2024年05月28日
帝国データバンクの調査によると、厚生年金や健康保険などの社会保険料への支払い負担に耐えかねて経営に行き詰まる「社保滞納」による倒産が急増しています。これはコロナ禍における特例措置や支援策がアフターコロナに入って縮小したことに加え、物価高の影響も重なったことで中小企業を取り巻く負担が大きくなっているのが大きな原因です。
本記事では、その原因によって引き起こされる「社保滞納」が企業に与えるリスクについて、具体的な事例を交えて詳細に解説します。
目次
社保滞納とは
「社保滞納」とは、企業が手元の資金が足りなくなり従業員の社会保険料を支払えないことを意味しています。
厚生年金、健康保険、子ども・子育て拠出金などの社会保険料は日本国全員が加入者一人ひとりとなり、下記に該当する従業員数101人以上の企業(2024年10月10月からは従業員数51人の企業)が決められた額を支払う義務があります。
【企業における社会保険の加入対象者】
- ■学生ではない
- ■所定内賃金月額が8万8,000円以上の従業員
- ■週の所定労働時間が20時間以上を超える従業員
- ■雇用見込みが2カ月間を超える
仮に、日本に存在する世の中の企業全てが社保を納付しなくなれば、国が成り立ちません。公的保険である社会保険料は、税金とともに企業として納付が必須になるものとなっています。もし、納付状況に不安があれば、早めに事業再生コンサル会社へ相談をしましょう。
社保滞納すると、企業はどうなる?
社会保険料は毎月しっかりと国へ支払うことで従業員を守り、かつ世の中に貢献するものです。従業員を雇う立場、従業員として雇われる立場、いずれの立場であっても、社会保険のことについてしっかり理解しておきましょう。
そこで本記事では、企業が「社保滞納」をしてしまうとどうなるのかを具体的に説明していきます。
年金事務所から電話で催促
社会保険料の納付期限は毎月月末です。その時点で社会保険料が未納の場合、納付期限を過ぎてから1週間後くらいに年金事務所から支払の催促電話がかかってきます。その際に担当者の訪問で指導が入ることや、年金事務所への来所を求められる場合もあります。
なおこの時点では実害は被りませんが、社内の関係部署や一部の社員は対して社会保険料の納付が遅れていることが知られるようになります。
支払いがなければ、日本年金機構から督促状が郵送される
社会保険料の納付期限を過ぎてから1週間後くらいに、支払の催促電話と同時に日本年金機構から督促状が届きます。この催促を受けて、未納金の支払いを済ませれば問題はありません。
延滞金が発生する
(出典:日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20141219-02.html )
電話がかかり催促状が届いた時点では、催促状に記載されている納付期限までに社会保険料を支払えば延滞金は発生しません。しかし、この期限を超えてしまってからは延滞金が発生します。
延滞金の額は納付期限翌日から納付日前日までの日数に応じて決まる租税特別措置法に基づいて前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合です。具体的には、財務大臣が告示する割合に年1%の割合を加算した額になります。
令和6年1月1日から令和6年12月31日については延滞税特例基準割合が1.4%であり、納付期限の翌日から3カ月を経過する日までは2.4%、納付期限の翌日から3カ月を経過する日の翌日以降は8.7%となっています。
それでも支払わなければ年金事務所による財務調査へが入る
それでも社会保険料が支払わなければ、年金事務所による財務調査が入ります。この調査では企業の代表者の資産(不動産・現金・預貯金など)や収益力、売掛金、負債状況などの財務状況について、くわしい聞き取りがされます。
財務調査後、場合によっては強制捜査へ
財務調査はあくまでも任意で行われるものです。しかし、財務調査で状況が把握できない、成果が出ないといった場合には強制力を持った捜査に切り替わります。
この強制捜査となると企業の代表者宅への立ち入り調査や、取引のある金融機関への残高調査、さらには取引先への訪問などの徹底的な捜査が行われます。
強制捜査後、支払わなければ財産を差し押さえ
この強制捜査により差し押さえられる財産があった場合には、差し押さえが行われます。差し押さえが執行される前には予告通知が届きますので、この時点で滞納していた社会保険料を延滞金とともに支払うと差し押さえも回避できることもあります。ただ、それを無視してしまうと強制的に財産が差し押さえられることになります。
差し押さえられた財産で、滞納している社保を強制的に支払うことになります。財産を差し押さえられることで、事業の存続は困難となるのです。そうならないためにも、事業再生に強いコンサル会社に相談することをおすすめします。
財産差し押さえの情報は拡散しやすい
財産が差し押さえられたとしても、事業の存続はできるかもしれません。しかし財産差し押さえのような、企業のネガティブな情報は社内外に対してすぐに拡散します。
このようなネガティブ情報が広まることで、銀行などの金融機関からの融資がストップすることも考えられるほか、取引先との取引が停止することも時間の問題になります。
雇用している従業員がいればその全員を不安に陥れることになり、退職を選ぶような社員も発生するはずです。
事業継続が困難になる
「社保滞納」をすることで取引先や銀行が会社から離れていくことになります。
会社に従業員がいれば、労働組合などを通して経営者変更や事業譲渡などを求めてくる可能性もあります。その後、社会保険料の延滞金を支払い、経営努力で財務状態が健全に戻ったとしても、社会的な信用を回復することは難しく、以前ほど商品やサービスが売れなくなり「顧客離れ」の影響が続くようになります。
社会保険料の支払いが困難になった場合は専門家に相談し対策を
社会保険料の支払いが困難になったときは早めの対策をしていく必要があります。そこでまずは事業再生に強いコンサル会社に相談をすることを考えましょう。
コンサル会社に相談することで、自社に最善の策を導き出してくれるはずです。
納付の猶予期間を申請する
社会保険料の支払いが一時的に困難となったときには、年金事務所に対して支払いの納付猶予申請を行うことも一つの策です。
申請には天災や著しい業績悪化などの条件がありますが、その条件を満たせば納付期限から原則として1年以内の猶予、最長で2年の猶予が認められます。その際でも事業再生の専門家から社会保険事務所に掛け合ってもらうことで、スムーズに申請ができます。
分納する
猶予申請が認められると、その分の社会保険料は分納という形で支払うことになります。その猶予期間中は毎月分割して支払う「分納」という形となりますが、通常の月々の社会保険料とダブルで支払う必要が出てきます。そこには注意してください。
猶予期間ができても支払えなければ倒産を覚悟
猶予期間ができても社会保険料を支払うことが難しくなってきたら事業をたたむことを検討する必要が生じ、事業の譲渡や廃業などを選択肢に入れる段階となってきます。
その際、株式会社のような法人破産の場合、社会保険料を支払う義務は面積されます。ただし、合名会社や合同会社の無限責任社員や個人事業主の場合、支払う義務は免責されませんので注意が必要です。
そこでもし、社会保険料の支払いができずに取返しが付かなくなりそうなときには事業再生の専門家への相談をおすすめします。
【社保滞納破産事例】一世紀近くの歴史を持つ老舗・富士印刷が破産
堅実な企業が破産し倒産したのは2024年3月15日のことでした。関係各所やネットニュースをにぎわせていたのは、破産したのは戦前から90年以上続いていた老舗町工場の富士印刷(東京都墨田区)だったからです。
百貨店でも贈答用の「のし紙」を中心に包装紙や伝票、パンフレット、ポスターなどを作り続けていた富士印刷が、負債5億円を抱えて破産したのには、得意先である百貨店業界の不振やコロナ禍の影響など、多くの理由が複合的に絡み合っています。しかし倒産の最後の引き金は「社保滞納」が引いたのです。
需要減にともない、近年は売り上げが低迷
紙需要の全体的な減少という時流の変化にともない、富士印刷の売り上げは年々減少傾向にありました。それがさらに、2020年に発生したコロナ禍の影響によって赤字となり、2003年8月期の年売上高9億5000万円から2021年8月期の年売上高4億9000万円まで落ち込むことになります。
さらに、仕入れ価格の上昇分を販売価格に転嫁しきれなくて採算も悪化。債務超過状態が続いていたのです。
経営を継続するもコロナ禍からの回復時、社保滞納が足かせに
それでもゼロゼロ融資で資金繰りをつなぎ止め、コロナ禍が収束したことによって2023年8月期の年売上高は5億7100万円へと回復するまでになっていました。そこで売上高が回復してきた百貨店中心に一定の受注を確保しつつ、経営のスリム化や新事業への取り組みなどを進めていくことでさらなる売上高の回復に持っていけるはずと考えていた同社。そのもくろみを大きく狂わされたのが、コロナ禍の間に膨らんだ税金や社会保険料の支払い負担だったのです。
コロナ禍の特例措置として支払いを猶予していた金額は社会保険料を中心に総額4000万円となっていたが、その返済を行うために会社自体の資金繰りは急速に逼迫。2024年3月10日付の決済資金が確保できずに事業を停止し、倒産に至ることになります。
社会保険料は可能な限り期限を守って支払いを
アフターコロナ下においてゼロゼロ融資への返済と相まって「社保滞納」がネックになり、倒産に追い込まれる事例はこれからも増えていくでしょう。
富士印刷のような極端なケースは多くはありませんが、「社保滞納」による倒産が起こりうることを知識として知っておく必要はあります。事業再生の専門家へ早めに相談することで、解決の糸口を探し出すことができるでしょう。
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