンドが手を組み、2024年5月1日にはようやく新会社を設立し事業継承をすることが決まりました。 不正発覚から売上が激減し赤字転落したビッグモーターは、数々の訴訟も抱えていますが、今後、無事に事業再生できるのでしょうか?本記事では、ビッグモーター買収までの経緯と事業再生のスキームを解説します。

ビッグモーターの不正発覚までの経緯はこちらの記事も参考にしてください。

不正まみれのビッグモーター!買収成立までの経緯

ビッグモーターによる不適切な保険契約や不正請求などが発覚。特別調査委員会による報告を行ったのは2023年7月のことでした。そして同年の7月25日には、創業家である兼重宏行社長、兼重宏一副社長が辞任を発表。同時期にビッグモーターに対する金融庁の立入検査が行われ、数多くの不正実態が明らかになっています。

保険金の不正請求事件が明るみになってから1年足らずのうちに、伊藤忠商事グループと企業ファンドのJWP(ジェイ・ウィル・パートナーズ)に企業買収されるまでに至ったビッグモーター事件。今回はその道筋を辿ってみましょう。

経営状態悪化でも伊藤忠商事など3社連合が買収に名乗り

ビッグモーターではまず2023年8月に、M&Aで豊富な実績を持つデロイトトーマツグループのコンサルティング企業、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーに、再建計画の策定を依頼し経営の立て直しに携わっています。

しかし2023年11月には、伊藤忠商事と、その子会社であるエネルギー商社の伊藤忠エネクス、企業再生ファンドのJWP(ジェイ・ウィル・パートナーズ)の3社連合が、ビッグモーターとの独占交渉権を含む基本合意書を締結しています。

この基本合意書は企業買収を前提に、詳細なデューデリジェンス(財務調査)を独占的に行うという契約でした。中古車やタイヤ販売、保険代理店などを手掛けている伊藤忠商事は、ビッグモーターのインフラに可能性があると見て、中古車販売店以外にも整備工場を全国展開しているビッグモーターの事業内容に価値を感じていたようです。

企業再生ファンドも参加し事業再生計画スタート!

伊藤忠商事は、ビッグモーターに対して投資を行うにあたっての詳細な資産査定の独占調査を終えて、事業再建は可能であるので取り組むべきと判断しました。そこで2023年3月6日には、伊藤忠グループの伊藤忠エネクスと企業ファンドのJWPはビッグモーターの事業再建契約に向けた契約を締結。伊藤忠商事グループとJWPは、新会社を設立し、事業再生を行うと発表したのです。

この再建計画による契約ではビッグモーターの主要な事業を継承するために新会社を設立するほか、主要な事業を切り出した後の旧会社は残し、訴訟への対応や債務の返済などに専念。今後は2社に分割した体制で進めていくとしています。

新会社「WECARS」設立!経営陣総入れ替え

2024年5月1日になり、伊藤忠グループ・伊藤忠エネクスとJWPはビッグモーターの事業継承した新会社「WECARS(ウィーカーズ)」を設立しました。ここで体制の一新を実現し、ビッグモーターの事業再生が始まったのです。そこで本章では、ビッグモーターの新しい体制について再建計画の狙いとともに解説します。

事業継承会社と存続会社の2社に分割

ここでビッグモーターは、事業継承をしていく新会社の「WECARS」と、存続会社の「BALM」の2つに分割されています。

伊藤忠商事グループ・伊藤忠エネクスとJWPが設立した新会社「WECARS」への出資金は約400億円。そのうち、JWPが特別目的会社(SPC)を通じて50.1%、伊藤忠エネクスが合計で49.9%を出資しています。借入金の引き受けを含めた買収総額は約600億円にものぼりました。WECARSの持ち株比率は議決権ベースでJWPが95%、伊藤忠グループが5%となっています。

なおWECARSは、旧ビッグモーターから約250店舗と約130ヵ所の整備工場、約4200人の従業員を継承することとなります。

一方、ビッグモーターの存続会社である株式会社BALM(旧商号:株式会社ビッグモーター)は、JWPが単独で株主となります。分割の対価などを原資として、コンプライアンス違反行為に起因する損害賠償への対応や融資の弁済などに今後、取り組んでいきます。

伊藤忠の“再建請負商人”筆頭にグループから50人を投入

ビッグモーターは事業継承会社と存続会社へ明確に分けることにより、今後、事業継承する新会社「WECARS」は、事業再生に注力できる形になりました。

WECARSの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任したのは、伊藤忠商事で執行役員だった田中慎二郎氏です。過去に北米やイギリスの市場で企業再生に成功した実績を買われて、WECARSの社長就任を打診されました。

「私自身はさまざまな事業会社の経営に関わり、再生案件も担っています。これまで培ってきたスキルを活用して、従業員が家族にも知人にも胸を張って言えるような会社にしていきます」と田中社長は表明しています。

伊藤忠商事グループはWECARSを設立する際、新会社に伊藤忠エネクスの40人弱を含め、50人超の再生の精鋭を派遣しています。コンプライアンスや人事評価、報酬制度などでそれぞれ委員会を立ち上げ、組織風土を改革していく予定です。

伊藤忠商事の石井敬太社長は、ビッグモーターの買収に名乗りをあげた時点で、自社だけでなく取引先や社員の利益になり、社会課題の解決にも貢献していく、伊藤忠の経営理念「三方よし」を挙げたうえで、「WECARSには、この理念が根付かないと当社のポリシーに反する」と発言しています。WECARSでビッグモーターの企業風土を変えることができるかが再建の鍵を握っているのです。

伊藤忠グループが目指す再建計画とは?

2024年5月1日における記者会見では、今後の「WECARS」について次のような計画が提示されています。

まず当面は「ビッグモーター」の看板を維持しますが、数ヵ月の期間をかけて新社名「WECARS」と同じ店名に変えていく予定です。そして2~3年後には黒字化を目指し、その後は伊藤忠商事グループがJWP保有の株式を取得する方針です。

ビッグモーターの約250の店舗網は、新たなサービス展開や顧客基盤の強化に欠かせない資産です。伊藤忠商事では連結子会社として「ほけんの窓口」も持っており、中古車販売と保険のクロスセルが可能です。また伊藤忠エクスタの傘下企業にはニッポンレンタカーがあり、レンタカーと中古車販売の相乗効果を目指すこともできます。

伊藤忠商事では過去にも、不正経理が発覚した国内最大手ジーンズメーカー「エドウィン」や、輸入車事業で失敗した「ヤナセ」などの再建を手がけた実績があります。このような藤忠商事の再建手腕には、ビッグモーターに対しても期待がかかっています。

「エドウィン」の事業再生については、こちらでも紹介しています。

注目の創業家の経営責任はどうなったか?

ビッグモーターの不祥事は連日ニュースとして報道されるように社会を騒がせました。それだけに、創業家の経営責任はどのように問われるのかが気になるところです。そこで、今回の企業買収、事業再生のスキームの中で分かったことを解説します。

創業家は経営に一切関与せず

伊藤忠商事の石井敬太社長は「創業家の問題や文化など、バッドアセット(不良資産)は引き継ぎません」と話しています。

今回の3社連合によるビッグモーターの買収は、創業家が経営に一切関与しないことが条件になっています。しかしビッグモーターでは創業家の資産管理会社「ビッグアセット」が株式の100%を所有していたため、新体制への移行後も、創業家が株式の一部を所有するなどして旧会社の運営に関わる可能性があるとみられていました。ただビッグモーターの存続会社である「BALM」はJWPが単独で株主となったため、創業家は経営から完全に退くこととなりました。

全株式を無償譲渡!訴訟費用として100億円も出資

ビッグモーター再編の過程で、旧ビッグモーターの創業者が持っていた全株式は、ほぼ無償で譲渡されていたことが分かりました。その上、創業家はBALMに対して最大100億円程度の資金を提供し、債務返済や訴訟対応の原資に充てることも決まっています。創業家は、旧ビッグモーターを破たんに追いこんだ経営責任を金銭面で補うことで「けじめ」をつけるスキームだったもようです。

2024年5月1日の会見で、伊藤忠商事の真木正寿執行役員は創業家が保有していた株式の購入額について、投資した400億円は創業家の兼重宏行前社長には流れていないと話しています。「400億円の一部は会社分割の対価としてBALMに流れますが、金融機関など債権者の返済原資になります。創業家に資金が渡るどころか、逆に創業家からも資金提供をすることで責任をとってもらうのがこのスキームです。伊藤忠商事グループの出資金が創業家の株式購入などに使われることは一切ありません」と強調しています。

守られた4200人の従業員の雇用

ビッグモーター従業員の立場から見ると、今回の企業買収、事業再生のスキームはどうなのでしょうか?

ビッグモーターの事業継承会社であるWECARSは、ビッグモーターが抱えていた約250の店舗、約130ヵ所の整備工場、さらに約4200人の従業員を継承しました。とりあえず、従業員の雇用は守られた形です。

ビッグモーターの一連の不祥事は、経営陣のいきすぎた利益至上主義・成果主義が引き金になったと見られていますが、組織風土を変えていく必要はあります。国土交通省の立入検査を受けたビッグモーター整備工場130のうち、認証、指定ともに違反なしの工場は5事業場のみ。そのほかは、車検業務の停止、文書警告、口頭注意などの処分を受けています。

財務体質だけでなく従業員の意識改革も重要視されており、今後は従業員の信頼回復が再建に向かう鍵となります。

事業、雇用を守るためには早めに専門家に相談を!

ビッグモーターでは保険不正請求などの不祥事が次々と明るみになることで、「ビッグモーターブランド」が地に落ち、一時期には売上額が最盛期の1~2割程度にまで落ち込んていたといわれています。

しかし伊藤忠商事グループが、ビッグモーターが持つ販売網や整備工場などのインフラに価値を見いだしたことにより企業買収され、本格的な事業再生が始まりました。

今回の事業再生は、会社に残った従業員4200人の雇用も守られた好例と言えるでしょう。事業、雇用を守りたいと考える経営者は、早めに事業再生の専門家への相談をおすすめします。

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