粉飾決算 逮捕の分かれ目はどこ?事例から学ぶ経営の教訓

大企業で粉飾決算が行われたことが明るみに出ると、大きなニュースになります。その度に企業倫理や監査の重要性が問われますが、粉飾決算はなくなるどころか、増える印象すらあります。

この記事では粉飾決算の事例とともに、多くの企業で粉飾決算が行われてしまう理由や、発生を抑止するための考え方などについてお伝えします。

粉飾決算についてはこちらの記事もご参考にしてください。

目次

粉飾決算とは

【世間をにぎわせた主な粉飾決算事件】

企業名 時期 粉飾の内容 逮捕者の有無
ライブドア 2004年 赤字決算を黒字に見せかけて報告書に記載 当時の社長を含め4名が逮捕
西武鉄道 2004年 持ち株比率を偽って公開していた 親会社の社長が逮捕
カネボウ 2005年 架空の売上を計上、主要取引先の債務超過額を過小報告するなど 当時の社長と副社長に加え、監査担当の公認会計士4名が逮捕
オリンパス 2011年 金融商品の巨額の含み損を長年隠し続け、不正な手法で会計処理 経営陣や外部協力者ら7名が逮捕。主犯格とされた元役員が3年近く拘留される
東芝 2015年 インフラ工事における損失引当金を過少報告するなどの違法な会計処理 逮捕者なし
日産自動車 2018年 虚偽の有価証券報告書を提出。当時の代表取締役会長が自身の報酬を少なく報告していた 当時の代表取締役会長と取締役が逮捕
エンロン(米国) 2001年 CFOの指示による不正な会計処理。監査法人や法律事務所も巻き込み大規模な粉飾を実施 CEOが24年の禁固(12年で釈放)、CFOは10年の禁固(6年で釈放)。創業者は有罪確定後すぐ死去、服役はしなかった
ワールドコム(米国) 2002年 利益が実際より多いように見せかける形で粉飾 CEOが85年の求刑を受け25年の禁固刑が確定したが2020年に死去

粉飾決算とは企業が意図的に、自社の業績や財務状況を実際よりも良く見せかける行為をさします。信用度の維持や資金調達が目的です。粉飾決算が発覚すると企業の信頼は失墜し、深刻な法的制裁や経済的損失を招く可能性があります。このため、粉飾決算のよくある手口を理解し、その防止策を講じることが重要です。

ちなみに、税金などの支払いを免れるために業績・財務状況が良くないように見せかける行為は「逆粉飾決算」と呼ばれます。

なぜ企業は粉飾決算を行うのか?

企業が粉飾決算を行う理由はさまざまですが、主な動機は業績の好調や改善を装うためです。そうすることで資金調達の容易化や株価の維持・上昇などを図ろうとします。

しかし、長いスパンでみると粉飾決算には信頼の失墜や法的リスクが伴い、企業存続に重大な脅威をもたらします。一度経験すると、さらなる不正に手を染め、次第に粉飾が当たり前になってしまう会社も珍しくありません。

歴史に残る、世界と日本の粉飾決算事例

粉飾決算というとオリンパスや東芝、ライブドアなどを思い出す方も、多いのではないでしょうか。日本だけでなく海外でも、粉飾決算はたびたび世間を賑わせ、マーケットなどに影響を与えます。

こうした大手企業のみならず、粉飾決算は中小企業でも頻繁に行われてしまうのが現状です。

社長が実刑になったライブドア事件

ライブドア事件では、創業者の堀江貴文氏が決算の虚偽報告などの罪で実刑判決を受けました。堀江氏の経営手法や株価操作、財務報告の不正が問題視され、企業統治のあり方や株式市場の透明性について考えさせられた事件です。

2006年の逮捕から翌年の裁判で社長以下4名に有罪判決が下されたこの事件は当時、日本じゅうに衝撃を与えました。

西武鉄道:持ち株比率の虚偽報告

2004年、西武鉄道が親会社のコクドと共に株式を不正に持ち合い、実際の所有構造を隠ぺいしていたことが発覚しました。

東京地検特捜部が証券取引法違反の疑いで堤義明前コクド会長は逮捕され、堤前会長とコクド、西武鉄道が起訴されました。これにより、西武鉄道は東京証券取引所から上場廃止処分を受け、経営陣は辞任を余儀なくされました。

カネボウの長年にわたる粉飾決算

1970年代から2000年代にかけて、カネボウはさまざまな手法を用いて利益を過大表示するなどの粉飾を行っていました。長年にわたり経営不振を隠し続けたものの、明治から続いた老舗企業はのれんをおろすことになり、組織は譲渡。現在は化粧品ブランドに、そのネーミングを残すのみです。

カネボウは債務超過や損失を隠した虚偽の有価証券報告書を提出したとして、証券取引法違反容疑で社長と副社長が逮捕、起訴されました。

オリンパス事件は日本企業の不正会計の闇

オリンパス事件は、日本企業における不正会計の象徴的な事例です。オリンパスは、1990年代から2000年代初頭にかけて発生した巨額の投資損失を隠すために、不正な会計操作を行い、数年間にわたり多額の損失を隠ぺいしました。

2011年、内部告発により不正が発覚します。企業の信用は大きく損なわれ株価は急落。不正発覚後、関係各所から旧経営陣に対する訴訟が続き、東京高裁にまで争いが持ち込まれることになります。

金融商品取引法違反などの疑いで、社長、副社長の他、監査役、協力していた証券会社や投資関連会社役員など7人が逮捕されました。

長期に及んだ東芝の利益操作

東芝の長年にわたる利益操作も、日本企業の財務不正の代表例として挙げられます。2008年から2014年にかけて不当な会計処理を行い、利益を水増ししていました。これにより東芝は株価急落や信用不安に見舞われます。

一連の不正から株主の信用を失い、2023年には上場廃止に追い込まれました。なお、この事件による逮捕者は出ていません。

カルロス・ゴーンによる日産自動車の財務不正

カルロス・ゴーンによる日産自動車の財務不正は、世界的な注目を集めた企業スキャンダルです。

2018年、日産の元会長カルロス・ゴーンらが、自身の報酬を過少申告し、会社資金を私的に流用していた疑いで逮捕。内部告発により不正が明るみに出たこの事件は、日産の経営に大きな混乱をもたらしました。

アメリカ史上最大の企業不正、エンロン事件

1985年の創業からほどなくして「エネルギー業界の王者」とまで言われるようになったエンロン(Enron Corporation)は、巨額の負債を隠し、実際よりもはるかに業績が良いように見せかけていました。

しかし2001年に不正が発覚するとエンロンの株価は急落し、わずか2ヶ月で倒産。企業を見張る側の監査法人アーサー・アンダーセンをはじめ、顧問法律事務所なども不正の片棒を担いでおり、監査や企業会計の信頼性に大きな影響を与えました。

通信業界の巨人・ワールドコムの崩壊

ワールドコム事件は、通信業界の大手ワールドコムが崩壊した一大事件です。ワールドコムは、2002年に内部告発で不正会計が明らかになりました。この粉飾決算により同社は信用を失い、この年の秋、破産に追い込まれました。

2001年に倒産したエンロンに続く大企業の粉飾決算による終焉は、アメリカのみならず世界じゅうに大きな影響を及ぼすことになります。

粉飾決算の露呈は氷山の一角か

実際に発覚する粉飾決算は一部に過ぎず、さらに多くの不正が隠れている可能性は高いでしょう。企業が粉飾決算に手を染める背景には、内部統制の不備や監査の限界、市場の圧力などがあります。
また、限りなく黒なのに倒産を免れたり、株式市場への上場を維持したりする企業も珍しくありません。

粉飾決算の手口とは。その手法と見破る方法

粉飾決算の手口は多岐にわたりますが、代表的なものには利益の過大・過小計上、負債の隠ぺい、会計基準の操作などがあります。これらの手法は、会計監査や内部統制の強化、情報の透明性の向上などによって明らかになります。

利益の過大計上と過小計上

利益の過大申告とは、高い利益を出したように見せかけて架空の売上を申告したり、かかった費用を少なく申告したりする、繰り延べるなどの方法があります。こうして、一時的に健全な財務状況を作り出します。

一方、過小申告は税金対策や将来の利益増加を見越して、低い利益を申告することです。これには、将来の費用を前もって申告したり、売上を控えめに計上するなどの方法があります。両者ともに財務の透明性を損ね、投資家や関係者に誤解を与えるおそれがあります。

負債の隠ぺいと資産の水増し

負債の隠ぺいは、企業が実際の負債を明らかにせず、健全な財務状態を装う手法です。負債を関連会社に移す、帳簿外で取引をするなどの手法があります。資産の水増しは、実際の価値よりも高く資産を評価する手法で、不動産や在庫の過大評価が一般的です。

会計の操作とその見抜き方

こうした会計的操作を見抜くためには、財務諸表の一貫性をチェックし、異常な変動や不自然な数値に注意を払うことが重要です。また、企業の会計方針の変更点を詳細に検討し、過去の実績との比較分析を行うことも効果的です。

信頼性の高い監査と詳細な財務分析が、不正を見破るために不可欠です。

粉飾決算がもたらす影響

粉飾決算は当該企業だけでなく、経済全体に深刻な影響を与えます。粉飾された決算が公開されれば、投資家や株主は偽の情報に基づいて行動することになります。そして、粉飾決算が発覚すると企業の信頼性は失墜、ブランド価値が低下し、市場からの信用喪失は避けられません。

そうなれば従業員の士気は低下し、内部統制の欠如が露呈します。経済全体においても、市場の透明性が損なわれ、監督機関の信頼性低下を招き、経済の健全な発展を阻害します。この章では、具体的な影響とその深刻さを掘り下げます。

株価急落など投資家や株主にも損害

虚偽の情報に基づく誤った投資判断は、株価の急落や投資資産の大幅な減少を引き起こします。また、企業の信用失墜により配当金を減少・停止せざるを得なくなり、株価の下落が生じやすくなります。投資家たちは誤った投資戦略の見直しを余儀なくされ、企業への信頼が大きく揺らぎます。

従業員や取引先からの信頼失墜

粉飾決算は従業員や取引先など、関係者にも深刻な影響を与えます。企業不正が明るみに出ることによって従業員の士気は低下し、勤務先への信頼が失われます。これにより、人材の流出や人材不足が生じやすくなります。

また、取引先や顧客との信頼関係も損なわれ、ビジネス全体に悪影響を及ぼします。さらに、企業の評判が大きく損なわれることで、新規ビジネスや契約の獲得が困難になることもあります。結果、企業の成長を阻害することになるでしょう。

景気後退で経済全体を揺るがす

粉飾決算は、経済全体にも深刻な影響を及ぼします。さまざまな企業の不正が頻発すると、市場全体の透明性が低下し、投資家の信頼が揺らぎます。資本市場への資金流入が減少し、企業の資金調達が困難になるリスクがあります。

また、規制強化や監督機関の介入が増加し、市場の自由度が制約される可能性も出てくるでしょう。さらに不正が大規模に広がると、経済全体の健全な発展が阻害され、経済成長の停滞や景気後退を引き起こすこともありえます。

粉飾決算を防ぐための対策

粉飾決算に対しては企業内外で、さまざまな対策を講じる必要があります。まず企業内部で倫理教育やコンプライアンス遵守を徹底し、透明性と情報開示を実施することで、不正行為の防止に務めます。

また、外部機関の監視、不正行為に対する罰則も有効です。地道な努力を続けることで企業の信頼性が高まり、市場全体の健全性の維持につながるでしょう。

内部統制の重要性

内部統制は、企業が透明性を保つために最も重要です。効果的な内部統制システムは、不正行為の予防と早期発見につながります。具体的には、職務の健全な遂行、定期的な監査、法令遵守プロセスなどが挙げられます。

また、従業員への倫理教育やコンプライアンス研修を通じて、不正に対する意識を高めることも重要です。内部統制の強化により、企業は透明性と信頼性を高め、健全な経営が維持しやすくなります。投資家や関係者の信頼も得られ、持続可能な成長が促進されるでしょう。

監査の強化

監査は粉飾決算を防ぐ重要な手段ですが、完全な防止を保証するものではありません。監査人の能力や専門性、企業側の努力などの条件が揃っても、全ての不正を見抜くことは困難です。特に、隠ぺい型の不正や経営陣の故意による操作は、やはり見つけにくいでしょう。

さらに、監査費用や時間の制約、情報の不足なども課題です。企業自身の内部統制の強化や倫理意識の向上、市場全体の透明性の向上など、多角的なアプローチが必要です。

法的措置と制裁

粉飾決算に対する措置と制裁は重要な抑止手段ですが、十分な効果が得られるとは限らないでしょう。不正行為の発覚から訴訟等を通して、適切な制裁が決まるまでには多くのプロセスが必要です。

また、制裁の厳格さなどにも課題があります。方法の枠組み統一や適用範囲の拡大など、企業や経営者に対する強力な抑止力が求められます。

粉飾決算には、どんな罰則があるのか

粉飾決算をしたからといってすぐさま、何かの罪に問われるわけではありません。しかしひとたび明るみに出ると、企業や関係者には厳しい制裁が加わります。たとえば赤字決算の隠ぺいが発覚すれば、刑事罰や民事責任などが問われます。そのような状況になれば経営者は懲役や罰金、追徴課税、損害賠償などを負わなければなりません。

粉飾決算の発覚後:企業はどう対処するべきか?

粉飾決算が発覚した場合、企業はまず事実関係を徹底的に調査し、問題の根本原因を特定する必要があります。同時に、外部の第三者機関や監査人と協力し、柔軟な情報開示と透明性を確保することが肝要です。

さらに、従業員に対する倫理教育や適切な研修を徹底し、再発防止体制を整えることも不可欠です。これらの策を講じることで企業は信頼を回復し、持続可能な成長を再び模索できるようになります。

リスクマネジメント体制の再構築

粉飾決算の発覚後、企業はリスクマネジメント体制を再構築する必要があります。具体的には不正行為の早期発見と、防止のための内部監査体制の強化が求められます。さらに、リスク評価の見直しと適切なリスク対策の策定、コンプライアンスの徹底、透明性の高い情報開示などが求められます。

また、外部の専門家やアドバイザーとの連携を強化し、経営陣や従業員の倫理意識を高める取り組みも欠かせません。

経営陣の責任とその処分

粉飾決算の発覚後、経営陣は重大な責任を負うことになります。不正行為に関与した場合、経営者の辞任や役職の解任、法的な制裁、資産の没収、罰金の支払いなどが求められます。
さらに、企業内部での責任追及や内部処分も必要です。

信頼回復へ、長い道のりを歩む

粉飾決算が発覚したあと、企業は信頼回復のために、長く険しい道を歩むことになります。
まず、透明性と正確性を重視した財務報告を徹底し、市場や関係者に誠意を示すことが必要です。

同時に、企業の経営陣や従業員に対する倫理教育やコンプライアンス研修を重視し、不正行為を根絶する取り組みが欠かせません。

粉飾決算に対する世間の反応

粉飾決算が発覚すると、世間はさまざまな反応を示します。消費者や取引先は、企業の信用に大きな疑念を抱くでしょう。さらに、監督機関などからは不正行為に対する責任の大きさや、規制改善を求める声が聞こえてきます。株式を上場している企業であれば、投資家や株主が不信感や損失を抱えることになるでしょう。

企業は適切な対応を取り、信頼を回復する姿勢を示さなければなりません。粉飾決算に対する社会の反応には最大限、慎重な対応が求められます。

メディア報道とその影響

企業による粉飾決算が発覚すると、メディアは広く報道を行います。ネガティブな報道が広まれば、取引停止や上場規制・廃止などの具体的な影響が生じ、消費者や投資家の信頼は失墜するでしょう。

メディアは不正を暴く役割も果たします。関係者からメディアへのリークで、粉飾決算が明るみに出るケースもあります。

政府や規制当局の対応

粉飾決算が明らかになると政府や規制当局は、その企業に厳しく対応します。不正行為に対する調査を通して、金融監督機関や証券取引所が違反行為に厳しい罰則を適用することになるでしょう。

粉飾の規模が大きい場合は規制が強化され、同様の不正を防止する取り組みが行われます。政府が企業の倫理意識や透明性を促進する方針を打ち出し、不正行為を根絶するための支援を行うことも。これらの動きをふまえて規制に適合するよう、企業は努力することが求められます。

自社で対応できない場合は専門家に相談を

粉飾決算について学ぶと、企業にとって透明性・倫理性・信頼性はいかに大事かが理解できます。不正行為が明るみに出ることで、企業や関係各所が多大な損失を被るだけでなく、社会全体に大きな影響が及びます。そうならないために企業は、内部規制の強化や適切な監査、法令遵守を行うことが欠かせません。

また、企業文化として倫理意識の醸成と、コンプライアンスの徹底も重要です。過去の粉飾決算から学べる教訓を生かし、全ての企業は健全な経営と持続可能な成長を目指すべきです。

しかし、こうした取り組みを自社だけで促進することが難しいときは、早めに専門家に相談することをおすすめします。具体的に適切なアドバイスを受けることで、健全な経営基盤を強化できるでしょう

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