ゴルフ場の再生事例から学ぶ債務放棄

ゴルフ場の預託金トラブルが起こった経緯

資金繰りが悪化し、債務の返済が難しくなってくると「破産」や「倒産」が現実味を帯びてきますよね。

ですが、以前の記事『債務放棄(債権カット)・リスケ・DDSの銀行返済対策』でご紹介したように、債務の負担を軽くする手段として「債務放棄」という選択肢もあります。債務の一部を免除してもらうため、銀行にとって大きなデメリットになりますが、元本そのものを減らせるというメリットが!

本記事では、今でも未解決の事例がある「ゴルフ場の会員に関する預託金のトラブル」で事業再生に成功した例をご紹介。債務カットの実例や事業再生のための具体的な選択肢を分かりやすく解説していきます。

そもそも、預託金とはある契約をするときに、契約者が相手方に無利息で預ける金銭のことを指します。賃貸借契約をするときに、借主から貸主に預けられる敷金や保証金も預託金の一種です。

ゴルフ場の預託金制度は、ゴルフ場会員権の方式の1つを指します。加入を希望するゴルフ場に、ゴルファーが預託金を預けるのです。この預託金は基本的に無利子で据え置かれた上で10〜20年程度の期間を経て、会員に額面金額が払い戻されます。
この預託金制度が、ゴルフ場の資金繰りを悪化させることになるのです。

バブル崩壊で、ゴルフ場に相次いだ預託金の償還請求

ゴルフ場は開場するまでに、土地の取得・造成、クラブハウスの建築など多額の設備投資が必要となります。 バブル期のゴルフ場経営会社は、多額の設備投資費に会員からの預託金を充てた上に、ゴルフ場施設を担保に、金融機関から資金を借り入れていることが多かったのです。そのため、会員からの預託金額、金融機関からの借入額は、巨額なものとなっていきました。

ですが、右肩がりの経済状況は続かず、バブルは崩壊。預託金の払い戻し期を迎えたと同時に、多くの会員から預託金の償還請求がなされたのです。

会員権発行当時には、ゴルフ会員権市場が高騰していたことから「将来は会員権の相場価格が預託金額を上回り、会員が会員権を売却して資金の回収を図ることができるだろう」と見通しを立てていたゴルフ場経営会社は、預託金の償還請求がなされるという事態を想定しておらず、資金繰りにどんどん行き詰まっていきました。

そもそも過剰債務状態に陥りやすい、ゴルフ事業

「資金繰りが悪化したのであれば、預託金の償還原資として銀行などからの借入れを検討しては?」と思われるかもしれませんが、こちらもすでにゴルフ場の開設資金などに使われています。

また、ゴルフ場利用者は減少しているものの、ゴルフ場自体は減少しておらず、ゴルフ場事業は過当競争状態にあります。そのため、資金を作るためにあまりに極端な経費の節減を行うことは、顧客の満足度の低下につながり、顧客離れを進めることになるのです。

経費削減もできず、人もあまりこない。ゴルフ場事業は、その収益性に比べて巨額の債務を抱えてしまう典型的な過剰債務事業なのです。

ゴルフ場の事業再生には、「債務カット」が最優先

現状の過剰債務状況を解消し、事業再生をするためには、債務カットをする必要があります。
ゴルフ場の債務は大きく分けて、銀行などからの金融債務と預託金の2種が存在しますが、これらの何割かをカットすることで、ゴルフ場経営会社の破産を防ぐことができるのです。

債務カットの方法は「私的整理」と「法的整理」の2種類

債務カットの方法としては、カット対象債権者全員の同意により実行する「私的整理」と、カット債権者全員の同意がなくとも、法的多数決によって実行する「法的整理」とがあります。
「私的整理」とは、銀行や預託金の償還請求を行なっている会員といった債権者と債務者との自主的協議により倒産処理を図る手続きです。

倒産企業のレッテルを貼られることがないため、取引関係や事業価値はそのまま継続できる可能性があります。ですが、事業再生のための再建計画に反対する債権者がいる場合、その債権者を法的に拘束することはできません。
一方、法的手続きに従って裁判所の管轄下で倒産処理を図る手続きが「法的整理」です。債権者にとっては公平な対応がされますが、債務者の企業は「倒産企業」のレッテルを貼られてしまうので事業価値は損なわれると考えた方がいいでしょう。

ゴルフ場の場合は、法的整理による民事再生

債務カットの対象債権者が金融機関だけであれば、その全員の同意がとれる可能性があるため、私的整理も可能でしょう。

しかし、ゴルフ場事業においては、預託金債権者(会員)は何千人と極めて多数であり、全員の同意をとることは事実上不可能。そのためゴルフ場事業で預託金を含む債務カットを実行し、過剰債務状況を解消するには「法的整理」が適切です。

法的整理の手続には、「破産・特別清算」といった清算型手続と、「民事再生・会社更生」といった再建型手続の2種類があります。

一季出版株式会社が発行した『ゴルフ特信(平成30年2月18日発行版)』によると「平成30年12月末時点でのバブル崩壊以降の法的整理件数は789件」、「法的整理の態様別では、民事再生法が8件、会社更生法が0件、特別清算が2件、自己破産が2件、破産が6件」です。
このことから分かるようにゴルフ場事業の場合は、現在の経営者が経営を担当できる・迅速な処理が期待できる・再生計画案の可決要件が緩やかといった利点がある「再建型手続の民事再生」での事業再生が主流といえます。

預託金を含む一般債権のカットで検討すべき2点

ゴルフ場が過剰債務状況から脱するためには、銀行からなどの「金融債権」と預託金を含む「一般債権」の両方をカットする必要があります。その中でも、カット対象債権者が多い一般債権が、ゴルフ場事業の事業再生の鍵を握っていました。

会員のプレー権は保証すること

ゴルフ場の価値が下がっている今、ゴルフ場を売ってしまったとしても、会員全員に預託金全額を返還することはできません。
それどころか、次々に預託金返還請求が相次ぎ、強制執行で売上金を差し押さえられてしまえば、資金繰りに行き詰まり、破産することになってしまいます。 そうなれば会員もプレー権を失うことになり、預託金もほとんど戻ってこないという最悪の状況になってしまうのです。

会員は、ゴルフ場が資金不足のため預託金の償還ができない状況にあることは十分理解しています。そのため「返金されるはずの預託金の大幅カットを受け入れる代わりに、プレー権だけは保障してほしい」と望む傾向が……!

プレー権が保障されれば、将来的には会員権を市場で売却することにより資金を回収することが期待できます。もし取得原価よりも低額で売却しても、その分の損失は所得税上の損失にカウントできるのです。
そのため、ゴルフ場事業では、会員のプレー権は保障しながら、一般債権を大幅にカットして過剰債務状況を解消する方法を探る必要があります。

将来収益からの分割弁済か、事業分割による一括弁済か

先に書いたように、ゴルフ場事業は債務額が巨額である一方、弁済原資は少ないです。そのため、将来の収益を弁済の原資とするほかはないため、分割弁済となることがほとんど。

ただ、将来の分割弁済が経営に支障となるおそれを考慮して、弁済原資額を将来の収益額の一定額を限度とし、これを超える場合には抽選とする例もあります。

また、債務者会社が複数のゴルフ場事業を行っている場合は、事業ごとに分割し、それぞれにスポンサーをつけ、一括弁済とする場合もあります。

経営権の保有によって、債務整理の方法が異なってくる

弁済方法など法的整理の方向性を決めるのが「経営権を誰が保有するのか」です。 主に3パターンがあり、選択権は法的整理に関して原則的に申立てをする立場である以前の経営者(または支配株主)にあります。

どれがより適切は一概に言えません。それぞれの特徴を知り、現在の状況に合った経営型を選びましょう。

① 経営者存続型

経営権を、原則的に申立てをする立場である以前の経営者が保有する形です。 従前の経営者が過去に不当な経営をしていないこと。彼らが立案する今後の経営方針や弁済計画について、金融債権者や預託金債権者(会員)の理解を得られること。この2つの条件を満たす必要があります。

担保権者から競売を申し立てられれば事業の継続は困難となりますし、債権総額の50%以上で、かつ出席債権者数の過半数以上の債権者の同意が得られなければ再生計画案は可決されず、破産手続に移行してしまう危険性があるのです。
つまり、担保権者や債権者の理解と協力が、事業再生するために必須条件となります。

② スポンサー型

第三者がM&Aにより、ゴルフ場事業を取得して経営権を保有する形を「スポンサー型」といいます。スポンサー型では、会員は債権者である一方でユーザーでもあるため、今後の営業面からもプレー権は引き続き保証されることがほとんどです。

スポンサーとなる第三者には、自らゴルフ場事業を営む会社、その他の事業を営む会社、投資ファンドなどがあり、近年は外資系を中心とする投資ファンドがゴルフ場事業を取得する例が増えています。この場合には、当然のことながら投資のリターンを予定しており、数年での売却も視野に入れている例も。
スポンサーがゴルフ場事業を取得する方法には、2種類あります。

一般的には、営業譲渡代金などを原資として、担保権部分、公租公課や労働債権などの優先債権、および一般債権の弁済を行う「営業譲渡方式」よりも、旧株式を取得し、増資払込金や新規貸付金などを原資として弁済する「株式取得方式」が選択することが多いです。

③ 会員主体型

多数の会員が過去の経営に不信を抱き、従前の経営者による経営に反対し、会員による経営支配を望んだ場合、経営権は会員が保有することもあります。

しかし、施設に担保権が設定されている場合や他の一般債権がある場合は、それらの弁済資金を用意する必要が生じるのです。会員全体の意思として、年会費を従前より多く負担するなどの経営安定化の方針がまとまらなければ、経営が不安定になるリスクも生じるため、実際に選択された事例は少ないです。

会社分割しスポンサー型の経営に切り替えて、事業再生に成功した事例

今なお、バブル崩壊後の預託金トラブルに悩まされている企業は多いですが、会社分割しスポンサー型の経営に切り替えて、事業再生に成功した事例がいくつかあります。

債務者会社が複数のゴルフ場事業を運営している場合、以下のようなスキームで、事業を分割して、異なるスポンサーに取得させ、自らは清算することで事業を再生することができるのです。

① 事業ごとのスポンサーが受皿会社(100%子会社)を用意し、ゴルフ事業の経営会社株主から株式を譲り受け、受皿会社が株主となる。

② ゴルフ事業の経営会社は、再生計画(※1)を立て、再生計画の効力により再生債権者から債務免除を受け、債務超過状態を解消する。こうすることで「債務超過の会社は会社分割ができない」という問題を解消する。

③ 再生計画認可直後、ゴルフ事業の経営会社は解散する。再生計画における債務免除の時期は、精算手続きにおける債務届出期間満了日または再生計画認可決定確定日から一ヶ月を経過した日のいずれか遅い方とする。
あわせて、債務免除後に残額の預託金債務・取引債務も含めて、ゴルフ事業の経営会社の事業をそれぞれのスポンサーが持つ受皿会社に会社分割(人的・吸収分割)により承継させる。

④ スポンサーは、ゴルフ事業の経営会社の株主として割り当てられた相互の受皿会社の株式を等価交換して、自らの受皿会社の株式を100%取得する。

⑤ その後のゴルフ事業の経営会社は、清算結了により消滅する。

※1:再生計画に関しては、当サイトの記事『事業再生・企業再生で倒産からの脱却方法』を読んでいただくとより上記のスキームを理解しやすくなります。

まとめ

ゴルフ場経営会社の多くが資金繰りに頭を抱え破綻に向かっていた原因である「預託金制度」は、何千人と会員を抱えるゴルフ会員権の仕組みなどが関係しているため、特殊な例でもあります。
ですが、バブル崩壊という経済の大きな流れは誰もが予想していなかったものではあるものの、誰にでも同等にふりかかるものです。預託金制度という特殊な部分を抜いたとしても、大きな経済状況の変化などが原因で会社の資金繰りがいきなり悪化することはあり得ます。

その際はゴルフ場の例のように、事業の分割や債務者への弁済方法を考える必要が出てきますが、当事者が冷静に考えるのはなかなか難しいもの。冷静に状況を分析する第三者を入れることで、早急な対応も可能になり、会社の立て直し方法までをしっかりとプロ目線でアドバイスしてもらえます。

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資金繰りがこれ以上悪化し、追い込まれる前に打てる一手があることを忘れないでください。

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