【弁護士が語る事業再生】事業再生の本質とは?

事業再生 インタビュー 山崎弁護士

コロナ禍、人手不足、物価高騰などのざまざまな要因による不況の影響は、企業に対して大きな影響を与えてます。さらに、コロナ禍を乗り切るための「ゼロゼロ融資」も返済が本格化し企業倒産数は3年ぶりに増加しました。(2023年4月現在) 企業の経営に携わっている専門家の多くは、今後、倒産に陥る企業が増加すると予想しています。会社の経営状態が悪化したとき、あるいは悪化する前に倒産という最悪のシナリオを回避して経営の立て直しを図るための方法が「事業再生」です。 今回は、事業承継、M&Aなどの幅広い分野に携わり、これまで100件以上の事業再生案件を遂行してきた弁護士の山崎良太氏(森・濱田松本法律事務所所属)にお話を伺い、事業再生について、経験談を交えながら分かりやすく解説して頂きました。

【弁護士が語る事業再生】事業再生の本質とは?

弁護士『山崎良太』のバックボーン

・まずは読者の皆さんに対して山崎先生のことをご紹介するというのも兼ねて、山崎先生ご自身の事について伺いたいと思います。
山崎先生が弁護士になることを決めたきっかけや思いなどを教えていただけますか?

弁護士になろうと思ったのは、人のために役に立てる仕事をしたいと思ったという背景があって、単純化するとそういう話なんですよね。
あとは、反骨精神みたいなものが強くあったので、自分が理不尽だと思った時に組織の論理に従って我慢するようなことは無理だと思っていました。そういう理由で、個人事業的な、自分の力でできる仕事で、かつ自分が正しいと思うことや人の役に立つことができる仕事として、弁護士になりたいと決心しました。

・ありがとうございます。それでは次に、山崎先生の普段の業務について伺いたいと思います。普段、どのような内容の業務をされていますか?

いろんな仕事をやっています。裁判もしますし、事業再生から、出口としてM&Aまで関わることも多いですね。他には株主総会の指導をやったりとか、いろんな顧問先の法律問題に関してアドバイスをしています。

・その中でも特に事業再生の案件に携わっていて、やりがいを感じることを教えていただけますか?

いつも思うのは、経営者の方ってすごく孤独なんですよね。自分の人生だったり家族だったりいろんな思いを背負って経営されてらっしゃるんです。特に再生局面になると、非常にそこがフォーカスされるというか、金融機関も手のひら返したような態度を取ってきたりという場面に直面したとき、当然、社内で相談できる人がいるわけでもないですよね。自分が弱音を言うわけにいかない、という気持ちもあるかもしれない。
そういうときに、具体的に何かをするっていうんじゃなくても、その状況における他のいろんな問題意識だったりとか、その問題をどういうふうに変えて対処していけばいいのかということについて、経営者の方の手助けができるのが私たちの仕事だと思っています。
非常に苦しい局面を迎えている経営者の方の聞き役にもなり、様々な提案をできる役割はいつも担えているなっていう実感はあります。今苦しい状況にある経営者の方をサポートして、ひいては、事業だったり会社自体であったり、個人であったり、取引先だったり、その守っていくべきものを一緒に守っていくことが、この仕事のやりがいであると感じています。

・事業再生といっても様々あると思うのですが、これまで何件の事業再生案件に携わってこられましたか?

現在弁護士歴23年目で、約100件程度です。まさにいろんなステージの事業再生がありましたが、ざっくりそれくらいだと思います。

・山崎先生に依頼する会社の企業規模は、どのくらいの規模が多いですか?

年商でいったら10億円とかそれ以上が大半ではあって、再生の仕事は10〜50億円程度の中小企業がボリュームゾーンで、案件数が多いです。
それ以上の大きい規模の企業や上場企業の案件も相当数やっていますが、そもそもそういう規模の会社の再生案件自体が少ないです。もちろん10億円未満の企業もそれなりにありますが、10〜50億円くらいのところが多いですね。

・事業再生案件として伴走する期間は、概ねどのぐらいの期間でしょうか?

その会社がどういったスケジュール感でどこを目指して事業再生に取り組んでいくのかにもよりますので、一概には申し上げにくいですが、通常は1年〜2年、長いと3年とか5年ぐらい伴奏したところはあります。

極限状態にある利害関係者に納得してもらうために

・これまで山崎先生が携わった案件のなかで、記憶に残っている案件などはありますか?

私が弁護士になって最初に携わった再生案件は記憶に深く残っています。それはゼネコンが民事再生をしたという案件だったんですが、下請け業者がマンションのドアとか窓とかの取り付けをして、ゼネコンがまだ代金を払ってなかったのにゼネコンが民事再生やったことでその下請けが貸し倒れにあったということがありまして。それで下請け業者が怒ってそのマンションに乗り込んで、ドアとか、窓とかを外して持っていったんですよ。ただそのマンションにはもう既に人が住んでいたので大問題になりました。
当時、私は駆け出しの弁護士だったんですが、その現場に、私も民事再生したゼネコンの会社の担当者と一緒に行くことになりまして。下請け業者は現行犯で警察に逮捕されてその場にはいなかったんですが、住居が壊されて怒った住民の人たちに「どうしてくれるんだ。」と取り囲まれてですね。要するに「お前たちが民事再生したせいで、マンションのドアとか窓がなくなったんだ。」ということですね。もちろん、直ちに施工し直しますみたいな話ではあるんですが。運が悪いことに結構寒い時期だったのもあって、もうみんなカンカンに怒っていて。ドアとか窓を取り付けるなんてすぐにはできないですから、代わりとしてホテルに少しの間泊まってもらうという提案をして、そういう配慮はもちろんしたんですけど、住民の方々がもう本当に怒り出してですね。怒りが収まらなくて30人ぐらいに取り囲まれて「土下座をしろ。」と言われて。依頼者であるゼネコンの担当者もいっぱいいっぱいの中で一生懸命やってるわけですから、ゼネコン側も怒ってるんですよ。
そこで私は「収まりつかないんで、もう土下座しましょうよ。」と言って、依頼者のゼネコンの担当者達と一緒にその住民の方々に土下座して謝って、その場を収めて、結果的にそれでこの事件は解決ができました。

・想像するだけでゾッとするような修羅場です…。土下座することで、その場が丸く収まったということですね。土下座することに抵抗はありませんでしたか?

はい。今でも『山崎土下座事件』といって、事務所中でも語り継いでいる事件なんです。
やはり人のためのことだからこそ、土下座するみたいなこともできる仕事なんですよ。
再生局面は全員が極限状態にあって、依頼者も非常に苦しい状況に置かれているし、債権者だったり、利害関係者の方も同様に苦しいんです。
依頼者も、「弁護士さんにわざわざ来てもらってるのに土下座させるって、ちょっとないよね」と、感じたと思います。だけどそうじゃなくて、「これはもう土下座しましょう。」ということを私が言ったんです。要するに、私は代理人として代わりに謝ってるだけなんですよ。怒ってる人が土下座しろって言って収まるなら土下座をしようと思ったんです。
様々な問題を解決をしなきゃいけない仕事で大事なのは、依頼人や関わる全ての人のためだということです。そこに自分個人のプライドとか、自分の個人的な感情は関係ないです。この人たちとか、この会社のためだからできると、本当に人のための仕事なんです。
この事件では、そうやって解決をして、結果的に悪い方向に行かずに会社を再生していくことができたりとか、そういう利害関係者に納得してもらったことを通して、事業再生という仕事は非常にやりがいがあるなと感じました。

事業再生の本質とは

・非常に強い原体験を経て、現在まで事業再生への情熱をもって取り組んでおられることが分かりました。
山崎先生が事業再生において難しさや大変さと感じることは、どんな部分ですか?

基本的に非常に重たい責任を伴う仕事ではあります。決まった答えがあるわけではないので、非常に苦労したり悩んだりします。1社1社やるべきことが違うので、それを大変といえば大変だと思います。
ただ、そのぶん専門家としてやりがいがあるし、リスクを背負って経営をされていて、人生だとか財産だとかを賭けて仕事をしている経営者の方と比べると、自分は仕事をお手伝いする役割なので。
やはりどうしても経営者の方というのは本質的に大変だなと思うことのほうが多いです。

・事業再生は経営が行き詰ってギリギリな状態までいったときに行うものといった印象が ありますが、資金繰りの改善をするといったことなども事業再生に含まれるのでしょうか?
実際「事業再生」とはどういうことなのでしょうか?

事業再生とは、窮境にある企業の建て直しのことをいいますが、いくつかのフェーズがあって、浅い段階から深い段階まであります。だからかなり多義的な意味合いで使われている言葉だとは思います。
浅い段階は、いわゆる経営改善といわれるような段階。コンサルタントが入ってP/L(損益計算書)だったり資金繰りの改善をするというようなものも広くいえば事業再生に含まれますし、そういった案件の方が数としてはもちろん圧倒的に多いです。
それがだんだん深い段階になってくると、もっとB/S(貸借対照表)を抜本的に改革しないといけないということになる。具体的には債務のカットに踏み込むようなテコ入れが必要になってくると、弁護士が入る必要がでてきたり、さらに資金繰りが本当にもたないとなれば、民事再生等の法的整理をしていかなければいけません。これは裁判所の手続きですので、必ず弁護士が代理人をやらないといけません。そういう意味では一言で事業再生といっても、場合によってかなり幅があります。
ただ結局は、どれだけ債務のカットをしてもその企業が収益構造の改善をして、利益を獲得しないと会社としてやっていけませんので、事業再生の本質は「P/Lの改善をして、経営を立て直す」ということであると思います。

・ありがとうございます。『事業再生』について本質的な理解が深まりました。
ただ実際、経営者が事業再生をしようと弁護士に依頼する段階では、既に経営が上手くいっておらず、悪循環に陥ってしまっている会社も多いかと思います。そんなタイミングから初めて事業再生に着手していく際の難しさはありますか?

事業再生に踏み込むタイミングを経営者が客観的に理解して、割り切るのは非常に難しいです。だから、タイミングとして手遅れとまではいきませんが、まさに大きな外科的手術が必要というところまで、決断できないことが多いです。
当然、それを少しでも早めて、少しでも手術の程度を軽くする努力も必要ですが、依頼者に寄り添い話を聞いて、依頼者がしっかりと理解して納得するまで、一緒に伴走するということが必要なのでバランスが重要です。
手を打つ際に遅れすぎてしまってもいけないし、早すぎるタイミングで厳しいことを言ってしまうと経営者の方から信頼してもらえない。
専門家として客観的に正しいことや依頼人にとって痛いことを言わないといけないし、そこのバランスの取り方は非常に難しいですね。ですので、まずは信頼してもらい、心を開いてもらうということを意識しています。
専門家と経営者の間で信頼関係がないと、そのあとの抜本的な指定整理や民事再生といった辛く厳しい外科的手術には耐えられません。そういう意味で結果的には、このような関係者との様々な調整をしていて、手を打つのがギリギリのタイミングになってしまうことは多いです。

・一般的に事業再生は取り掛かるのが早ければ早いほど良い結果につながるかと思いますが、山崎先生が関わった際に、もう手遅れだなと思うような案件もありましたか?

あります。幸い私が手掛けてこれまで破産になったケースはほとんどありませんが、手遅れになってしまってどうしようもない状態の会社というのは、もちろんありました。
ただ、どんな状態の会社でもスポンサーをつけて、一部分でも承継する。事業として残せるものは残して、できるだけ雇用を残してというような形で、いわゆるソフトランディングしていくみたいな。
どんな状況の会社でも、可能な限りそういった形で最善の手を探すということでやっております。

弁護士への相談のタイミングは?

・事業再生を行うにあたって、弁護士などの専門家を入れたほうがいいタイミングはいつですか?

早ければ早いほうがいいです。弁護士なんて裏で相談できれば本当は表に出ない方が良いんです。事業再生で弁護士が表に出る必要がある場面っていうのは、外科的手術が必要となるような深い段階になってしまいますので。
弁護士は普通のコンサルタントとは違って、守秘義務もあって弁護士だけにしか相談できないような内容もあります。事業再生においては銀行から弁護士を紹介してもらうこともあり、私も銀行の紹介で会社の代理人になることもあります。勿論、銀行から紹介してもらった弁護士でも信頼できれば問題はないですが、どうしても銀行側に有利なように動くのではないか、みたいに心から信用できないこともあるようです。
逆に自分が心から信頼できる弁護士に頼んでおけば、どんな内容でも安心して相談もできます。でもやはり弁護士が表に出る必要がない方が良いですね。
経営者の方も、何をすべきかということより早くを知っておいたほうがいいし、それ以外にも個人的なことを含めいろいろ抱えてる悩みとか問題がまだ小さいうちに相談をして、その都度適切なタイミングで解決していったほうが良いし、そのほうが健全ですよねっていう意味です。
難しいかもしれませんが、少しでも兆候があったら出来るだけ早いに越したことはなくて、相談するのが早すぎることなんてほとんど無いです。

・相談したほうが良い兆候とは、どのような兆候でしょうか?

例えば、銀行から経営改善的なコンサルタントを入れましょうと言われている会社で、何か大きく法的な問題がある訳ではないにしても、もし今から悪いシナリオにいったらどうなるのという想定について、コンサルタントの方でもある程度は言えるかもしれません。
ですが、専門の弁護士なら予め悪い方向に行かないようにというアドバイスも出来るし、あとは経営改善のフェーズの中でも、銀行との付き合い方とか、いろいろアドバイスできることがあるので、ご相談いただくタイミングは早いに越したことはないと思います。

・次回:粉飾決済をしていた会社の事業再生について

経営上の複雑な問題があって、なかなか金融機関には話しにくいような場合も、それが全然解決できないかというと、そうではなく、やはり解決策はあります。…(一部抜粋)

続きの後編では引き続き、弁護士の山崎先生に経営上深刻な問題を抱えている会社の事業再生についてなど、事業再生について更に深い内容を伺いました。
後編の記事はこちらから

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