【M&A失敗で事業再生ADR、投資ファンドに売却へ】「さくら薬局」は倒産を免れるか?

【M&A失敗で事業再生ADR、投資ファンドに売却へ】「さくら薬局」は倒産を免れるか?

調剤薬局大手チェーンである「さくら薬局」ですが、2022年2月末に事業再生ADRを申請しました。順調に成長を続けていると見られていた「さくら薬局」が経営不振に陥った理由はなんでしょうか。本記事では、事例を通してM&Aや事業再生ADRについても取り上げ、経営者が何に気をつけるべきかを提示していきます。

売上高1900億円超、業界3位の調剤大手薬局になるまで

2020年には出店数1000店舗を突破して、調剤薬局業界第3位にまで上り詰めていた「さくら薬局」の歩みは以下のとおりです。

「さくら薬局」の沿革

1982年 東京都板橋区にクラフトファーマシー株式会社を設立
1983年 東京都板橋区に板橋1号店を開設
1984年 東京都千代田区三崎町に本社移転
1989年 コンピュータ自動調剤支援システムとフルライン搬送システムを用いた24時間型大型店舗、さくら薬局本店を開設
1994年 東京都千代田区麹町に本社を移転
東京、千葉など4店舗で在宅患者訪問指導をスタート
1995年 ジャスダック市場へ上場
2008年 MBO(経営陣による買収)によりジャスダック上場廃止
調剤レセプトから本部基幹システムまでを繋げる自社開発統合システム「SPITS」全店導入
約270店舗に拡大
2012年 東京都千代田区丸の内に本社移転
2013年 在宅推進室を新設
在宅サービスの向上、地域連携強化に着手
2014年 在宅専用車輌コムス導入
2020年 薬剤師支援AIソリューション「AIPS」をリリース
グループ1000店突破
2022年2月 事業再生ADR申請
2022年4月 創業社長森 要氏から新井 勝氏へ交代
2022年10月 投資ファンドNSSKが買収、株式譲渡

95年にジャスダック上場も13年で廃止

1995年にジャスダック市場へ上場を果たした「さくら薬局」(クラフト株式会社運営)ですが、その13年後となる2008年には上場を廃止しています。このときの上場廃止は経営破綻や経営悪化というような事情ではなく、短期的な業績にとらわれずにスムーズに経営判断をするためのMBO(マネジメント・バイアウト:経営陣による買収)による非公開化でした。

銀行融資でM&A加速、1000店突破

会社を非公開化して以降、M&Aによる積極的な出店攻勢を行っていきました。ジャスダックに上場していた2007年12月には約270店舗を展開していましたが、2020年には1000店舗を突破し2021年3月度には売上高も1907億円を記録業界第3位の調剤薬局大手になったのです。

しかし問題なのは、M&Aのための資金調達でした。上場を廃止しており、M&Aのための資金調達は増資ではできませんでした。そこでM&Aのために50行を超える金融機関から約500億円の融資を受けて資金を調達。2008年3月期に87億円だった有利子負債は1000億円を超えるようになったのです。

そこでその借入金返済のために、近年では買収した薬局の調剤報酬債権を担保に融資を受け、新たな薬局の買収資金を賄うようになっていたのでした。

拡大路線の背景にあった大手のメリット

そこまでして出店数を拡大していったのは、チェーン化によるメリットがあるからでした。

調剤薬局の収入源は「調剤報酬」と「OTC薬(処方箋なしで買える薬)やサプリメント、サポーター、ガーゼなどの売り上げ」の2つが主なものですが、薬剤師1人につき1日に調剤できる処方箋は40枚までと決まっています。「調剤報酬」を上げて調剤薬局が収入を伸ばすには、薬剤師を1人でも多く雇っている必要があります。

そのため小規模経営の調剤薬局よりも大手チェーンの調剤薬局のほうが薬剤師を採用しやすく、薬剤師を増やすのに有利となります。

そのほか、大手チェーンのほうが利益を業務効率の向上に投資しやすいデジタル化をしやすいですし、来局する患者だけでなく、自宅療養中の患者に処方薬を配達したり、服薬状況を確認したりといった訪問型の調剤に取り組みやすいといったメリットもあります。

このようなメリットを享受するために、出店数を拡大してチェーン化を行っていったのでした。

「さくら薬局」はなぜ経営不振に陥ったのか?

借入金の返済が増えたとはいえ順調に店舗を拡大していた「さくら薬局」が経営不振に陥り始めたのは2020年春から始まった新型コロナウイルス感染症の流行拡大でした。

コロナで狂った拡大路線

新型コロナウイルス感染症の流行拡大により緊急事態宣言が発令された結果、不要不急の通院自粛が続いたおかげで来局する患者数も減少していきました。同時に、厚生労働省が医薬分業を見直し病院敷地内での薬局併設を認めるようになるなどの原因により店舗数を増やしても売上高の減少が続いたのです。

それでも上場を維持していれば借入金の返済に追われることはありませんでした。しかし上場を廃止していた「さくら薬局」では借入金でM&Aの資金調達を行っていたことから、その返済に追われるようになったのです。

虎ノ門、六本木など一等地に多店舗展開がアダに

港区の虎ノ門や六本木、新橋など、東京都心の一等地に出店したいたこともアダとなりました。都心にあった店舗の多くは大病院の近くに出店していましたが、新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、病院への受診控えや薬の院内受け渡しが増加し、「門前薬局」は大打撃を受けたのです。

調剤報酬改定で売上ダウン

調剤薬局大手が狙い撃ちされた調剤報酬改定も「さくら薬局」の経営不振に追い打ちをかけています。

調剤報酬改定は2年に1度行われていますが、2022年度の報酬改定では店舗数が300を超える大手の調剤薬局を対象に技術料が引き下げられたのです。300店舗以上を持つ調剤薬局に対しては調剤基本料の点数が引き下げられ、処方箋1枚当たりの売上高が100円も下がってしまいました。

事業再生ADRを申請、創業社長が交代へ

経営環境の悪化が続いた「さくら薬局」では2022年2月28日についにグループの中核会社であるクラフトなどの9社が事業再生ADRを申請。当時は金融機関に対して債権カットは求めず、今後の返済額や期間の変更を求めています。

なお2022年4月8日には、グループ創業者である森要氏がクラフトとクラフト本社の中核会社2社の代表取締役社長を辞任し、取締役会長に退くこととなりました。後任として就任したのは、次世代を見据えた「薬剤師支援AIソリューション」を全店に配置し、対物業務から対人業務へのシフトを加速させていた「さくら薬局」の大費用取締役社長を務めていた新井勝氏です。

投資ファンドNSSKが買収

事業再生ADRを申請しながら営業を続け経営再建を目指していた「さくら薬局」ですが、2022年10月に大きな動きがありました。投資ファンドのNSSK(日本産業推進機構)が「さくら薬局」を運営するクラフトを買収すると発表したのです。

この買収は、株式譲渡を含む事業再生計画案が金融機関の同意を得ることを前提としており、買収額は非公表となっていますが1,000億円超と見られています。

経営再建中に不正請求疑惑も発覚、難航する再生計画

経営再建を図っている途中の「さくら薬局」ですが、調剤報酬の不正請求をしていることが発覚しました。前述したように現在、店舗数300店以上の大規模調剤薬局チェーンは調剤報酬の点数が下がる仕組みになっていますが、SPC(特別目的会社)を使い複数の薬局をグループ外に切り出して、調剤報酬を高く請求している疑いが出てきたのです。

不正が疑われているのは、西日本にある調剤薬局の2社です。クラフトホールディングスでは2016年にこの2社を買収しており、合計7つの調剤薬局を運営していました。

2021年後半にはクラフトホールディングスは2社をSPCであるM社の傘下としており、資本関係では「さくら薬局」グループから外れていました。M社の傘下になっていたことで「さくら薬局」グループの制限から外れ、高い調剤基本料を申請していました。

2022年4月には7店舗のうち6店舗で、最も点数の高い調剤基本料となるよう厚生労働省の地方機関である厚生局に申請し受理されているのですが、これが不正請求疑惑となっているのです。

この不正請求疑惑により、「さくら薬局」の事業再生計画はさらに難航すると見られています。

コロナ禍になる前までは店舗数も売上高も順調に拡大していた「さくら薬局」。薬学系の就活生からも人気が高く安定して成長している企業というイメージが強かっただけに、「さくら薬局」の経営破綻の衝撃は大きなものがあります。

資金繰りや売上減で悩みを抱えているのでしたら、事業再生の専門家に相談してぜひ早めの問題解決を行ってみてください。

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