【公認会計士が語る事業再生】企業を「再成長」させることこそが事業再生の本質だ

2023年09月26日

企業を「再成長」させることこそが事業再生の本質だ

-本気で再生を目指すことができる企業は、まだ沢山ある-

山本氏の手掛ける事業再生と一般的に行われている事業再生にはどのような違いがあるのでしょうか。まずは一般的な事業再生とはどのような内容なのでしょうか?

全部が全部ではないですが世の中で言われている『事業再生』は、これは事業再生じゃないよねっていうものも多いと思っています。例えば、有利子負債圧縮のために資産を売却しましょうとか、返済資金確保のために役員報酬や賞与を減らしましょうとか、数字の世界での帳尻合わせをしても企業は再生しません。巷で話題になっている「ゾンビ企業」が増えるだけです。

厳しいビジネス環境の中、企業を筋肉体質にするということはもちろん必要な事と思いますが、対象企業の従業員だけが痛みを伴うような計画を作っても、能力のある従業員は退職しますし、残っている従業員のモチベーションも低いままとなります。この手法だと債権者への返済は進められますが、企業は苦しい状態のままです。これでは本当の意味で事業再生することは困難だと思います。

確かに、仰っている内容だと本当の事業再生には結びつかないように感じました。それに対して山本氏の事業再生はどういった形なのでしょうか?

私達は企業を再成長させることができる事業再生を目指しています。もちろん、結果として足元の業績改善に結び付けていくためには当初は痛みを伴いますが、企業を再成長させるための道筋を明確にし、社長から従業員にいたるまで全社で目標共有することで、自ずと悪いループから良いループへと企業が変化します。

これを実現させるには、我々の存在が「外部の人」のままではダメで、中に入り込んで同じ目線に立って再生の道を共に考えていかなければいけません。その過程で深い信頼関係を築き、伴走して課題解決していくということが欠かせません。

一般的に皆さんが想像されるような戦略系コンサルでは、「今のマーケットはこうだから、こうゆう戦略でやっていこうね」というストーリーは提示してくれるのですが、現実問題として資金や人材の制約で実行できる場合とそうでない場合があって、誰もが耳にするような大企業に言ったら実行出来るけど…。みたいなことがザラにあります。

たとえその戦略が正しかったとしてもその会社にとって本当に必要なことは、資金や人材やノウハウが不足している現実を理解し、実際に会社が実行可能な施策へと落とし込み、その実行を支援して成果を積み上げていく事です。それを繰り返すことで企業が再成長軌道に乗り、自ずと数字も変わり、本当の意味での事業再生が図れるものと考えています。

企業の中に入り込んでいくとなると、経営層だけでなく現場の方ともお話されることが多いですか?

そうですね。実際、上層部や社長が現場のことを全然分かっていないという事は結構あります。上層部が見えていない部分については、やはり従業員の方ともお話をしないと分からないです。もちろん従業員の意見だから全てが正しいという訳でもないですが、現場の話も聞いていくことで会社の本当の問題点が明らかになり、社長に対して正しい示唆を出すことができるようになります。

そうなると1社の事業再生について必要な時間は必然的に長くなるのではないかと思うのですが、平均してどのくらいの期間を掛けるのでしょうか?

本当の意味での再生を図ろうとすれば、大体早くて3年、遅くて5年といったところです。会社の事業に強みやポテンシャルがあるのであれば早期に再生させることは可能です。

以前私が関わった、あるメーカーさんの事業再生で上手くいった例についてお話しします。私が関与した当初は20億くらいの赤字からスタートしましたが、間違いなく事業自体にポテンシャルはあって、必ず再成長の絵を描けるはずだと私は感じていました。市場もあるので、徹底的に自社工場の生産力を強化してフル稼働することで単位当たりのコストも減少し、あっという間に利益化することに成功しました。ちなみにその会社は、我々が関与後5年後には上場まで果たし、今や30億以上の利益を出せる高収益企業になっています。

企業に深く密着することの大切さがわかりました。先程、企業を再成長させて事業再生を目指すというお話がありましたが、この辺りについて更にお話を伺ってもよろしいでしょうか。

本当の事業再生とは何だろうかと考えたときに、従業員や経営者の収入が増えて、お金を貸りている金融機関への返済も滞らないようにする。やはり関わる全員が良くなるというのが大切で、これは根本的に会社の売上を上げることでしか達成が出来ません。

全員が幸せになれるように経営を向上させていくというのは、一時的なブームに乗って当てるのではなくて、永続的に安定した売上を作り出す仕組みを常に再構築していく必要があります。だから私は、事業を再成長させることができて初めて事業再生だと思っています。

ただこの再成長については決まった答えは無いですし、日本の中小企業には、実は「やっていないだけ」みたいなことが沢山あるんです。

企業が「やっていない」こととは具体的にどういったことなのでしょうか?

分かりやすい例ですと、私が関与したお客様が、商品の製造コストが上がってしまっているからもう販売価格を値上げしないと立ち行かないというフェーズに入ったときに、「いや、値上げなんかしたら絶対ウチは外されますよ」とかなり難色を示されました。ですが、主観に囚われずダメもとで一回お願いしてみましょうとアドバイスして、実際行動に移してもらったら、主な取引相手は納得してくれて一件落着みたいなことがありました。

要は、取引相手は大手でこちらは中小だから、取引相手の言うことは全部聞かないといけないといった考えが染みついていて、本来の価値に沿った価格設定が出来なくなっていた。自分たちの中の常識に囚われて考えてしまうので、その考え方は古いよと、立ち向かっていかないと会社は変われませんよと、背中を押してあげることはよくあります。

価格の調整や販路の拡大など、こういったやるべき事をやり切れていない会社は沢山あって、これを考えるだけでも再生への道を歩める会社は多くあると思っています。

あるいはマーケティングの話ですが、これまでシニア層向けの贈答用だった商品を若年層向けにリニューアル出来ないかだったり、もっと違う用途の商品を作れないだろうかというように、視点を変えたりマーケットを少し変えてあげるだけで日本国内でもブレイクする可能性はあると思います。

あとは海外向けの展開を考えたりとかですね。日本の文化や商品はまだまだ世界で必要とされているものはあるので、正直海外は進出した者勝ちみたいな部分もあります。

でもこういったことを考えろとか、やってみろと言われても分からないことだらけだったら踏み出せないので、そこで我々が再成長の芽を育てていく、ノウハウや資金調達などのあらゆる面で支援できるような仕組みを整えていかないとダメなんです。

とにかくやりきらないうちに諦めないで欲しいなと、諦めたらそこで負けですから。そこまでやりきってダメだったら諦める。みたいなところに行くまでは、とにかくやりきりましょうというのはよく社長に話してますね。

point
  • 事業再生とは企業を再成長させることである
  • 3~5年かけて根本的に売上を上げることで会社の再生を目指す
  • 諦めずに取り組めば再生可能な会社は実は多く存在している

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