【元銀行員が語る事業再生のリアル】経営者が知りたい事業再生の本質とは

2025年12月11日

銀行は「時間」を、コンサルは「再生」を売る。それぞれの役割と限界

事業再生に興味がある場合、銀行と事業再生コンサルのどちらに相談すればいいのですか?

結論から言うと、中小企業が本格的な事業再生を目指すなら、経営コンサルへの相談が必要です

観点 銀行 事業再生/経営コンサルタント
主な役割 「時間」の提供(金融支援) 「再生」の支援(経営改善)
第一義の目的 債権の保全(貸したお金を守る義務) 企業の存続・成長(会社を立て直す)
注力分野 お金の流れ(財務状況、返済能力、担保) 経営の本質(経営体制、事業性、収益構造、資金繰り)
主な手段 リスケジュール(返済猶予)が中心 デューデリジェンス(実態調査)、事業計画策定、実行支援
立ち位置 債権者(利害関係人) 債務者側だが中立的(客観的な外部専門家)
限界 事業そのものへの介入(ノウハウ・マンパワー不足、利益相反の懸念) 資金の直接提供(融資はできない)

案件や状況に応じてどちらに先に相談されても構わないと思います。
事案の状況によっては銀行からコンサルタントを紹介してくれるケースもあります。
また、小規模企業で財務内容もシンプル、借入が信用保証協会を利用したものだけなのであれば、リスケのためにコンサルを関与させなくても銀行はリスケに応じてくれると思います。

銀行の事業再生というのは、コンサルがやっているような事業再生とは異なります。預金を運用している「預金等受け入れ金融機関」として銀行は自分たちの債権を守る、「善良なる管理者としての注意義務」の全うが第一義にあります。初期段階の先行きに確証のない段階での金融支援は返済猶予が事実上限界点なのです。

この先、返済ができるかどうか確証の持てない状況の取引先に無担保で新規融資というのは、一般的にはハードルが高いですし、もちろんビジネスマッチングなどで売上改善のお手伝いもやりますが、相手先に対する紹介責任がついてまわります。M&Aの仲介、債権放棄なども、ともすれば利益相反に注意しなければならないケースもあります。

また、銀行が直接事業計画の策定するには、ノウハウやマンパワーの面で限界がありますし、取引先との利害関係人である以上、外部から見た場合に恣意性を疑われる余地もないとは言えません。特に金融機関調整が必要な場合、他行から計画策定に関与した銀行が自行に都合のよいように恣意的に策定しているのではないかといった疑いを持たれてしまう可能性も否定できません。

そこに、債務者側ではあるが中立的な「外部専門家」(=コンサルタント)が関与することで、客観的で恣意性のない分析と計画策定で先々の道筋を示してもらい、銀行はそれを拠り所として次の支援を検討して行くことが出来るようになります。

特に、粉飾や不適切会計等があった場合には、銀行は公認会計士による財務デューデリジェンスを要求するのが一般的ですし、金融機関調整を要する事案や銀行に抜本的な負担を要請する際には外部専門家の関与はむしろ不可欠です。事業再生事案において、銀行とコンサルタントは協働する関係とも言えるでしょう。

要するに、銀行による「窮境時の事業再生」は、中小企業に時間を提供することが限界点で、伴走しながらの事業そのものの再生を支援できるのは事業再生コンサルタントの領域と言えます。

そして、何よりも、孫子兵法「彼を知り己を知れば百戦してあやうからず」です。金融機関の事情や思考を理解したコンサルタントが介入することで「彼を知り」、コンサルタントの分析により「己を知れば」が補完できます。そうなれば「百戦あやうからず」です

金融機関としても「会話が成り立つ」ので事情状況を把握しやすくなり判断も早くなります。ここでのポイントは「金融機関の事情や思考を理解している」、つまり場数を踏んでいるコンサルタントを選ぶことが大事です。不慣れであったり、極端に債務者寄りだったりすると、むしろ逆効果になる可能性もあります。

実際、私も銀行員時代、案件次第でよく外部コンサルタントを紹介して協業していました。

銀行から「債権放棄しましょうか」などとは言えないですからね、債務者側から言ってもらわないと。

それは意外でした…。何か裏事情でもあるのでしょうか?

そもそも銀行はあくまで金融業であり、モノやサービスを売るようなビジネスの専門家ではありません。個々の会社さん毎に「どうすれば売り上げを伸ばせるか」といったビジネススキルも時間的余裕も基本的に持ち合わせていないのです。

それに銀行の担当者は、融資業務だけをしている訳ではなく投資商品や保険商品の販売など、とにかく業務が多岐にわたりかつ投資家保護や犯収法関連の事務作業まで網羅せねばならず、多忙で手が回り切らないのも実情です。

また、銀行のお客さま同士のビジネスマッチングをする力もあるのですが、これにも躊躇しがちです。

銀行というのは、対面や風評を非常に気にする業界です。紹介責任があるので、やはり躊躇してしまうんです。例えばA社とB社をマッチングしたとします。A社の業績が悪化し納品が滞った、あるいは売掛金の貸倒が起きたとした場合に、B社から「なんでA社なんて紹介したんだ!」と自分の銀行との取引関係に影響してしまうかもしれないので、マッチングのお手伝いも躊躇しがちなんです。

ずいぶん銀行は慎重なのですね

銀行が融資に慎重になる理由は、投資ファンドのビジネスモデルと比較するとわかりやすいと思います。投資ファンドの場合、お金を出す方はリスクを承知し、投資として資金を貸し付けますが、銀行は違います。





銀行のお金は株主と預金者のものであり、安全に運用し、円滑に預金払出に応じる責務があるんです。読者の皆さんも「銀行に預けた預金が返ってこないかもしれない」なんて考えたことはないでしょう? 銀行の最優先事項はお金を安全に運用することと預金者への責任を果たすこと、これは絶対に譲れないのです。誤解を恐れずに言うと「銀行は晴れた日に傘を貸して、雨が降ったら取り上げる」とよく揶揄されますが、ビジネスモデル上は当たり前のことなんです。返ってこないお金は貸せないのですし、貸したものは返してもらわないといけないのです。

銀行と投資ファンド:ビジネスモデルとリスクの違い

金融支援における金融機関調整もそうです。「金融機関の衡平性」には拘ります。他行と比較して負担が大きいとか不利な条件を銀行は嫌います。株主、預金者になぜその条件を受け入れたのかを合理的に説明しづらいからです。

大手銀行であれば、10億円くらいの損失を出したところで銀行は潰れないのですが、いざ損失が出た場合には、その融資を決定した判断の根拠、プロセスにおいて、預金者、株主や金融庁への合理的な説明ができるのか、善管注意義務と忠実義務に不備不足はなかったか、つまりコンプライアンス面をより重視するんです。

銀行は預金者と株主、社会への責任があるため、極めて保守的にならざるを得ない。融資する際は担保や保証についつい依存してしまう傾向があるので、新規事業への融資にも慎重。評判とコンプライアンスを最重視しており、風評を損なう懸念がある冒険は避けたがる。これが現実です。

少し話が戻りますが、銀行の事業再生で3ヶ月リスケが許された場合、企業は何をすべきでしょうか?

このリスケ3ヶ月の間にやるべきことは、デューデリジェンスや事業計画の策定を行うことが一般的な流れです。要は「現状の資産負債、純資産の状況」「収益状況推移」を固めて事業計画を作ります。「ここでコストをこう下げて、売上をこう伸ばします、原価はこう下げます」、「これをすると1年後にはこれだけでの利益出ます、2年後は・・・」という具体的施策と数値を示して、3ヶ月後に再度本格的なリスケを打診するのです。

銀行が支援したがる企業と支援したがらない企業の違いはありますか?

事業再生支援は、地域経済や自行の取引基盤の維持のためにも必要なものであると心得ていますので、よほど反社であるとか公序良俗に反する等問題のある企業以外は支援するスタンス。支援したがる、したがらないというのはありませんが、ただ、違いがあるとすれば、地域経済や雇用、社会への影響が大きい企業は支援されやすいと言えます。地域密着型の企業が潰れてしまうと地域経済の打撃が大きいので銀行は手を差し出しますが、一方、特殊な技術や希少なサービスを持たない社会や地域経済等への影響が小さい零細企業への対応は支援する大義がどうしても薄くなる傾向にはあります。もっとも、銀行員にも情がありますから、自身の担当先を支援したいという気持ちは皆持っていますので、余程の事情がない限り、支援しようと銀行内部で立ち回り力になってくれるはずです。

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