2021年01月07日
目次
事業再生には2つの方法がある
事業再生って何をしたらいいの?どんな方法がある?どうしたら事業を立て直すことができるの?……そんなお悩みはありませんか?
この記事では事業の失敗に悩まれている経営者の方、顧問先から相談を受けられている弁護士や税理士の方のために、事業再生の方法やメリット・デメリットについて解説します。
事業再生は大きく分けて裁判所を介して法的な手続きを進める「法的再生」と、自分で債権者と調整しながら再生を目指す「私的再生」の2種類があります。
基本的に私的再生からスタートして、交渉が行き詰まったら最終手段として法的再生を選択するのがベターです。
私的再生とは
私的再生では裁判所が介入することはありません。債務者が債権者全員に返済方法や返済条件などの変更に応じてもらえるよう交渉します。合意が得られたら新しい返済計画に基づいて債務を履行しつつ、事業の立て直しを図ります。
法的な手続きとは異なり合意を取り付けるまでに決まった手順があるわけではありません。話し合いの場を設けて理解を得ていくことが重要です。
法的再生とは
法的再生では裁判所に申立てを行って債権者と調整しながら再生を図っていきます。民事再生、会社更生、特定調停などの手続きがあり、会社の状況に応じて選択します。
いずれも裁判所が介在することで法的拘束力が生じますので、債権者全員から同意が得られていなくても事業再生を進めることは可能です。
私的整理 | 法的整理 |
---|---|
・裁判所の介入がない ・債務者が債権者に返済方法を交渉する ・債権者に合意を得られたら計画を進める |
・裁判所に申し立てをする ・民事再生など会社の状況に合わせて選択する ・法的拘束力がある |
事業再生と企業再生の違い
事業再生は会社の数ある事業の中の特定の事業の再生を目指すこと、企業再生は会社そのものの再生を目指すことを指します。
しかし、経営状態を改善するという意味では共通しているので、あえて厳密に区分けする必要はありません。
ほぼ同じものだと捉えてください。
私的再生の方法について
私的再生では「私的整理ガイドライン」「中小企業再生支援協議会」「事業再生ADR」という3つの方法が使えます。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
私的整理ガイドライン
経済団体連合会や全国銀行協会などから構成される研究会が発行した「私的整理ガイドライン」に基づいて再生を進めます。
ガイドラインを運用するにあたって経営者と株主が責任を持ち、再建計画成立後翌期より3年以内を目処とした実質債務超過の解消および経常利益の黒字転換を目指します。そのため、大幅な債務免除や資本増強措置を受けることが可能です。
債務者は主要債権者に対してガイドライン手続きを申し出て、「過剰債務により自力再建が困難であること」「債権者の支援により再建の可能性があること」などの要件を満たしていたら手続きが開始されます。
引用:「私的整理に関するガイドライン」私的整理に関するガイドライン研究会(平成13年9月)
中小企業再生支援協議会
産業活力再生特別措置法に基づいて経済産業省から委託を受けた商工会議所や産業支援センター、産業振興センターといった支援機関のサポートを受けながら事業再生を目指します。
各機関に常駐する専門家に相談でき、再生計画の作成、金融機関への支援要請や債務調整、計画策定完了後のフォローなど、さまざまな支援を受けられます。
参照:中小企業再生支援協議会
事業再生ADR
紛争が起きた際に裁判所を介入させることなく、話し合いベースで解決を目指します。ADR法(参照:裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)に基づき法務大臣の認可を得た 事業再生ADR事業者が介入して紛争解決や事業再生の手続きを進めます。
企業再生ADRの手続きが開始されると債務が一時停止され、債権者会議などを開いて債権者と協議し、合意が得られれば私的整理が成立。再生計画を実行していきます。
法的再生の方法について
法的再生には「民事再生」「企業再生」「特定調停」の3種類があります。それぞれ特徴を見ていきましょう。
民事再生
再生債務者の再生を迅速に行うことを目的とし、裁判所が選出した監督委員に監督に従って債務者自身が事業の再生を図る手段です。
裁判所に申し立てを行うと審査が実施され、通過すると手続き開始となります。債務届け出、財産目録、賃借対照表、再生計画案(事業計画や返済計画)を裁判所に提出します。
債権者集会を開き、議決権行使者の過半数の同意、かつ議決権総額の2分の1以上の多数で承認されれば再生計画について裁判所から認可が下り、再生を図っていくことになります。
企業更生
司法が介入して広く関係者の権利調整を行いながら抜本的な再生を目指す手続きです。民事再生と同様に裁判所が介在する手法ですが、大きな違いは経営者や株主が退任しなければならない点です。
裁判所が選出した再生管財人が裁判所の監督を受けながら事業の再生を図ります。
民事再生よりも債権者の人数が多い大企業などでよく選択される手法です。
特定調停
裁判所が介入して債務者と債権者その他利害関係人と調整を行う方法です。裁判官と選出した調停委員からなる調停委員会が債務者(申立人)から調査を行います。
その後、申立人と債権者、調停委員会のメンバーが合議して新たに返済計画を作成し、事業の再生を図っていきます。
私的再生のメリット・デメリット
私的再生、法的再生それぞれに良い点もあれば悪い点もあります。まずは自力で事業再生を進める私的再生のメリットとデメリットについて考えてみましょう。
私的再生のメリット
信用力低下の防止
社会的な信用が低下すると新たに借り入れができないなどのデメリットがあります。
私的再生は裁判所を介さないため手続きを行った旨あるいは内容が外部に漏れるリスクが低く、再生を行ったことが履歴に残らないため社会的信用が低下する心配も少なくて済みます。
スピーディーな解決
法的再生はいずれも裁判所に申し立てを行って必要書類を作成し、所定の手続きを踏まなければなりません。そのためどうしても時間がかかる傾向があります。
私的再生は多くの手続きを要する法的再生よりもスピーディーに再生できる可能性があります。
特に債権者の人数が少ない、合意を得られているケースでは、その違いが顕著です。
費用の抑制
法的再生は予納金(裁判所に納める、手続きに必要な費用)や弁護士費用がかかります。
私的再生であればそういった費用はかかりません。
会社の資金が不足している状況においてはかなり大きなアドバンテージと言えます。
私的再生のデメリット
債権者との交渉
私的再生で難しいのは債権者からの合意を得ることです。
自分で話し合いを進め、法的拘束力もないため、調整が失敗するリスクもあります。債権者に理解してもらえる返済計画の立案や高い交渉力が必要です。
透明性・公平性が担保されない可能性
裁判所を介さず自力で交渉するとなると協議の内容がどうしても公平性や透明性に欠けるものになりがちです。
内容が債務者にとって不利になってしまう、債権者同士に差が出て紛争につながるといったリスクも伴います。
法的再生のメリット・デメリット
続いては裁判所が介入する法的再生のメリットとデメリットを見ていきましょう。
法的再生のメリット
事業再生実行に移行しやすい
法的再生の強みはなんと言っても裁判所が介入してくれて法的拘束力が伴うことです。
債務者は裁判所の決定に従わなければいけません。手続き中も一時的に債務を免除されます。
あくまで債権者に任意で返済条件の変更や猶予を交渉する私的再生よりも確実性は高いです。
経営権を失わずに事業継続が可能
会社更生は管財人が経営を引き継ぐため経営者は経営権を失いますが、民事再生や特定調停であれば経営権を失うことはありません。
裁判所の決定に従って債務を履行しつつ、引き続き経営者として会社の再建を図ることができます。
再生手続きの透明性
法的再生は裁判所が第三者として協議の内容の透明性や公平性を担保してくれます。
そのため不正や紛争などのリスクを最低限に抑えることが可能です。
法的再生のデメリット
多大な時間と労力がかかる
裁判所への申し立てや手続きを行っても受理されるまでにどうしても時間がかかります。
手続きに必要となる書類も膨大で作成するだけでも手間がかかります。そのため、再生までに時間と労力がかかります。
信用を失うリスク
裁判所で手続きを行うと、その旨が公になり、再生した履歴も残ります。
社会的信用度が低下して新たな借入ができなくなったり、風評被害が発生して顧客との取り引きに支障が出たりするリスクが考えられます。
私的再生と法的再生を選ぶ基準
以上のようなメリットとデメリットがあることを理解した上で、自社の状況に合った再生方法を選択しましょう。
また、債権者の性質も考慮する必要があります。債権者の人数が少ない、再生に協力的であれば私的再生でも良いかもしれません。
逆に債権者の人数が多い・理解が得られていない場合は強制力がある法的再生を選択したほうが良い場合もあります。
自社に適した再生方法を活用し事業再生を実現
事業再生を行う上でまず重要なのは「どんな方法を選択するか?」ということです。
手段を間違えると事業再生に失敗してしまったり、再生までに莫大な時間がかかったりといったリスクが考えられます。
とはいえ、なかなか判断が難しい面がありますので、まずは事業再生の専門家に相談してみましょう。会社や債権者の状況などを的確に見極めて最適な方法をアドバイスしてくれるはずです。もちろん、 再生の手続きもしっかりとサポートしてくれます。
ますは一人で悩まず、コンサルタントなど事業再生のプロに相談してみましょう。