
弁護士の山崎良太先生へのインタビューの後編です。今回も前編に引き続き、事業再生の領域で経験豊富な弁護士の山崎良太氏(森・濱田松本法律事務所所属)にお話を伺いました。 実際の事例のお話なども絡めて、前編より深い内容についても伺っているので、是非ご覧ください。

【弁護士が語る事業再生】粉飾決算に手を染めた会社の事業再生
事業再生における信頼関係の大切さ
・事業再生では、株主・取引先・金融機関などの利害関係者が多く、各々との調整が必要かと思いますが、お仕事をするうえで大切にしていることはなんでしょうか?
信用してもらってそこから信頼に繋げていく、ということを大切にしています。依頼者に債権放棄してもらったり、経営者でいるのを辞めてもらったりするので、やはり信用だとか信頼関係を築くという部分が非常に重要です。
それはステークホルダー対応みたいなことが結局は信用補完にもなるし、そこから信頼関係が生まれることで、利害関係者とも信頼ベースで物事を進めていくということができます。難しいお願いであっても、そこにはルールがあって、相手は人間ですからいろいろな考え方があって、そこを理解をしながら信頼関係を築いて交渉していくのが私の仕事なのかなと思います。
・依頼者と信頼関係を築くために実践していることはありますか?
結局、信頼というのは、お互いに歩み寄ろうという気持ちがないと生まれません。ですから私はまず、会社から依頼を受けたら職場を見学させてくださいということをお願いして、どういうことをやっているのかを実際に見させてもらいます。
そこで社長自身から直接話を聞いていくなかで、昔はこういったことが上手くいっていたとか、会社の強みはどこか、悪くなっていったのはどうしてか、といった様々なことが見えてきます。そうすると私の中にも、なんとかしてこの会社を守ろうみたいな気持ちが生まれます。依頼者からしても、そうやって関心を持ってくれたということで話が広がりますし、信頼関係が生まれやすくなるのかなと思います。だから、まずは実際に会社を見に行くということを心がけています。
会社や工場を見学させて下さいというと、弁護士さんからそんなことを言われたのは初めてだ、と驚かれることがよくあります。でも、コンサルタントの方なら、まず現場を見ますよね。弁護士も会社を建て直すためのチームの一員として関与する以上、現場をできるだけ早く見せてもらうことが重要です。
寄り添うとか信頼関係を築くためには、まず会社に来てくれるかとか、本当に自分たちのことを理解しようとしているのかといった部分が、会社にとっても大きいのではと思います。
弁護士は本質的な部分で経営のことが分かるわけではありませんが、極限状態の中で、経営の根幹に関わる判断を一緒にするとか、あるいはもう弁護士が決めてしまう場合もあります。そうなるとやはりお互いに信頼関係が築けていないと難しい部分は多いと思います。
事業再生の進め方
・ご自身が思い描いたような計画通りにいかなかったときにはどのように対応されますか?
バックアップとして予めBプラン・Cプラン的なものを準備しないといけません。考えなければいけないことを並行して走らせてることは非常に多いですね。
Aプランから逸れる可能性が高ければ別のプランにいくことを考えますし、むしろ、Bプランになる可能性が高いなと思いながら、Aプランを実現するべく努力しつつも、Bプランに移行しやすいように考えて対応しているケースは結構あります。
高確率でBプランの方に移行することを想定しつつAプランで上手くいけば、それはめでたしって話しで、そこは専門家として想定できる事態への抑えをしないといけません。有事の際に軍資金が尽きて、お手上げになってはいけませんので。
・走らせている計画の変更はどのようなきっかけなどがあって検討されるのでしょうか?
それぞれのプランにおいて何が分岐するトリガーなのか把握しておく必要があります。トリガーのタイミングでプラン変更をしなければいけないこともあれば、総合的に考えてBプランの方が確実に再建できるといった場合は、あえてそのトリガーにヒットさせてプランBにもっていくみたいなことも時には必要で、それをやらないと、ズルズルいって手遅れになりかねないみたいなこともあります。もちろん、それを仕組んでやったと思われてもいけないみたいな部分は難しいところでもあります。
ただ、経営者自身がその別プランだとかプラン移行のタイミングを考えるのは困難だと思います。経営者の方は目の前の事業を一生懸命やって、会社の先頭に立ってやっていかないと人は誰もついてきませんので、そういう意味では専門家がそのBプランを考えて準備するというのが重要です。
専門家としては全体としてのバランスを見て冷静に進めるために、今後もし悪くなったらこれが必要ですよねということはどこかでちゃんと理解してもらいます。ですがまずはAプランで頑張って行こうというところで、ケアというか励ましたり鼓舞したりもします。 そういった際の経営者の方は心身ともに本当に大変だと思います。
事業再生の様々な実例
・実際債権カット等をお願いするとなったら金融機関を集めてバンクミーティングが開かれると思いますが、その際に同席されたりするのですか?
いろいろやり方があります。最初から債権放棄をお願いしますみたいな案件ってそう多くはなくて、やはりリスケジュールからお願いをしていくということが多いです。しかし、それでは上手く再建できないよねという場合には、結局はその債権カットをお願いする必要があって、こういった案件になって初めていつ弁護士が出ていくのかという議論をします。
あまり早い段階で出ると、金融機関から、弁護士が出てきたから法的整理を考えているのではないかみたいな、警戒をされたりすることもあります。逆にリスケジュールでやってくということで銀行が納得しているときは、債権放棄が必要とか、スポンサーが必要といった話になかなかならず手遅れになりかねないケースがあるので、その場合はあえて私も同席して、弁護士がいることから、弁護士が必要になる状況であることを汲み取ってよみたいな金融機関側へのメッセージを暗に出していくみたいなこともあります。
ただやはり足元の業績がだんだん悪くなってきたり、資金繰りも悪くなってくると、このままの自力債権でリスケジュールするだけでは難しいという状況が見えて来ることがあります。見えている中でどこでメッセージを出したりとか、裏でアドバイスはするが警戒されないように同席はしないみたいなケースもあったりとかします。
ですのでとにかく同席するわけではなくて、出るか出ないか、みたいな議論をすることはよくあります。
・弁護士は事業再生においてどのような役割を果たすのか教えてください。
弁護士が出ていくというのはいい状況ではないですけど、やはり出ていくとやれることが多いのが事業再生の仕事です。
例えば、数年前に担当したそれなりの規模のサービス業の再生案件なんですが、会社の労働組合が、経営者が不正をやってるといった内部告発を銀行に対して行ったんですね。会社の顧問弁護士が入ったものの対応が悪かったため、ある銀行が口座をロックして給料を遅配してしまったり大混乱になって、急きょメインバンクの紹介でコンサルさんが入って、私もコンサルさんの紹介で一緒に入ったという事案です。
その会社の場合は経営陣が信頼を失ったということもあって、すべての信用補完を私達が行いました。金融機関に対しては、我々が入って適切な再建プロセスを進めることを説明し、落ち着いた状況を取り戻しました。会社の経営陣からは、それ以外の各所への対応も依頼されましたし必要な状況でしたので、主要な取引先への対応をして、労働組合にも「あなた方が協力しないと会社潰れるよ。」ということを言いつつ、ある程度要望も聞くといった組合対応もやって、関係者が落ち着いた状況になってから、スポンサー企業の選定に入りました。
ところが、足元の業績が悪かったので、スポンサー候補からの提示価格がものすごく低かったのです。それでは再建の絵も描けないような状況だったんですが、業界を分析していくと、参入障壁が高く、企業として希少性が高いことがわかってきましたので、そういった部分をウリにしてスポンサー候補同士を競わせて、交渉もコンサルさんと一緒にやりました。
結果的にはスポンサーの提示額がかなり吊り上がって、元々債権放棄が必要な事案になると思ってたんですけど、一切債権放棄なしで終わることができました。 そういう意味では、事業再生における弁護士の役割として、混乱・困窮した会社の代理人としてステークホルダー対応、株主だったり、従業員だったり、場合によっては取引先だったりっていうところに対しても、信用補完はほとんどの事案でやっていると思います。
事業を新たに樹立させた事例
・コストカットといった部分だけではなく事業を樹立させて、自立した状態を作ったような案件があれば教えていただきたいです。
ある卸売市場の再生案件ではコンサルさんと協力して進めましたが、そもそも卸売市場という事業自体が大きく縮小しているので、業界再編レベルのことを視野に入れて、実際に業界の中で緩やかなアライアンスを組みつつ、それでもかなり負債が重たいので、そこを自力再生的な枠組みの中で金融機関に債権放棄をしてもらうということをやりました。
その当時は融資がなかった某銀行の法人営業部長さんが熱意のある人で、この会社を再生させるということに強い情熱を持ってリファイナンスするスキームを描いて頂いて、実際に従来の取引金融機関から債権放棄をしてもらったという案件です。
一緒にこの案件を進めたコンサルさんが特に、業界の先を見て再編を主導してビジネスを地固めしつつ、その会社の負債も減らし、更に会社の中の人事も次の社長にバトンタッチしていくといったように、人事から組織編成からビジネスから全部やっているわけです。会計士のバックグラウンドがある方なのですが、数値計画の枠を超えて本当の意味で会社と事業と業界のことを考えており、心からすごいと思いました。
経営者の方からはものすごく信頼されていたと思います。この会社の経営者の方も、そういう信頼関係がある人の言ったことを信じてやりきるみたいな頑張りがありました。
経営上の深刻な問題があった場合の事業再生
・グレーな案件、例えば違法性があると疑われる取引を行っていたといったような案件には、どのように対処していますか?
共通の理解をベースに持ったうえで、かつその問題をどう解決するかということを提示して、実行していくのがこの仕事の根幹だと思います。
難しい問題がいろいろ起きて、まずいことやってしまっているような場合は様々あります。それをただ悪いことですねと言うのは簡単ですが、それはどう手じまいするかの方が圧倒的に重要で、これも弁護士の考えによるところがあります。
基本はちゃんと銀行にも言うべきだという処理になるけれども、これを今言ったら大変なことになるから、例えば3ヶ月ぐらい経ったらうまく解消できるかもしれないという仮説を立てて、それをやめていって、過去のこととして処理するといった考え方もあるんです。
それもただ単に悪いことを隠してるというようになってはいけなくて、それがうまく解消できたら、そのほうが全体として収まりが良いし、それだったら銀行にとってもプラスになるんだから正義であるということでいえば、そういう手じまい方はあると思います。
いきなり入り口で、もう悪いことだからすぐやめて銀行に言うべきだみたいな弁護士は多いと思います。でもそこはかなり大局的な判断で、トータルとして見たら何が正義で、どうにか上手く手じまいするやり方はないか、みたいなことは結構難易度は高いですが考えますね。
・粉飾決算をしてしまって、それがバレて捕まるのが怖くて全く動けなくなるというようなケースはありますか?
粉飾をやってる(やっていた)ケースは非常に多いです。ただ、粉飾にも程度があります。
たとえば銀行毎で決算書を作り変えてそれぞれに別の決算書を出して、ある種、騙して借りてるみたいなことを社長がやっていたといった重いケースのレベルのものから、状況が悪いときにやむを得ず棚卸資産を少し水増ししたとか、売掛金を増やしたとか、それを後で処理しようと思ってたけど、やはり戻れずズルズル水増しが増えてしまったみたいなケースもあります。後者のケースは結構多いです。こういう場合は粉飾といっても濃淡があって、後は現社長が始めたのか、先代が始めたのかというのは、当然責任論に影響します。そういう意味では先程言ったような棚卸を少しいじったみたいな粉飾は数が多く、そこまで責任を重くは問われないケースです。
ただ、何種類も決算書を作っているみたいなケースは非常に責任が重いです。
現在は、経営者保証ガイドラインが10年程前にできて、債権放棄を要請する事案では保証債務の整理を一緒にやりますが、基本的に過去に粉飾をやっていたことによって、そのガイドラインが使えないというわけではありません。再生スキームに入って以降の適切な情報開示は必要です。こういうことやってました、ごめんなさいってことは全部出さないといけないので。そういうひどい粉飾をやってた事案であったとしても、過去の粉飾の事実や現在の資産状況等についての情報開示を誠実に行って、持っている資産で可能な範囲で弁済を行うことにより、経営者保証ガイドラインの適用を認めてもらっているケースは結構あります。そうすると、結論としては自己破産はしなくて済むということになります。
ただ、あの経営者保証ガイドラインっていうのは、比較的自宅を残したりとか、ある程度の生活費用を手元に残したりということができますが、悪質な事案の場合は、破産と同じだけの弁済はして、保証だけ免除してもらうということになります。かなりひどい粉飾事案でも、ガイドラインを使って、保証債務も外してもらっています。
これは実務がこの10年で大きく変わって、経営者が再生フェーズに行きついた際、きちんと情報開示をして弁済提供・資材提供をすれば破産しなくても済むようになったということです。
・厳密には粉飾で過度の決算書改ざんをしていると、罪に問われることはないですか?
あるとすれば、詐欺罪になるかどうかになりますが、詐欺罪は、基本的に不法領得の意思、要するに「返すつもりがない、取っちゃうつもりだった」ということにならないと詐欺罪の立件ができません。かなり悪質な場合は最初から返すつもりないんじゃないのっていう微妙なラインなんですけど、先程言ったように普通の粉飾ぐらいだったら返すつもりのない人はなかなかいないのではと思います。ですから、詐欺での立件はかなり難しくなっています。
・グレーな問題を抱えて困っている経営者は多くいると思いますが、アドバイスや解決策などはありますか?
経営上の複雑な問題があって、なかなか金融機関には話しにくいような内容も、それが全然解決できないかというと、そうではなく、やはり解決策はあります。最終的に、先ほど言った連帯保証の問題に関してはガイドラインというものを使って、深刻な経営上の大きな問題があるとしても、解決ができることは多々あります。
やはりそういう意味では、まずそういう経営上の深刻な問題については、専門の弁護士に適切に相談をして、対策を早くやっていったほうが当然傷は深くならないということはいえます。再生事案においては、普通の顧問弁護士さんだったら、もう駄目だよという話になってしまうことでも、再生を多く手掛けているような弁護士に相談すれば、いろんな経験値もあって解決策も見出しやすいと思います。
最後に
・経営者の方に向けたメッセージ
やはり自分が育ててきた事業であったり、従業員であったり、家族であったり、そういう自分が守るべきものに価値があって、それを大切にしたいんだという想い。その想いを苦しいときも持ち続けていただくことによって、事業再生していく突破口も生まれるし、そこに専門家のサポートも集まってくるし、再建計画の理解も得られる。 とにかく、育ててきたものとか大切な事業や人という部分に対しての想いを持ち続けていただくということが一番大事なんじゃないかと思います。
そういう経営者の方は絶対になんとかしたいし、助けたいっていうことを私もそうですが、専門家や周囲の関係者たちは思いますね。
今回は事業再生の現場で活躍されている山崎先生にお話を伺いました。
事業再生には様々な段階があるものの、早い段階で専門家に相談しておくことがどれだけ重要なことかをご理解いただけたかと思います。
事業を、会社を、そして従業員とその家族を守っていくためにも経営者は孤独に戦い続けなければなりません。事業が少しでも苦しいと感じた際は是非1度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。