プライム市場の後発薬大手「日医工」が株式上場を廃止。事業再生ADRでの再建に注目が集まる

プライム市場の後発薬大手「日医工」が株式上場を廃止。事業再生ADRでの再建に注目が集まる

株式の上場を廃止した企業はどのような再生の道をたどるのでしょうか。本記事では、株式上場が廃止されファンド傘下で再建目指す道を選んだ日医工を例にして、株式上場廃止に至る道のりやどのように再生をしていくのかを解説していきます。

経営再建が進む日医工、その厳しい現状は?

後発薬大手企業である日医工は、2023年3月29日に株式上場が廃止されました。この上場廃止は、金融機関が同意して2022年末に成立した事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)による事業再生計画の一環であり、現在、経営再建を目指している状況です。

同社では業績不振が続いており、今後、経営再建が順調に進んでいくのかに注目されています。

日医工、事業再生計画への道のり

後発薬大手企業として、ジェネリック医薬品業界で一時は売上高が首位となり順調に成長を続けていた日医工。品質不正が発覚したことで、富山県から2021年に業務停止命令を受けました。米国子会社の事業失敗による損失計上を受けて業績不振に陥っていた同社ではこの事件が追い打ちをかけ2022年12月に事業再生ADRが成立。金融機関から事業再生計画が承認されたのです。

2023年3月29日には東京証券取引所プライム市場の株式上場が廃止され、今後は新経営陣のもとで経営再建を図ることになりました。

投資会社と医薬品卸の傘下で再建へ

日医工が上場廃止になる2023年3月8日には、企業再生ファンドと医薬品卸会社で設立された合同会社が行った200億円の第三者割当増資を行っています。第三者割当増資を払い込んだのは、企業再生ファンドのJWP(ジェイ・ウィル・パートナーズ)と医薬品卸のメディパルホールディングスです。

そしてJWPとメディパルホールディングスでは、両社が出資するJSD(合同会社ジェイ・エス・ディー)を第三者割当増資の引受先としました。

同日、創業家出身の田村友一前社長が退任し、スイス製薬大手の日本法人で社長を務めた岩本紳吾氏が社長に就任。経営再建をしていくために、日医工は株式併合を経てJSDの完全子会社となっています。

日医工の概要と沿革について

1965年に設立した日医工は1980年7月には名古屋証券取引所に、1981年11月には大阪証券取引所に株式を上場。2000年代以降の国のジェネリック医薬品普及策を追い風に後発薬大手企業として成長を続けていました。

2010年12月には東京証券取引所の第一部に上場(現在のプライム市場)に所属。ジェネリック医薬品業界売上高で首位を記録したこともありました。

会社概要

会社名 日医工株式会社 (Nichi-Iko Pharmaceutical Co., Ltd.)
本社 〒930-8583 富山県富山市総曲輪一丁目6番21
東京本社 〒103-0023 東京都中央区日本橋本町1丁目5番4号
設立 1965年7月15日
資本金 1億円
取引銀行 北陸銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行、三菱UFJ銀行、日本政策投資銀行、農林中央金庫、北國銀行、富山銀行
決算期 3月
事業内容 医薬品、医薬部外品、その他各種薬品の製造販売輸出入等
循環器官用薬、消化器官用薬、呼吸器官用薬、中枢・末梢神経系用薬他
従業員 2,656名(2022年3月末現在、連結)

ミッションステートメント

日医工では、2005年6月に以下のようなミッションステートメント(企業の行動指針)を制定していました。

「我々は、我々のジェネリック医薬品が世界の患者様とそのご家族・薬剤師様・お医者様・卸売業者の方々・製薬企業の方々に必要とされ、提供し続けるために自ら存続する努力を行い、ジェネリックメーカーとして世界で卓越する。」

沿革

1965年7月 日本医薬品工業株式会社設立
1980年7月 名古屋証券取引所市場第二部に上場
1981年11月 大阪証券取引所市場第二部に上場
2000年1月 MPS(医業経営支援)チームを発足
2004年11月 マルコ製薬株式会社より特約店販売事業を譲り受け営業部門を統合
2005年4月 第3次中期経営計画「流行43」を発表
日本ガレン株式会社を吸収合併
マルコ製薬株式会社を株式取得により子会社化
2005年6月 日本医薬品工業株式会社から日医工株式会社に商号変更
盲導犬育成事業応援団(公益財団法人アイメイト協会)入会
2005年12月 オリエンタル薬品工業株式会社を株式取得により子会社化
2006年11月 大阪証券取引所及び名古屋証券取引所一部銘柄に指定
日医工本社内でお客様サポートセンター本格始動”
2007年4月 マルコ製薬株式会社を簡易株式交換により完全子会社化
2008年6月 テイコクメディックス株式会社を株式取得により完全子会社化
2008年11月 オリエンタル薬品工業株式会社を簡易株式交換により完全子会社化
2009年6月 連結子会社3社(マルコ製薬株式会社・オリエンタル薬品工業株式会社・テイコクメディックス株式会社)を合併し、日医工ファーマ株式会社発足アクティブファーマ株式会社を三谷産業株式会社と共同設立
2010年6月 日医工サノフィ・アベンティス株式会社(現:日医工サノフィ株式会社)をサノフィ・アベンティス株式会社(現:サノフィ株式会社)と共同設立
2010年7月 DKSHグループと、タイ、マレーシア、香港市場における当社ジェネリックの独占流通に関する総代理店契約を締結
2010年10月 エイプロジェン社とバイオ後続品の研究開発を目的とした資本・業務提携契約を締結
2010年12月 東京証券取引所市場第一部に上場
2011年9月 株式会社日医工医業経営研究所設立
2011年12月 大阪証券取引所及び名古屋証券取引所の上場廃止(東京証券取引所に一本化)
2012年3月 決算期を11月から3月に変更
第6次中期経営計画「Pyramid」を発表
ヤクハン製薬株式会社を株式取得により子会社化
2012年6月 連結子会社である日医工ファーマ株式会社を吸収合併
2012年10月 「東京本社」を設置(富山・東京の2本社制)
滑川第一工場・第二工場を富山第一工場・第二工場に名称変更
2013年3月 新製剤工場「Pyramid棟」竣工
ヤクハン製薬株式会社を株式取得により完全子会社化
2013年9月 BioLab社(タイ)との業務提携
2013年10月 Binex社(韓国)との資本提携に関する合意書締結
2013年11月 Hanoi Pharma社(ベトナム)との業務提携
コミットメント型ライツ・オファリング(上場型新株予約権の無償割当て)の実施
2014年1月 タイ現地法人「Nichi-Iko(Thailand) Co., Ltd.」設立
アメリカ合衆国現地法人「NIXS Corporation」設立
2014年4月 連結子会社「日医工ファーマテック株式会社」事業開始
2015年7月 Bangkok Lab and Cosmetic社(タイ)との業務提携
2016年8月 Sagent Pharmaceuticals, Inc. を株式取得により完全子会社化
2017年10月 連結子会社の日医工ファーマテック株式会社を吸収合併
2018年1月 Lloyd Laboratories Inc.社及びInnoGen Pharmaceuticals, Inc社(フィリピン)との業務提携
2018年3月 エーザイ株式会社との戦略提携
2018年7月 Sunward Pharmaceutical Pte Ltd.社(シンガポール)との業務提携
2019年4月 エルメッドエーザイ株式会社の株式取得により、完全子会社化
エルメッド株式会社へ商号変更し事業開始
2019年11月 メドピア株式会社との業務提携に合意
2021年2月 日医工岐阜工場株式会社を株式取得により完全子会社化

業績不振に陥った日医工、その背景

一時期、ジェネリック医薬品業界売上高で首位を記録したほどの日医工が業績不振に陥った背景には、品質不正による業務停止と巨費を投じた米国事業が赤字続きで債務超過となったことが挙げられます。

品質不正による業務停止

国のジェネリック医薬品普及促進策の流れに乗って拡大路線を貫き、収益を拡大させていった日医工。その原動力は、他社よりも医薬品を安く販売してシェアを取っていく「薄利多売戦略」でした。

そのために工場の現場では、出荷時の検査で所定の品質を満たしていない医薬品でも、販売の妨げにならないよう再加工するなどで通過させるといった不正が横行するようになっていました。それに加えて、人手不足を理由としてGMP(適正製造規範)で定められた手順からそれた医薬品を製造するようになりました。

このような不正が発覚したことで業務停止命令を受け、主力工場が32日間の生産停止に至ったのです。

巨費を投じた米国事業が赤字続きで債務超過

収益を拡大させていった2010年代の日医工では、M&Aによる拡大路線を邁進させていっていました。その最大のものは2016年に行ったアメリカのジェネリック医薬品企業である「セージェント・ファーマシューティカルズ」を約750億円での買収です。

この買収を契機としてアメリカ市場へと進出していったのですが赤字続きとなり、2022年3月期決算に800億円超の減損損失を計上するようになりました。2022年7~9月期決算でも474億円の減損損失を計上し、2022年9月末時点で356億円の債務超過に転落。アメリカ市場からの撤退を余儀なくされたのです。

ネガティブなイメージの上場廃止!実はメリットも

2023年3月28日に株式が上場廃止となった日医工。「上場廃止」と聞くとネガティブなイメージが先行してしまいますが、上場廃止にはメリットもあります。

上場廃止とは、証券取引所の定める上場廃止基準となってしまった場合のほか、上場している企業が自主的に上場廃止申請を行う場合もあります。

証券取引所の定める上場廃止基準となった場合にはネガティブなイメージでも仕方がありませんが、上場している企業が自らの経営戦略として自主的に上場廃止を行う場合にはネガティブだと言い切れません

たとえば、敵対的買収から自社を防衛するときに、株式を自由に売買できなくし外部から経営に関与されるリスクを減らすための上場廃止です。自らの経営権を強化する目的で経営陣が株主から自社株を買い上げるMBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)を行い、上場廃止をすることで企業を守るわけです。

上場廃止のメリット

上場廃止には以下のようなメリットもあります。

経営自由度の向上

上場企業では経営改革を行うときに株主から反対されることもあります。また、経営状況悪化に対して株主から非難されることがあります。

上場廃止をすることによりそのような声を気にすることがなくなり、企業の意思決定のスピードを速くすることができます。

上場継続コストの削減

上場を維持していくためには年間上場料やTDnet(東京証券取引所が運営する適時開示情報伝達システム)の使用料など、いくつもの費用が必要になります。

上場廃止をすることで、これらの費用を削減し業務効率化を図っていくことができます。

上場廃止のデメリット

上場廃止をすることで企業には以下のようなデメリットが発生します。

資金調達の手段が限定

上場廃止になった企業は、取引所を介した一般投資家からの資金が調達ができにくくなります。そのため、事業継続のための資金調達が難しくなります。

既存株主が不利益を被る

上場廃止することで既存株主が不利益を被りますので、上場廃止の理由や手法などを株主に説明し理解を得る必要があります。

企業のブランドや信用度が低下

上場廃止は一般消費者や取引先にもネガティブな印象を与えてしまうかもしれません。そのため、売上に影響する可能性も考えられます。

事業再生を望むなら、再建する方法はさまざま

事業再生の手続きには大きく分けて、私的整理と公的整理の2つがあります。

私的整理とは、債務者と債権者の合意により支払停止や債務の一部免除で事業再生を図っていく方法です。

債権者との合意によるので、事業再生が公にならず、支払猶予をしてもらう債権者を債務者が選べるので取引先を巻き込む必要はないといった特長があります。

法的整理とは、裁判所が主導して行われる再生手続きのことです。裁判所がすべての債権者を呼んで行われるために取引先も手続に参加することにはなりますが、裁判所主導ですので公平性や信頼性を持っています。

日医工も選んだ事業再生ADRとは?

事業再生ADRは、国が認定した専門機関が債務者と債権者の間に入って行う私的整理です。私的整理と法的整理のメリットを融合し、両者のデメリットを克服した再生手法だといえます。

メリット デメリット
私的整理 整理を行う債権者を選べ整理が公にならないので、既存取引先との取引継続が可能 一般投資家から資金調達ができなくなるため、事業継続のための資金調達が困難になる場合も
事業再生ADR 事業再生の専門家が中立的な立場で債権者と交渉し、事業再生を進めていける 再生計画を実行するためには債権者全員の同意を得ることが必要
法的整理 裁判所の監督下で整理を行うので、公平性が担保されている 法的整理を行っていることがオープンになるので、既存取引先と取引継続が不可能になる場合も

私的整理の手法ADRについて詳しく解説します

多くのメリットを持つ私的整理の手法「事業再生ADR」の詳細については以下の過去記事で詳しく解説しています。興味がある方はご覧になってみてください。

事業再生ADRとは?!他の私的再生手法との違いについても解説

事業再生のその前に!早めプロに相談してください

事業再生は、私的整理、公的整理、事業再生ADRのいずれかを選ぶにしろ企業再生の最終手段です。このような事態に陥る前に、自社だけで悩まずプロの知見を借りるために事業再生会社へ相談することをおすすめします。事業再生のギリギリで相談するよりも早めに相談することで、早期に事業再生の道が開くことになります。

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