2023年06月29日
経営上の深刻な問題があった場合の事業再生
-粉飾決算していた会社でも事業再生が可能-
グレーな案件、例えば違法性があると疑われる取引を行っていたといったような案件には、どのように対処していますか?
共通の理解をベースに持ったうえで、かつその問題をどう解決するかということを提示して、実行していくのがこの仕事の根幹だと思います。
難しい問題がいろいろ起きて、まずいことやってしまっているような場合は様々あります。それをただ悪いことですねと言うのは簡単ですが、それはどう手じまいするかの方が圧倒的に重要で、これも弁護士の考えによるところがあります。
基本はちゃんと銀行にも言うべきだという処理になるけれども、これを今言ったら大変なことになるから、例えば3ヶ月ぐらい経ったらうまく解消できるかもしれないという仮説を立てて、それをやめていって、過去のこととして処理するといった考え方もあるんです。
それもただ単に悪いことを隠してるというようになってはいけなくて、それがうまく解消できたら、そのほうが全体として収まりが良いし、それだったら銀行にとってもプラスになるんだから正義であるということでいえば、そういう手じまい方はあると思います。
いきなり入り口で、もう悪いことだからすぐやめて銀行に言うべきだみたいな弁護士は多いと思います。でもそこはかなり大局的な判断で、トータルとして見たら何が正義で、どうにか上手く手じまいするやり方はないか、みたいなことは結構難易度は高いですが考えますね。
粉飾決算をしてしまって、それがバレて捕まるのが怖くて全く動けなくなるというようなケースはありますか?
粉飾をやってる(やっていた)ケースは非常に多いです。ただ、粉飾にも程度があります。
たとえば銀行毎で決算書を作り変えてそれぞれに別の決算書を出して、ある種、騙して借りてるみたいなことを社長がやっていたといった重いケースのレベルのものから、状況が悪いときにやむを得ず棚卸資産を少し水増ししたとか、売掛金を増やしたとか、それを後で処理しようと思ってたけど、やはり戻れずズルズル水増しが増えてしまったみたいなケースもあります。
後者のケースは結構多いです。こういう場合は粉飾といっても濃淡があって、後は現社長が始めたのか、先代が始めたのかというのは、当然責任論に影響します。そういう意味では先程言ったような棚卸を少しいじったみたいな粉飾は数が多く、そこまで責任を重くは問われないケースです。
ただ、何種類も決算書を作っているようなケースは非常に責任が重いです。
現在は、経営者保証ガイドラインが10年程前にできて、債権放棄を要請する事案では保証債務の整理を一緒にやりますが、基本的に過去に粉飾をやっていたことによって、そのガイドラインが使えないというわけではありません。再生スキームに入って以降の適切な情報開示は必要です。こういうことやってました、ごめんなさいってことは全部出さないといけないので。そういうひどい粉飾をやってた事案であったとしても、過去の粉飾の事実や現在の資産状況等についての情報開示を誠実に行って、持っている資産で可能な範囲で弁済を行うことにより、経営者保証ガイドラインの適用を認めてもらっているケースは結構あります。そうすると、結論としては自己破産はしなくて済むということになります。
ただ、あの経営者保証ガイドラインっていうのは、比較的自宅を残したりとか、ある程度の生活費用を手元に残したりということができますが、悪質な事案の場合は、破産と同じだけの弁済はして、保証だけ免除してもらうということになります。かなりひどい粉飾事案でも、ガイドラインを使って、保証債務も外してもらっています。
これは実務がこの10年で大きく変わって、経営者が再生フェーズに行きついた際、きちんと情報開示をして弁済提供・資材提供をすれば破産しなくても済むようになったということです。
厳密には粉飾で過度の決算書改ざんをしていると、罪に問われることはないですか?
あるとすれば、詐欺罪になるかどうかになりますが、詐欺罪は、基本的に不法領得の意思、要するに「返すつもりがない、取っちゃうつもりだった」ということにならないと詐欺罪の立件ができません。かなり悪質な場合は最初から返すつもりないんじゃないのっていう微妙なラインなんですけど、先程言ったように普通の粉飾ぐらいだったら返すつもりのない人はなかなかいないのではと思います。ですから、詐欺での立件はかなり難しくなっています。
グレーな問題を抱えて困っている経営者は多くいると思いますが、アドバイスや解決策などはありますか?
経営上の複雑な問題があって、なかなか金融機関には話しにくいような内容も、それが全然解決できないかというと、そうではなく、やはり解決策はあります。最終的に、先ほど言った連帯保証の問題に関してはガイドラインというものを使って、深刻な経営上の大きな問題があるとしても、解決ができることは多々あります。
やはりそういう意味では、まずそういう経営上の深刻な問題については、専門の弁護士に適切に相談をして、対策を早くやっていったほうが当然傷は深くならないということはいえます。再生事案においては、普通の顧問弁護士さんだったら、もう駄目だよという話になってしまうことでも、再生を多く手掛けているような弁護士に相談すれば、いろんな経験値もあって解決策も見出しやすいと思います。
- 悪質な粉飾でなければ、経営者が自己破産せずに済む場合は多い
- 深刻な問題も出来るだけ早めに専門家へ相談すれば解決可能
最後に
-経営者の方に向けたメッセージ-
やはり自分が育ててきた事業であったり、従業員であったり、家族であったり、そういう自分が守るべきものに価値があって、それを大切にしたいんだという想い。その想いを苦しいときも持ち続けていただくことによって、事業再生していく突破口も生まれるし、そこに専門家のサポートも集まってくるし、再建計画の理解も得られる。
とにかく、育ててきたものとか大切な事業や人という部分に対しての想いを持ち続けていただくということが一番大事なんじゃないかと思います。
そういう経営者の方は絶対になんとかしたいし、助けたいっていうことを私もそうですが、専門家や周囲の関係者たちは思いますね。
・インタビュアーコメント
今回は事業再生の現場で活躍されている山崎先生にお話を伺いました。
事業再生には様々な段階があるものの、早い段階で専門家に相談しておくことがどれだけ重要なことかをご理解いただけたかと思います。
事業を、会社を、そして従業員とその家族を守っていくためにも経営者は孤独に戦い続けなければなりません。事業が少しでも苦しいと感じた際は是非1度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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