コロナでメインの海外事業が悪化し赤字117億円に ワタベウェディングを救った事業再生ADRとは

コロナが直撃したメインの海外事業

新型コロナウイルスの感染拡大でブライダル業界の多くは苦戦を強いられています。

2020年4月7日に政府から発出された緊急事態宣言以降、多くの新郎新婦が結婚式の延期や中止を余儀なくされました。公益社団法人 日本ブライダル文化振興協会が発表した資料によりますと、コロナ禍により2020年度に結婚式を延期あるいは中止したカップルは約28万組。ブライダル業界全体が受けた損失は2021年5月末の累計で約1兆円規模の損失としています。

ブライダル大手のワタベウェディングもコロナ禍による被害を大きく被っています。

1997年にブライダル業界として初めて株式上場したワタベウェディングは、ホテルと婚礼の相乗効果を狙い、2004年には東京・目黒にある「目黒雅叙園」、2008年には全国で10のホテルを運営している「メルパルク」を買収。海外に28拠点を展開し、海外リゾートウェディング事業にも力を入れるようになりました。

しかし2020年3月以降の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国内における婚礼の多くはキャンセルや延期となってしまいました。

さらに、ワタベウェディングの売上高の約半分を占める海外リゾートウェディングについても、海外渡航制限により、ほとんどが中止という事態に陥ることで経営状況が悪化2020年12月期の連結最終損益は117億円の赤字となり、2020年12月末時点で約8億円の債務超過を抱えることになりました。

この結果を受けてワタベウェディングでは事業再生ADRを申請し、2021年3月19日に受理されました。このワタベウェディングを引き受けたのは、ホテル事業などを手掛ける興和株式会社です。

同社が20億円を出資し、ワタベウェディングが第三者割当増資で発行する新株を引き受け、同時にワタベウェディングが既存の自社株式をすべて回収し興和に売却することになりました。

このような一連の手続きを経て、2021年6月末に興和はワタベウェディングを完全子会社化し、経営再建を主導していくこととなりました。

海外挙式の先駆けワタベウェディングのこれまでの歩み

太平洋戦争が終戦を迎えた1945年のこと。復員兵が続々と日本へと帰還し、戦時中に結婚式を挙げることができなかった若者たち中心にブライダルブームが沸き起こったのです。

そこで花嫁や両親の間には、「せめて花嫁衣裳は着せてあげたい」「晴れ着を着た写真を残しておきたい」という思いが募っていきました。

しかし物が不足していた終戦直後は肝心の晴れ着がありません。

このような相談を受けたワタベウェディング創業者である渡部フジ氏は、自らが持っていた花嫁衣裳を「喜んでいただけるのなら」と無償での貸し出しを行ったのです。

この噂は街中の評判となり、親戚や友人にまで協力を求めて多くの振袖などの花嫁衣裳を用意。1953年にはワタベウェディングの前身となる「ワタベ衣裳店」が創業されたのです。

会社概要

国内71拠点・海外28拠点(2021年5月1日現在)のネットワークを持ち、顧客に心から満足してもらえるブライダルサービスのサポート体制を整備しているのが、ワタベウェディングです。

総合ブライダル企業として、このようなグローバルのネットワークを活かし、国内・海外挙式からハネムーンまで、ブライダルに関するあらゆるサービスを多角的に展開しています。

世界中の顧客に対して「最高の満足、最高の感動をどう提供できるか」を常に考えながら、「日本のワタベウェディング」から「世界のワタベウェディング」へと成長していけるよう、グローバルな視点と機動力を持ちながら今後はさらなる飛躍を遂げようとしています。

沿革

ワタベウェディングは、1953年に渡部フジ氏が自身の花嫁衣裳をボランティアで無料貸し出しすることをきっかけにして創業したワタベ衣裳店がルーツです。

1964年10月 有限会社ワタベ衣裳店を設立する
1971年4月 有限会社ワタベ衣裳店から株式会社ワタベ衣裳店へと組織変更する
1973年9月 海外店舗の第1号店としてアメリカ・ハワイにホノルル店を開設する
1989年10月 アメリカ・カリフォルニアにワタベ・ユーエスエーINC.を設立。以降、アメリカ、ヨーロッパ、中国、ベトナム、韓国などへ続々と海外拠点を設立する
1993年4月 ウェディングドレスのオーダーシステムを導入する
1996年8月 株式会社ワタベ衣裳店からワタベウェディング株式会社へと社名を変更する
1997年12月 大阪証券取引所第二部および京都証券取引所に上場する
2000年11月 東京証券取引所第二部に上場する
2003年12月 沖縄県那覇市に沖縄ワタベウェディング株式会社を設立。沖縄での店舗営業と挙式施設運営をスタートする
2004年3月 東京証券取引所第一部および大阪証券取引所第一部へと指定変更を行う
2004年5月 目黒雅叙園の運営会社である株式会社目黒雅叙園の株式66%を取得し子会社化を行う
2005年1月 株式会社目黒雅叙園の残り34%の株式を取得し完全子会社化する
2008年10月 財団法人ゆうちょ財団からメルパルク事業の譲渡を受け、全国11カ所のメルパルク施設運営をスタートする
2021年3月 ホテル事業などを手掛ける興和株式会社がワタベウェディングの全株式を取得。興和の完全子会社となる

事業紹介

ワタベウェディングでは、ブライダルに関する様々な事業を多角的に展開しています。

リゾートウェディング事業

1973年のハワイ進出以来、日本にはないロケーションと日本品質の“おもてなし”を大切にしたサービスによって、リゾートウェディング取扱組数No.1の実績を誇ります。また、顧客ニーズの多様化などを背景に 2003年には沖縄へと進出し、国内リゾートウェディングも手がけています

国内挙式事業

2004年に目黒雅叙園をグループに加え、婚礼を基軸とした施設再生・活用ノウハウを培っています。 2008年にはメルパルクがグループの一員となり、地域に根ざしたブライダルサービスの提供を行っています。

2018年4月には、グループ内のハウスウェディング部門を集約したクレッシェンドプロデュースと目黒雅叙園が合併。ホテル事業と婚礼プロデュース事業の連携を密にしたブライダルサービスも強化しています。

衣裳事業

創業以来手がけている衣裳事業では、花嫁の魅力を引き出すサイズオーダーのオリジナルブランド「Resoll Collection」をはじめ、国内外のブランドとコラボレーションしたオリジナルセレクションやシーン、スタイルに合わせた豊富なラインナップにより、ウェディングを輝かせる一着との出会いを提案しています。

映像・写真事業

新郎新婦の愛の誓いや出席者の祝福の笑顔など挙式の模様を収めたアルバムやDVDを制作するために、 上海アルバム工場と沖縄DVDセンターを設立。製販一貫体制を実現しています

アジア事業

日本人の持つホスピタリティや、ワタベウェディングがこれまで培ってきた幅広い婚礼ノウハウを最大限に活用。成長著しいアジア市場への積極的な開拓を図っています。

ワタベウェディングが行った事業再生ADRの内容

ワタベウェディングは2021年3月19日、事業再生ADRを申請し受理されました。ホテル事業などを手掛ける興和が20億円を出資し、ワタベウェディングは第三者割当増資で発行する新株を引き受けることとなっています。

興和の完全子会社に

団塊ジュニア世代の婚礼適齢期がピークを過ぎた2000年以降、国内のウェディング市場は晩婚化や少子化などの影響により縮小傾向が続いていました。

さらに、リゾート挙式を現在の事業の柱としていたワタベウェディングにとって、2020年3月以降に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響は甚大なものとなりました。婚礼、宿泊、飲食、旅行など、ワタベウェディングのすべての関連事業が直接的な悪影響を受け、 2020年12月末時点で約8億円の債務超過を陥るなど、厳しい財務状況にあったのです。

当時のワタベウェディングでは、2021年春にもコロナ禍が収束し海外渡航が再開すると見込んでいましたが、日本国内における新型コロナウイルス感染拡大の第3波が襲ってきたことでその目算も狂い、自力再建は無理と判断。そこで2021年3月19日に事業再生手続ADRの申請を行い、同日に受理されました

そして、事業再生手続ADRが2021年5月27日付けで成立したことを受け、取引金融機関6社からの借入金185億円の49%に相当する90億円の債務免除を受けるほか、残債務の弁済猶予を受けることが決定しました。

ワタベウェディングの事業再生ADR手続きが成立した同日には興和からスポンサー支援を受けることが決定。興和の完全子会社となることを目的として出資契約が締結されました。 2021年6月末には、ワタベウェディングの完全子会社化が完了する予定となっています。

愛知県名古屋市に本社を置く興和は、メーカー機能を併せ持つ専門商社です。メーカー部門では、医薬品も取り扱っており、「キャベジンコーワ」や「コルゲンコーワ」「バンテリン」などのテレビCMでもお馴染みとなっています。

同社ではホスピタリティ事業も展開しており、愛知県で名古屋観光ホテルやナゴヤキャッスル、アメリカ・ハワイでESPACIO THE JEWEL OF WAIKIKIといったホテル事業を展開しています。

このようにホスピタリティ事業を手がける興和にとって、ワタベウェディングが持つ海外婚礼ノウハウと組み合わせることでシナジー効果を生むことが可能です。ワタベウェディングを完全子会社化することは両社にとってメリットがあり、Win-Winの結果を生むといえます。

完全子会社化までのスキーム

ワタベウェディングが興和の完全子会社化となるまでのスキームの流れは以下の通りとなります。

第三者割当方式で新株を発行し総額20億円の資金を調達

第三者割当の方法により、1株当たり払込金額40円で5,000万株の新株を発行。その新株を興和が引き受けることで、ワタベウェディングは総額20億円の資金を調達します。

興和を割当先とする第三者割当による普通株式の発行実施後には、主要株主である千趣会、寿泉、ディアーズ・ブレインの3社は保有株式の一部を無償でワタベウェディングに譲渡しています。

さらに、ワタベウェディングの株主を興和のみとするために、ワタベウェディングの株式500万株を1株に統合した上で、既存株主が保有するワタベウェディング株式1株当たり180円での買い取りを行います

ワタベウェディングの市場株価は2021年3月18日現在で株式1株当たり407円でしたが、中立な第三者である赤坂国際会計からは、1株当たりの公正な株式価値として0円から44円という株式価値が算定されています。加えて、第三者委員会から本スキームが株主不利益ではないとの意見をもらっています。

本スキームで既存株主に交付する株式1株当たり180円という金額は、ワタベウェディングの事業見通しなどから公正に算定される株式価値と比較して一定のプレミアムを付与したものであり、不当に低額過ぎるとはいえないものとなっています。

リスク拡大を防止し事業継続を図る観点から興和の完全子会社に

ワタベウェディングの足下の経営環境が極端に悪化している中で、資本増強を行い、手元資金を確保することで、さらなるリスク拡大を防止し事業継続を図るという観点から、既存株主に公正・妥当と考える金額を支払うことで上場を廃止し、興和の完全子会社となる道を選んでいます。

なお、取引金融機関の残高維持への同意により、ワタベウェディングの今後の資金繰りには問題は生じないこととなります。万が一にでも事業再生ADR手続期間中に資金繰りに不安が生じることのないよう、メインバンクである三菱UFJ銀行の協力を得て、 手続期間中の資金繰り確保に十分と考えられる極度額10億円の当座貸越極度契約も締結しています。

全事業を継続、アフターコロナの巻き返しも計画

ワタベウェディングではコロナ禍が収束した後の収益回復に備えていくため、既に「WATABE Sustainable Plan」を策定しており、それまでの全事業を継続しつつ2020年から先駆けて以下のような施策を実行しています。

  • 不要不急の設備投資だけでなく新規投資まで含めた凍結
  • 売却総額30億円にもおよぶ自社保有資産の売却
  • コロナ融資など金融機関からの支援
  • 事業のダウンサイジングなどによるあらゆるコスト削減の実施
  1. 役員報酬減額をはじめとした人件費の抑制
  2. オフィステナント賃貸料の減額交渉
  3. 外部委託コストや広告宣伝費の抑制 など
  • リゾート挙式海外エリアを再編し主力エリア以外の一部エリアを閉鎖
  • リゾート挙式国内販売店舗を再編し直営店11店舗をクローズ
  • セカンドキャリア支援制度を利用し希望退職者を募集。2020年12月末現在で従業員126名が退職

今後、ワタベウェディングでは、関連するあらゆるシーンにおけるデジタル化を推進した「リゾート挙式」や、地元利用促進策および施設特徴を活かしたブランド戦略を推進する「ホテル国内挙式」など、アフターコロナを見据えた事業戦略の展開を行っていこうとしています。

海外一部エリアの閉鎖や直営店一部のクローズ、希望退職者募集などのリストラを行う一方で、すべての事業を中断させることなく継続できたのは、事業再生ADR手続きを進め、興和からスポンサー支援を受け、その完全子会社となることを目的として、出資契約を締結できたことが大きな理由となっています。

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