民事再生の道を選んだ丸住製紙、これからどうなる?!

新聞用紙で国内シェア4位を誇る丸住製紙が、2025年2月28日に東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。丸住製紙は、大手商社「丸紅」のグループ会社であり、1919年に設立した四国の老舗製紙会社です。一見、地域に根ざした安定企業に見える丸住製紙が民事再生法の適用に至った理由にはどのような背景があるのでしょうか。

今回は、老舗企業の丸住製紙がどのようにして破産に追い込まれていったのかを時系列順に沿って解説していきます。

丸住製紙の経営破綻が注目を集めている理由

丸住製紙は、大手商社の丸紅グループが株式の32.2%を保有している四国の大手製紙会社です。しかし、2024年11月期決算時点で約590億円の負債を抱え、民事再生法の適用を申請しています。そこで丸紅は、グループ企業である丸住製紙への支援を見送る方針を固めています。

丸住製紙が本社を構える四国中央市は製紙業が盛んであり、「紙のまち」と呼ばれているほどでした。しかし丸住製紙の債務不履行により、2025年2月1日付けで四国中央市が新年度の予算案に計上していた土地の購入費である約7億1200万円の歳入が見込めなくなりました。同市では予算の成立後、補正することにしています。

同時に、四国中央市に工場を構える大王製紙も2025年3月期の連結最終損益が70億円の赤字となる見通しを発表しています。同社の2024年4~12月期における連結決算は、売上高が前年同期比微減の5022億円、最終損益が62億円の赤字となっていました。

この丸住製紙の民事再生法への適用申請と大王製紙の経営危機は、四国中央市の地域経済に与える影響を憂慮しています。かつては優良産業に見られていた製紙業界にいったい、何が起こっているのでしょうか。

そもそも、丸住製紙とはどんな会社なのか

設立 1946年(昭和21年)2月
資本金 12億円
代表者 代表取締役会長 星川一冶
代表取締役社長 星川知之
従業員数 478名
売上高 422億円(令和6年度)
1919年7月 愛媛県金生町(現:四国中央市)で手漉きの和紙業者として創業
1946年2月 丸住製紙株式会社設立(会社組織に変更)
1954年3月 丸井製紙(株)を吸収、川之江工場として発足
1955年11月 本社を金生工場から川之江工場に移転
1979年12月 大江工場が完成、工場増設に伴い業績を伸ばす
※ピークの2008年11月期の売上高は約743億3,500万円
1995年7月 マルスミ・ワンガレイ(株)設立(丸紅)
2006年6月 バイオマス発電の完成
2014年3月 太陽光発電所の完成、エネルギー事業進出
2019年4月 ペーパータオル・ウエットティッシュなど、衛生用紙事業にも領域を拡大

丸住製紙は、1919年7月に創業した社歴100年を超える有名な老舗企業です。手漉き和紙業者として創業し、その後は新聞用紙など、出版・印刷・情報・加工用のさまざまな洋紙の製造を手掛けています。

地元を代表する製紙会社として知名度を有していた同社。四国中央市内には川之江工場と大江工場という2カ所の主力工場を持っており、ピーク時の2008年11月期には売上高約743億3500万円を記録していました。特に強みを持っていたのは新聞用紙であり、国内シェア第4位を保持しています。

しかし近年では、オンラインニュースや電子書籍といったデジタル媒体の需要が高まる一方、同社が取り扱う新聞や出版物などの紙媒体の需要が減少するといった市場環境の変化から業績は次第に低迷していったのです。

その低迷を打開するために2019年以降に同社では、ペーパータオルやウエットティッシュといった衛生用品やコスメ分野へと進出し新商材の取り扱いを強化していきました。そして、その間には積極的な設備投資も実施し、2023年4月には約90億円を投じて大江工場に設置した衛生用紙抄紙機および加工設備も稼働していったのです。

「紙のまち」として有名な四国中央市

四国中央市は四国東部に位置し、四国地域における重要な産業都市です。江戸時代には駿河から和紙の製法が伝えられ農家の副業として広まったことから製紙業が発展しており、「紙のまち」として有名となっています。

そのため、四国中央市の主要企業では紙やパルプ、書籍、パネルなどを取り扱っており、紙製品の生産に特化した企業が多く存在しています。市内の製紙業としては「大王製紙」のイメージはありますが、丸住製紙も製紙会社としては有名です。

国内においては、静岡県の富士市、北海道の苫小牧市が「紙のまち」として有名ですが、豊富な森林資源と長年の製紙技術の蓄積により、四国中央市も「紙のまち」として有名となっています。

近年における製紙業界の動向

かつては花形分野だった製紙産業も今や衰退産業となっています。

デジタル化の進展や環境意識への高まりなどにより紙需要は減少していますが、その事業数は多いままです。そのため、生産設備は過剰となっており、製紙各社は操業度を維持しようとすることから。価格競争に陥りやすくなっています。

しかしながら製紙業界は今、ネット通販の急成長に伴い、段ボール原紙の需要は増加傾向にあります。また、脱炭素や新素材の開発などに対して、環境(Environment)、社会( Social)、ガバナンス(Governance)といったESG分野への取り組みも進めているほか、海外市場への展開などによって将来的な製紙業界の成長も期待されています。

紙・板紙の国内需要について

紙の需要、特に印刷用紙や新聞用紙などの需要は、リーマンショック以降に減少を続けており、現在まで回復することなく推移しています。ただ、板紙の需要については、段ボール原紙が加工食品といった食品分野や家電向けなどの安定した需要が支え、ネット通販事業の普及を背景に堅調に推移しています。

丸住製紙では紙分野が売り上げの7割を占めていたことから、多額の負債を抱えることとなっています。

経営破綻までのカウントダウン

2023年4月下旬 16行の金融機関に借入金の元本返済の猶予を依頼し、私的整理を開始一部金融機関から追加で融資も受ける
2023年5月 借入金の上位6行から運転資金の支援で約50億円を調達
2023年11月期以降 官報への決算告示を止める
(TSR独自入手した決算書によると、2023年11月期は162億円2,100万円の最終赤字、2024年11月期も45億9,400万円の最終赤字で、3期連続の赤字)
2023年12月 追加で約43億円を調達
(上記とは別に、2023年5月~12月にかけて、上位6行を含む9行のシンジケート団を組成し、新規事業の衛生用紙事業の新工場への設備資金として47億円を調達)
2023年12月 全行の同意を受けて事業再生計画案が成立
パルプシートを製造するパルプ抄取りマシン導入やペーパータオルなどの強化で再建を目指す
2023年12月以降 上位2行からは運転資金の支援で上限15億円の当座貸越枠の設定を受ける
2024年12月初め 複数から丸住製紙が資金繰り悪化から法的倒産を視野に入れているとの情報(TSR)
2025年2月1日 丸住製紙側の債務不履行のため、四国中央市は土地の分譲契約を解除
2025年2月20日 新聞用紙や印刷用紙、情報用紙などを生産する洋紙事業から撤退(事業の約7割を占めていた)することを発表
→今後は事業の3割のパルプ類製造、太陽光発電事業等に注力するらしい
2025年2月26日 定時株主総会を開催、会社提案通りに役員改選
2025年2月28日 民事再生法の適用を申請
→事業を継続しながらスポンサー選定を継続するために申請した
2025年3月3日 債権者説明会を開催
2025年3月6日 丸住製紙取引先など向け 愛媛県信用保証協会や金融機関が窓口を開設

ペーパーレス化の広がりと新聞や雑誌の発行部数減などにより紙の需要が落ち込んでいた丸住製紙。バイオマス発電や太陽光発電所で進出していたエネルギー事業も、コスト高や石炭高騰で環境が急激に悪化していきました。

しかも近年では新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞に加え、原材料、エネルギー価格の高騰なども重なったことで、多額の損失が発生2022年11月期には約117億1100万円、翌2023年11月期には約150億円の最終赤字を余儀なくされたのです。

そこで、200人規模のリストラ実施や金融機関からの支援、スポンサー支援などを模索して経営改善を目指していました。こうした中、2025年2月に入り主力事業である洋紙からの撤退を取引先に通知するなど動向が注目されていました。

その際には500人の従業員の中から希望退職者を募り、既におよそ100人が退職。今後も引き続き200人規模で人員削減を進めていくそうです。

経営破綻に追い込まれた2つの理由

丸紅のグループ企業である四国の名門製紙会社だった「丸住製紙」が経営破綻に陥り、適用民事再生法の適用を申請するに至った背景には、大きく2つの理由が存在します。ここからは、その理由の詳細を解説していきます。

①確固たるメインバンクの不在

丸住製紙のメインバンクは、三井住友銀行であり、次いで広島銀行でした。同社では、この2行に条件を競わせていたのです。しかし丸住製紙側ではこれまで「メインバンクはこの銀行」と決めることなく、しっかりとした関係を築いてきませんでした。

また、枯渇しつつある丸住製紙の資金繰りを支えていたのは地方銀行である広島銀行です。しかし地方銀行である広島銀行には、「名門製紙会社である丸住製紙をつぶすわけにはいかない!」というメンツはあっても、経営破綻を回避させるだけのパワーはありませんでした

②新聞部数の激減

2024年における新聞発行部数は前年比6.9%減の2661万部2000年の発行部数5370万部と比べると、なんと半分以下に減少しています。

事実、2025年1月末をもって産経新聞社が夕刊フジを休刊し、中日新聞社が東京中日スポーツの紙印刷を休止しています。また、日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞といった全国紙でも、各地で夕刊の発行や配送を取りやめる動きがあります。そのほかにも、書籍・雑誌やコピー用紙なども激減が続いており、丸住製紙の主力事業分野で進む需要激減の打撃は大きかったのです。

この背景には近年のペーパーレス化の動きが大きく関わっています。丸住製紙では2018年11月の売上高629億円が、この5年間で3割近く落ち込み、経営破綻の大きな要因となっていました。

丸住製紙の未来

丸住製紙では2025年2月に同社で7割を占める紙事業から撤退することを発表しました。

そのうえで、ペーパータオルやウエットティッシュなどの衛生用紙と、紙の原料であるパルプ事業を成長させることで売上高を回復させるという再生計画ではあったものの、新型コロナウイルス感染拡大の終息により衛生用品の需要が想定を下回り、経営立て直しまでにはつながりませんでした。

このように一見立て直しは難しそうに思われますが、新たにKMPDコンサルティングと契約し、衛生紙やパルプ、売電で再起を図ろうとしています。また、2025年3月3日に開催された債権者説明会では、米国でバイオ燃料などを取り扱うペトロン社が丸住製紙のパルプ事業と売電事業の資産に興味を示していることが明らかにされています。

また主要な紙・板紙類が軒並みマイナス成長を続ける中、日本製紙連合会によると、2024年における衛生用紙の国内出荷量は前年比2.5%増の186万8000トンと唯一プラスを実現しています。2025年の内需予想は0.8%増の213万トンと過去最高更新を見込んでおり、EXPO 2025 大阪・関西万博の開催にともなうインバウンド需要や人流増に伴う、宿泊施設など業務向けに対する、さらなる用紙の需要増も期待されています。

経営難でお困りの際は事業再生のコンサルへ相談を

大手商社のグループ企業で長い社歴を持つ大手企業であっても、時代の流れによって資金繰りが悪化し、負債を抱えるようになる場合もあります。「資金繰りが苦しい」「経営難に悩んでいる」といった悩みをお持ちであれば、企業を復活させるためには迷わず事業再生コンサルタントへご相談ください。

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