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大手メーカー「エドウィン」はなぜ債務超過に陥ったのか?
日本を代表する国産ジーンズメーカー
エドウィンと言えば言わずと知れた日本のジーンズメーカーです。その歴史は古く、1947年にさかのぼります。前身である常見米八商店が日暮里で創業。当時は米軍から払い下げられた衣料品の卸しを手掛けていました。米国から中古のジーンズの輸入も行い、「TUNEMI」というブランドで販売し、1961年には輸入したデニム生地でジーンズの自社製造を開始。日本で最初のジーンズメーカーに。自社製造したジーンズは「エドウィン」というブランド名で販売されました。
ちなみにエドウィンというブランド名は「EDO(江戸)」と「WIN(勝利)」の造語であり、「DENIM(デニム)」の「E」と「D」を入れ替え、さらに「NIM」を180度回転させたアナグラムになっています。
履き心地を良くするための「ウォッシュ加工」や、石を使った「ストーンウォッシュ」など、独自の技術を取り入れた製品改良を重ね、日本国内のみならず世界各国でも認知度が向上。加えて斬新な広告戦略や高度経済成長期に大衆の間で広がったアメリカ文化へのあこがれ、80~90年代の渋カジブームも追い風となり、国産ジーンズメーカーとして文字通り勝利をおさめます。
資金運用の失敗で500億円の損失
順風満帆かに見えたエドウィンですが、2012年8月に不正経理が発覚しました。きっかけは経理担当者が車の中で亡くなっていた事件。彼が所有していたパソコンのデータから過去5年間に渡って損失を隠蔽した粉飾決算が行われていたことが明らかになったのです。
経営が悪化したのは2008年のリーマンショックが起点でした。エドウィンは中国から繊維を輸入していて決済用のドルを調達するために為替デリバティブ取引を行っていたのですが、急激な円高のため損失が膨らんでしまったとのことです。また、ユニクロなどのファストファッションの台頭でジーンズの売上が低迷したこともエドウィンの経営難に輪をかけました。
日本を代表するジーンズメーカーで働いていた経理担当者の不可解な死、5年間に500億円もの損失を隠していたという事件は大きく報道され、エドウィンは私的整理の道を模索することになりました。当初、メインバンクである東京三菱UFJ銀行が主導で再建を行うはずでしたが、損失のきっかけとなったデリバティブ取引は三菱UFJフィナンシャル・グループと米モルガン・スタンレーの合弁会社であるモルガン・スタンレーMUFG証券が行っていたため、債権者は「東京三菱UFJ銀行は粉飾決算があったことを知っていたのではないか」と疑念を持ち、私的再生は頓挫することに。13年11月に粉飾決算を行った常見氏の社長退任を条件に債権放棄することでようやく話がまとまったのです。
その後、エドウィンは事業再生ADRを申請し、事業再生の道を歩むことになりました。
伊藤忠の完全子会社へ
失われなかったブランド価値
2014年、エドウィンは出資を受けるためスポンサーを募りました。粉飾決算という悪手を行いながらも、伊藤忠や豊田商事、ワールドなど多くの企業が名乗りを挙げたのです。
その理由としてはやはり確固たるエドウィンのブランド力と生産力、収益性が挙げられます。国内最大手のジーンズブランドであり、国内外に40社以上の持株会社や自社工場を保有。販売が低迷していたとはいえ、それでも500億円程度の売上をあげていました。
エドウィンの経営不振はあくまで為替デリバティブ取引の損失、そして粉飾決算という一時的な要因によるものであり、スポンサー候補企業にとっては「日本を代表するジーンズブランド」であり、魅力的な会社であることは変わりなかったのです。
伊藤忠商事の子会社として再出発
多くの企業がスポンサーに手を挙げた結果、伊藤忠が選ばれました。もともとエドウィンと伊藤忠は取引実績があったことが大きな理由と考えられます。やはり、前述したとおりエドウィンのビジネスモデルは非常に魅力的であることを、取引先であり世界一の繊維商社である伊藤忠はよく知っていたのでしょう。エドウィンがスポンサーを募った際には、岡藤社長が支援を名乗り出るよう即決したそうです。
その後、エドウィンは伊藤忠商事の傘下となり倒産は免れました。ジーンズ以外の商品ラインナップも拡充し、カジュアルファッションブランドとして新しい道を歩みはじめたのです。
中小企業の経営者が知っておくべき事業再生ADRとは
エドウィンが事業再生ADRを利用したメリット
事業再生の手段は「法的整理」と「私的整理」の2つに大分されます。法的整理では裁判や調停を通して破産や精算の手続きを行います。裁判所が介在するので、不正が働きにくい、確実性がある、債権者に対して平等であるといったメリットが挙げられます。一方で、手続きに時間がかかることと、社会的信用が無くなる可能性が大きいことがデメリットです。
仮にエドウィンが破産手続きを行ったらどうなっていたでしょうか?おそらく「倒産企業」というレッテルを貼られ、ブランドイメージが大きく失墜していたことでしょう。支援をしてくれる企業が見つからない可能性もあります。たとえば、エドウィンが破産手続きを行い、「倒産」と大きく報じられたら、伊藤忠をはじめとした大企業が支援に名乗りを挙げなかったかもしれません。取引先から取引が止められ、一般消費者のイメージも低下して商品が売れなくなり、子会社や工場を手放し、会社を畳むという結果になっていたかもしれません。
エドウィンが選択したのは私的整理の中の「事業再生ADR」という手段。中立的立場にある専門家が金融債権者、債務者間の調整を行い、事業再生の実務家の支援を受けながら再生を目指すという制度です。事業再生までに必要な運転資金もつなぎ融資で調達することができます。
こうした私的整理のメリットは法的整理のデメリットの逆。手続きがスピーディーに進められ、社会的信用を守ることができる点にあります。
エドウィンの事業再生の肝は、事業再生ADRで債務を整理し、スポンサーをいち早く見つけられたところにあると考えられ、ブランド力や生産力などの企業価値を維持したまま伊藤忠の傘下に入ったのが功を奏したと言えます。
経営が悪化した企業は社会的信用や本業が守られ、スポンサー企業は良質なブランド力や生産力、販売網といった資産が得られる、いわばWin Winの関係が築けます。エドウィンの事業再生における一連のプロセスはその好例と言えます。
事業再生をお考えの方はもちろん、今は順調でもいざというときのために、経営者の方は事業再生ADRをはじめとした事業再生のプロセスについて知っておきましょう。
まとめ
事業再生の道は法的整理だけではありません。確かに破産手続きを行えば、債務を整理できるかもしれませんが、社会的な信用が失われ、事業を継続していくことが困難になる危険性も大いにあります。
私的整理は裁判所が介在せず、自分で債権者と調整を行わなければいけないため、必ず成功するとは限りません。しかし、社会的な信用が守られ、本業を残せるという大きなデメリットがあるのです。
特に今回のエドウィンの事例のように、一過性の要因で経営不振に陥った場合は、まだ再生のチャンスがあります。債務を整理して、スポンサーに支援してもらえば事業再生は十分可能です。ブランド力や生産力が高い、企業価値がある企業であると認められれば、スポンサーは必ず現れます。
事業再生を目指すのであれば、まずはその手段を知り、どれが合っているのかを考えてみましょう。専門家の手を借りるのも非常に効果的です。こちらのページでは相談先として特におすすめしたい5社を厳選してピックアップしていますので、事業再生でお悩みならぜひ相談してみてください。
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