【ゆうちょ銀行も参入】中小企業の救世主!事業再生ファンドの活用を

2024年09月25日

「コロナ禍での売掛金をなかなか回収できない」「経営を立て直すためのゼロゼロ融資なのにスムーズな返済の目途が立たない」…コロナ不況からいまだに立ち直れず、「赤字」や「倒産」の2文字が目の前にちらつく中小企業の経営者は多いことでしょう。そこで、経済産業省がセーフティネットとして「再生支援の総合的対策」を策定し、2024年8月にはゆうちょ銀行も参入を表明し、再生支援ファンドを立ち上げることとなりました。

「事業を再生させたい」という意志がおありなら、諦めてはいけません。利用・活用できる制度はまだまだあります。まずは、経済産業省が金融庁・財務省とも連携の上、策定している「再生支援の総合的対策」についてご説明しましょう。

ゼロゼロ融資のこれまでの経過については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
【ゼロゼロ融資】追加支援策!コロナ借換保証がスタート | 事業再生のリアル
2023年がピーク!ゼロゼロ融資の返済をどう乗り切るか?(前編) | 事業再生のリアル
2023年がピーク!ゼロゼロ融資の返済をどう乗り切るか?(後編) | 事業再生のリアル

ゆうちょ銀行も参入する事業再生ファンド

ゼロゼロ融資は、コロナ不況にあえぐ中小企業を支援するため、2020年から開始されました。2023年7月から返済が本格スタートし、2024年4月時点では5割近くが民間ゼロゼロ融資の返済中という状況です。

そこで、経済産業省は民間ゼロゼロ融資の資金繰り支援として、「コロナセーフティネット保証4号」「コロナ借換保証」「日本公庫等のコロナ特別貸付」「コロナ資本性劣後ローン」について、2024年6月末まで延長することを決定。それとともに「再生支援の総合的対策」を策定しました。

これを受けて、2024年8月、ゆうちょ銀行が再生支援ファンドを立ち上げました。ゆうちょキャピタルパートナーズ株式会社傘下の子会社と、株式会社ジェイ・ウィル・コーポレーション傘下の子会社が共同で組成し、運営する「ジェイ・シグマ投資事業有限責任組合」です。中堅・中小企業の事業再生や事業承継の支援を柱にしています。

今なぜ、事業再生ファンドが注目されているのか

そもそも、事業再生ファンドとは、経営不振や経営破綻に陥った企業に対して投資を行う仕組みのことです。そして、企業価値を向上させることによって事業を再生させ、成功の暁にはその企業の株式や債券、保有資産などを売却することでキャピタルゲイン(売買差益)を獲得することが主な目的となっています。

日本の全企業数に占める中小企業の割合は99.7%。つまり、今後の日本経済の成長は、企業の大多数を占める中小企業の持続的成長にかかっていると言っても過言ではありません。しかし、多くの中小企業の収益源が減少傾向にある中、成長の礎となる積極的な人材確保や設備投資が行えなくなるだけでなく、融資返済さえ滞ってしまう状況となっています。

これは、地域に根ざす金融機関にとっても、将来が危ぶまれる事態となってしまいます。そこで、金融機関の役割はコロナ禍におけるこれまでの資金繰り支援から、経営改善コンサルティングを含めた事業再生支援へと転換が求められているのです。

ファンドを活用するメリット

事業再生は単なる資金援助ではなく、投資と経営支援という両輪であることが特徴です。事業再生を行う金融機関にとってもリスクとリターンがあるわけで、それだけに中小企業の事業主の実情に伴う真摯な支援とアドバイスを行う必要があります。

中小企業にとっての事業再生のメリットとしては、以下が考えられます。

  • 企業の存続による収入源の確保
  • 従業員の雇用継続
  • 事業承継も同時に実行可能
  • 自社の事業価値の向上
  • 信用保証協会の協力による資金調達

では、次に実際に事業再生による中小企業の成功事例をご紹介しましょう。

事業再生ファンドの支援事例

受け継いだ家業は課題だらけ、立て直しを目指す養豚業

北海道の中央南部の高原で、約5,000頭の豚を飼育しているT社。同社のW社長は食肉ディーラーで2年間営業を学んだのち、実父が経営の同社に入社。その後、同社が最初の再生計画を策定した際、金融機関からの要請で社長に就任しました。まさに「事業承継が降ってきた」ような状況でしたが、養豚業を他社に任せず引き受けたのは、社員の雇用を継続したいという使命感からでした。

当時の経営状況は厳しく、弁護士とともに売掛金や借金の回収からスタート。加工品の販売事業を譲渡し、農場事業への集中を図り、生産を安定化させるため農場HACCP認証も取得。人材確保の面でも課題があったため、J-GAP認証を取得し、従業員の労務管理や安全管理に真摯に取り組んだとのことです。

しかし、台風被害による農場の水没、豪雪による豚舎の倒壊、雷による停電など、度重なる自然災害による被害を経験してしまいます。そこで、災害に負けない体制を作り、業績改善を図るため、取引先金融機関から事業再生ファンドの紹介を受けることとなりました。

現在、再生ファンドからの投資により、1万頭の豚を飼育できる農場へと規模を広げ、さらに飼育頭数を増やす努力を続けているとのこと。ファンドからは投資と同時に社外取締役も受け入れ、取締役会や取引先との会議の体制整備など、継続的な支援を受けています。将来の事業継承を見据え、ファンドの支援を継続しながら、経営体制強化を図り、さらなる飛躍を目指しています。

親会社の経営危機で弱体化し、破産寸前だった回転寿司チェーン

回転寿司人気の波に乗り、国内はもちろん海外にも進出し、ジャスダックへの上場も果たしたMP社。しかし、その後、大手外食チェーンの友好的TOBによって完全子会社となったのち、株主が何度も入れ替わり、中長期的な視野で経営を行えない状況から抜け出せず、経営破綻寸前まで陥ってしまいました。

社外の金融機関や取引先に信用不安が生じ、社内的にもマネジメント層が次々退社するという危機的状況の中、再生ファンドから支援を受けることを決断。当時、MP社の全株式を保有していた投資ファンドが新たな株式譲渡先を探していた過程で、中小企業再生ファンドを紹介され、再生支援協議会の協力を得ながら再生計画を策定することになりました。

中小企業再生ファンドは投資ファンド保有の同社全株式を買い受けるのと同時に、債務超過の解消と事業再生の運転資金として同社の増資も引き受けました。そして、それまでの代表取締役社長を退陣させ、これまでの経緯を最もよく知る投資ファンドの担当者を新たな社長として迎え入れたのです。

中小企業再生ファンドは新社長や幹部と密に情報交換を行い、経営の意思決定から現場のマネジメントに至るまで全般的にフォローし、モラル低下が起きかけていた人事も一新。パート・アルバイトの代表者も含め全社員が直接社長とワン・トゥ・ワンの面談を行える場を設け、社内の意識改革を丹念に行っていきました。また、物流改革を行うことでコスト削減にも成功しています。

衰退が進む温泉街で、経営不振に陥っていた旅館業

コロナ禍で最も打撃を受けたのは、観光業、特に旅館業と言われています。老舗温泉旅館のMもまた、その経済的災禍に巻き込まれた中小企業のひとつでした。団体客中心だった温泉宿はいずれもバブル経済崩壊以降、負のスパイラルの渦中にありましたが、新型コロナウイルス感染症対策としての外出自粛は観光業界へさらに大きな打撃を与えました。

旅館Mも売上は激減し、深刻な経営不振に陥りかけていたところ、県の中小企業再生支援協議会へ相談し、何年もやり取りを重ねたのち、再生ファンドを紹介されることになりました。ファンドの支援を受けながら、同社が自ら策定した再生計画をもとに社長が新たな代表として設立した新会社へホテル事業を譲渡。さらに、旧会社を整理し、債務超過に陥っていた財務を健全化しました。

再生ファンドからは外部取締役を招き入れ、財務やマーケティングの面だけでなく、毎月1回の経営会議はもちろん、人材教育、サービス内容、温泉施設の設備に至るまで、一体となって改善を図ることができました。ファンド会社にとっても利益を上げることが必然であるため、再生に向けて同じ意識で改善が進められたそうです。

まとめ

資金繰りが悪化し、融資の道も閉ざされたとき、「いっそ会社を畳んでしまおうか」と考える経営者も少なくないかもしれません。しかし、事業を終わらせる前に、事業再生というセーフティネットがあることを思い出してください。

ただし、事業再生は一朝一夕で成り立つものではありませんので、思い立ったら一日でも早くプロへ相談されることをおすすめします。また、どんな薬にも副作用があるように、事業再生への施策にはリスクが伴うこともあります。

事業再生のメリットもデメリットも知り尽くした専門家なら、ベストな選択をアドバイスできますので、ぜひ一度ご相談ください。

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