2024年11月19日
近年、水害・地震等の災害やコロナ禍の影響などがあいまって、資金繰りに苦しむ地方企業は少なくありません。
地方銀行や信用金庫をはじめとした地域金融機関では、このような企業に対して、事業再生サポートへの取り組みを強化しています。
本記事では地方銀行の事業再生支援にスポットをあて、地元密着型の金融機関が地域経済の安定化を目指し、再生支援の役割を担う取り組みなどについてご紹介します。
目次
地方銀行が挑む、企業の事業再生支援の現状
IT化の著しい現代においても、都市圏から距離のあるローカルエリアではやはり、ビジネスが進めにくい側面があるでしょう。
人口減少や高齢化などにより、もともとあった産業が弱体化する動きも各所にみられます。
安定した雇用なくして、地域経済は成り立ちません。また、その土地ならではの受け継がれるべき産業も少なくないでしょう。
こうした状況に、地方銀行などのローカル金融機関が今、立ち向かっています。
地方銀行による事業再生支援の取り組みが増加中
近年、地方銀行による、企業の事業再生支援への積極的な取り組みが目立つようになりました。
事業再生サポート専門セクションの新設や事業再生人材の育成などで、支援体制の強化を図る地銀や信金も出てきています。
ローカル金融機関によるこうした支援の背景には、地域経済の活性化だけでなく信用リスク低減や手数料収入アップなどといった狙いもあるようです。
倒産件数の増加を背景に、再生支援の重要性が高まる
企業の倒産件数が増加している昨今、地域に根ざした中小企業の経営改善ニーズは特に高まっており、事業再生支援が改めて注目されています。
コロナ禍や物価高の影響で経営に行き詰まるローカル企業は多く、地銀によるテコ入れでこうした企業をサポートしつつ、地域経済を立て直す必要があります。
再生支援は、金融機関の果たすべき役割といっても過言ではないでしょう。
コロナ後の影響:企業の過剰債務問題
アフターコロナを迎え、コロナ禍による借り入れを行っていた企業は、返済のフェーズに入っています。
事業が元の状態を取り戻し、無理なく返済できるにこしたことはありませんが、コロナの影響がなくなっても売上が回復しないケースも少なくないようです。
借入返済が始まり、事業再生の需要も高まる
コロナ禍で実施された無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格化し、借入金の返済負担に苦しむ企業があとをたたないようです。
このため事業再生支援の需要が増加し、金融機関の優先課題となっています。
特に、地方の中小企業では自己再生が難しいケースも多く、地銀などによる支援が不可欠な状況です。
倒産抑止と地域経済の安定に向けて
資金難に陥る企業が増えた地域では、そのエリアの経済全体がダメージを受けやすくなります。
倒産の抑止や経済の安定を図るために、事業再生の取り組みが必要です。
地方銀行や信用金庫など、地域に根ざした金融機関が事業再生を積極的に支援することで、地元経済の持続可能性も高まるでしょう。
再生支援への新たな取り組み:地銀などの事例
全国各地の地銀や信金ではそれぞれの特色を活かし、地域性にみあった事業再生サポートの方法を模索しています。
主な取り組みをご紹介しましょう。
セクションごとの分業と外部連携で、地元企業を包括的に支援する北洋銀行
北海道が基盤の北洋銀行では顧客である地元企業に対して、正常な経営が行われているかどうかの審査をコンスタントに行い、財務状況を詳しく把握しています。
審査は企業の経営状況や再生のフェーズなどにより、担当するセクションが分かれています。
事業再生の見込みがある企業には再生支援を実施する一方で、経営状況によっては廃業・事業譲渡などのサポートを行うこともあるそうです。
顧客に寄り添い、細かな課題を把握
北洋銀行では地元企業の再生支援で、机上での情報収集に加えて定期的なディスカッションの機会を設け、新たな可能性の発見につなげた事例があります。
膝をつきあわせて何度も話をすることで、資料などでは気がつかなかった潜在的ニーズの発見につながったのでしょう。
また、オフィシャルな場でこうした取り組みを紹介するなど、事業再生に対する積極的な取り組みが注目されています。
みちのく銀行は地元企業の事業再生を長期的に支援
青森市に本店を置くみちのく銀行も、地元企業の事業再生を積極的に行っています。
長らく経営不振が続く地元企業などに、事業再生計画の策定支援を実施し、コンスタントなモニタリングやフォローアップを継続中です。
企業再生の公的機関とも連携し、地元企業の復活を目指すサポート体制をより強固にしています。
多角的な再生支援で、企業を安定した経営状況に導く
みちのく銀行でも、詳細な確認を繰り返すなどして、きめ細かい再生支援を進めています。
サポートする企業に対して資金面での支援だけでなく、新たな管理システムの導入や自社商品の強化などに取り組んだ事例もみられます。
実績豊富な外部機関と連携し、再生計画を確実・迅速に進める体制も整えています。
中小企業の事業再生や経営改善の支援強化に取り組む筑波銀行
茨城県のほか栃木・千葉などに顧客ネットワークをもつ筑波銀行も、地域に根ざした金融政策の一環として、中小企業に対する事業再生支援や経営改善のサポートを強化しています。
支援する企業に適した取り組みやコンサルティングを行うことで、地域産業の発展・充実に寄与しています。
SBIホールディングス株式会社との提携も
金融人材の育成や金融商品・サービスの提供などを充実させるため、SBIホールディングス株式会社と業務提携し、かねてより地域経済の活性化を図ってきた筑波銀行。
近年は地元企業向けファンドを共同設立し、事業再生・継承をはじめ、地元スタートアップ企業の育成支援などにも取り組んでいます。
山陰合同銀行は無担保・無保証融資やDDSで地元企業を支援
山陰合同銀行も、地場産業の再生支援に尽力する地銀のひとつです。
無担保・無保証の融資商品層を手厚くし、資金調達しやすい環境を整えているほか、既存の貸出債権を他より返済順位の低いローンに切り替えるDDS(資本性劣後ローン)の積極的提案などの施策も推進しています。
再生支援の外部専門家などとも連携し、地元企業の再生・成長を幅広くバックアップしています。
金融機関の役目を超えた再生支援
鳥取・島根の両県に顧客基盤をもつ山陰合同銀行では、幅広い支店ネットワークにより、きめ細かなサポートができるという強みがあります。
個々の企業再生をサポートすることで、古くから受け継がれてきた町や港、伝統産業の維持・発展や、新たな成長産業の創出を行うなどの事例がみられます。
地方銀行が再生支援に力を入れる理由
地銀による地元企業の支援には、地域経済を活性化するという命題があります。
一方で複数の地銀がエリア内でサービス競争をしていたり、もともと数の少ない顧客を取り合っていたりと、それぞれの地域による事情もあるでしょう。
経営改善支援を通じた地域企業との関係性強化
地域企業との関係性を強化することは、地方銀行にとって重要な経営戦略です。
再生支援によって企業の成長を後押しすることで、メインバンクとしてのポジションを確立し、日常的な経営情報の把握が可能になります。
これにより、早い段階でのリスク発見や信頼関係の強化がなされ、ひいては地域経済全体の安定化を図ることにつながります。
再生支援業務に対する地方銀行の課題
地方銀行自身も日々、経営管理しながら組織として存続する必要があります。
しかし、順風満帆とはいえない経営体制の地銀も、少なくないようです。
実務を担当する人材の不足
事業再生支援に取り組む地方銀行では、専門的な知識・経験をもつ人材の不足が課題とされています。
経営状況の芳しくない地銀のなかには、手数料ビジネスの拡大等を重視した結果、経営改善支援に精通する人材育成が手薄になっているところもあるようです。
再生支援のノウハウをもつ人材の育成は急務です。そうした人材を育成するための資金・時間の確保は、地銀の存続に大きく影響するでしょう。
中小企業庁の人材育成支援
金融機関のこうした状況を受け、中小企業庁は事業再生支援を担う人材の育成支援に積極的に取り組んでいます。
再生支援に関するノウハウを学ぶ機会を提供
中小企業庁では地銀・信金の職員を中小企業活性化協議会(活性協)などの専門機関に派遣し、再生支援のノウハウを学ぶ機会を設けています。
中小企業活性化協議会は中小企業の事業再生をはじめ、収益改善などを支援する公的支援機関です。各都道府県に設置されています。
地銀・信金はスタッフを調整し、こうした公的機関と連携して、自行員・職員に再生支援のプロを増やす方向に舵を切りはじめました。
再生人材不足の解消に向け、さまざまな取り組みが進められています。
地銀・信金職員を対象にした実務研修の意義と課題
地銀・信金のスタッフが事業再生支援について本格的に学び、専門知識やノウハウを身に付けることで、地域企業に対する支援の質は少しずつ向上しています。
一方で、人材の流動性や研修後のフォロー体制といった課題も指摘されており、効果的な体制を構築する工夫が求められています。
地方銀行による事業再生支援の展望
日銀の利上げや資金調達コストの上昇などで、資金繰りが厳しくなるローカル企業は増加の一途をたどっています。
地方銀行による1日も早い、的確な事業再生支援が待たれます。
企業の資金繰り悪化傾向で、再生支援の動きが顕著に
地方銀行としては、資金面で苦境に立つ地元企業に適切な支援を提供し、再生の道筋を確保することは重要な任務です。
地銀の再生支援がパワーアップすることで、各地域での持続可能な経済成長が促進され、地域社会全体に恩恵が及ぶことが期待されています。
地域金融機関と地元企業の連携強化
地域の金融機関が地元企業の再生をサポートすることは、両者の関係性を深めることにも役立ちます。
再生可能な企業を見極め、そうした企業の再生をサポートし続けることで地場産業の基盤が揺るぎないものになれば地銀の信頼度もアップし、win-winの関係を築くことにつながるでしょう。
【まとめ】「持続可能な地域経済」という視点で考える、事業再生の重要性
地銀・信金などによる事業再生支援は地元企業の救済という目的のほか、持続可能な地域経済の構築という重要なミッションがあります。
地方銀行が積極的に再生支援を行うことで、地場産業が健やかに成長し、雇用や経済活動が安定する基盤が整うでしょう。
地域金融機関の存在意義という観点からも、今後の事業再生支援のあり方に注目したいところです。
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