不正まみれのビッグモーター、事業再生の道はあるのか?

2022年から2023年にかけて次々と不正行為が明るみになり、中古車販売業界だけでなく保険業界も巻き込んで大きな騒動を呼んだビッグモーター事件。「店頭の街路樹に除草剤を散布する」といった報道など、記憶に新しい事件だと思います。 中古車販売業界でシェア1位を誇っていたビッグモーターは、なぜこのような不正行為に手を染めたのでしょうか。これから再生する道はあるのかなどを、経緯を追って解説します。

不正発覚が相次ぐビッグモーターとはどんな企業なのか

まずはビッグモーターの創業から急成長の軌跡を見ていきます。
ビッグモーターは、創業者の兼重宏行氏が1976年(昭和51年)に山口県岩国市で「兼重オートセンター」として創業したごく小さな中古車販売店でした。そして、1978年に株式会社に改組し、1980年に「株式会社ビッグモーター」と社名を変更。それからしばらくは山口県下の主要都市に出店を進めていきました。さらに1995年には同業他社を買収して、九州地方や中国・四国地方へ進出するようになりました。

M&Aで拡大、全国へ店舗展開し業界トップへ

そこに大きな転機が訪れたのが2005年です。関西の老舗中古車販売チェーンである「ハナテン」を事実上の支配下に置いたことでした(のちに完全子会社化)。続いて、自社の店舗も拡大。神奈川県や千葉県を皮切りに、関東地方や東北地方にも出店を開始するようになりました。
創業から一代で、日本の中古車販売業界で売上高トップを誇るまでに成長する歴史がここから始まるのです。帝国データバンクによると2022年度の売上高は推定5800億円、従業員数6000名、全国300店舗以上(2023年5月時点)を抱え、中古車販売業界における国内市場シェアは15%とトップを占めていました。

整備工場を併設したワンストップ型店舗で収益アップ

ビッグモーターの大きな特徴は、車検工場や板金工場を持ち、車検や修理まで自社で行っていたことです。このように自社で修理や板金、車検を行えるようになったことで、仕入れた中古車を整備して高く販売できるようになりましたした。そしてこのことで、修理や板金、車検などを外注に出す必要がなくなり査定額を高くすることも可能に。査定額の高さを売りにできるようになったのです。

また、「車のことならなんでもお任せ」をキャッチコピーとして、中古車・新車の売買のほかに車検や一般整備、損害保険代理店として「ワンストップショッピング型」の店舗を展開できるようになりました。ただその代わりに、車検や整備、保険業務を一括して行えることで諸費用を高く設定し、「保険の手数料で利益を出す」という利益構造になっていたといわれています。

ビッグモーターの概要と沿革

ビッグモーターの会社概要と沿革の詳細を以下の項目で紹介していきます。

会社概要

社名 株式会社ビッグモーター
代表者 代表取締役社長  和泉伸二
代表取締役副社長 石橋光国
本社所在地 東京都多摩市貝取5-3 2F
http://www.bigmotor.co.jp/
業務内容 国産車、外国車の中古車・新車販売及び車両買取業務
車検・一般整備及び鈑金塗装業務
売上高 推定約5800億円(2022年9月期)
設立 昭和53年5月
資本金 4億50百万円
取引銀行 三井住友銀行、広島銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、中国銀行、他
従業員数 6,000名 (2021年2月時点)

参照:ビッグモーターWEBサイト https://www.bigmotor.co.jp/company/
帝国データバンク https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230713.pdf

経営理念

経営理念 1.常にお客様のニーズにあったクオリティの高い商品、サービス、情報を提供する
2.目標利益を確保して会社を存続発展させる
3.社員の生活安定向上を図る

参照:株式会社ビッグモーターの社是・経営理念・企業理念

会社沿革

1976年(昭和51年)1月 創業者兼重宏行が、出身地岩国市南岩国町で「兼重オートセンター」を個人創業
1978年(昭和53年)5月 株式会社に改組、法人化する
1980年(昭和55年)2月 株式会社ビッグモーターに社名変更
その後着実に増資を重ね、県下主要都市への出店準備を整える
1984年(昭和59年)7月 下関市に進出、指定整備工場を併設した下関店オープンする
1995年(平成7年)10月 株式会社エム・エー・シーを買収し、100%子会社で事業承継
2003年(平成15年)8月 有限会社バイキングを有限会社ビッグ九州に社名変更
2003年(平成15年)10月 株式会社エム・エー・シーを株式会社ビッグ四国に社名変更
2013年(平成25年)1月 ㈱ビッグ四国・㈲ビッグ九州・㈱ビッグアシスト(100%出資子会社)3社を吸収合併
2015年(平成27年)11月 ビッグモーター本社を東京都港区に移転
2023年(令和5年)10月 ビッグモーター本社を東京都多摩市に移転

参照:会社沿革|BIGMOTORについて

ビッグモーターの不正行為を時系列で解説

独自のビジネスモデルにより、中古車販売業界で売上高業界トップにまで成長したビッグモーター。しかし2022年から2023年に相次いで発覚した同社の不正行為には、「道路運送車両法違反」と「保険業法違反」という大きく分けて2系統がありました。
1つ目の不正は「整備工場による不正車検」、2つ目の不正は「修理費水増しによる保険金不正請求」です。

年月 不正車検など 保険金不正請求
2021年秋ごろ 損害保険会社の業界団体へ内部告発がある
2022年初め 損害保険ジャパン、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の3社がサンプル調査を実施。その結果、水増し請求が疑われる事案が見つかる
2022年2月 びわ湖守山店で、事業停止(25日間)などの処分
2022年8月 ビッグモーターによる保険金不正請求とその不正事実を知りながらも、一部損害保険会社が取引を行っていると報道される
2023年1月 これらの問題を調査するため、
ビッグモーターが特別調査委員会を設置
2023年2月 唐津店で、保安基準適合証等の交付停止(15日間)の処分
2023年3月 熊本浜線店で、指定自動車整備事業の指定の取り消し、自動車検査員の解任命令の処分
2023年6月 宇都宮南店で、指定自動車整備事業の取り消しと自動車検査員の解任命令の処分
2023年7月18日

ビッグモーターより調査報告書が公開される

調査報告書により、水増し請求を実施していたのは、ビッグモーターが保有する全国33工場の全てであることが判明。
水増し請求のために故意に車体を傷つけたり、不必要な部品交換や塗装品質を実際より高く偽るなどの手口が明らかになる

2023年7月 国交省がビッグモーター全国34ヶ所の事業所へ立ち入り検査を実施
2023年7月25日 ビッグモーターの兼重宏行社長、兼重宏一副社長の辞任を発表。後任の社長には、和泉伸二専務取締役が就任
2023年9月

ビッグモーターと関係の深かった損保ジャパン社長が辞任

金融庁はビッグモーターと損保ジャパンへの立ち入り検査を実施

2023年10月 国交省より、立ち入り検査を行った34ヶ所の全ての工場に対し最大90日の事業停止、32ヶ所の指定工場のうち12ヶ所には指定の取り消しなどといった処分を行う方針を発表
2023年11月 伊藤忠商事と子会社の伊藤忠エネクス、投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズが、独占交渉権を含む基本合意書を締結

ビッグモーターはなぜ不正に手を染めてしまったのか

ビッグモーターはなぜ、このような不正行為をしたのでしょうか。原因を調査していくと、大きな2つの原因が見えてきました。

保険手数料を利益とするビジネスモデル

それまで中古車販売店業界最大手だったガリバーを抜いて、業界1位の販売台数を売り上げていたビッグモーター。その数字は、「利益率の高い保険手数料で利益を追及する」というビジネスモデルで上げていたものでした。しかし社員間で罰金が課されていたという報道が2016年になされていたように、その歪みは既に現れるようになっていました。

具体的な内容としては、月間目標額が定められ、目標を下回った販売店の店長が上回った店長に対して現金を支払う慣行がされていたものです。会社側は各店舗の分配表を作成しつつ、店長間のこのやり取りを黙認していたというものでした。

さらにノルマを埋めるべく従業員名義などで保険をかける「架空契約」が行われていたとの報道や証言もされています。また、ビッグモーターと損害保険会社との間では、事故車1台紹介の見返りとして自賠責保険5台分が割り振られていたと見られ、お互いの大きな利益になっていたと報じられています。

ビッグモーターは、本来の中古車販売での利益ではなく、保険手数料での利益を追求していたために、不正な水増し請求や、顧客の車を破損してまでの保険請求につながったのです。

いきすぎた利益至上主義・成果主義の社風

社員間での罰金事件に現れているように、ビッグモーターの利益至上主義の社風も問題されています。保険金の不正請求が明るみになると同時に、「店舗の前の街路樹に対して除草剤をまく」「規制に反して看板を立てる」など、自社の利益を優先し過ぎたモラルに反した行為が次々に発覚しています。

保険金不正請求についても、社内での内部告発がされていたものの黙殺されおり、外部からの「保険金不正請求ホットライン」への告発につながっています。

なお、2023年7月にビッグモーターが公表した調査報告書には、保険金不正請求などの原因に以下のような項目を指摘しています。

  1. 1.不合理な目標値設定
  2. 2.コーポレートガバナンスの機能不全
  3. 3.コンプライアンス意識の欠如
    (内部統制体制の不備、適正手続きを無視した降格処分の頻発など)
  4. 4.経営陣に盲従し忖度するイビツな企業風土
  5. 5.現場の声を拾い上げようとする意識の不足
  6. 6.人材の育成不足

「業績を上げたい」「経営のピンチを脱出したい」といったときに、経営者が利益アップを社員に求めることは多いと思います。そんなときに不正に手を染めるのではなく、共に事業を良くしていってくれる事業再生の専門家を見つけておくことをおすすめします。事業再生のプロであれば、業績アップだけに限らず、人材育成について等様々な視点からの助言もしてくれるでしょう。

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ビッグモーターの現在とこれから

2021年2月時点で、6000人の社員が在籍していたビッグモーター。一連の不祥事や不正疑惑を経て、2023年1月から3月の間だけで約1000人が退職しています。
また2023年8月には、不祥事の影響により売り上げが減少し経営状態の悪化が懸念されるとして、ビッグモーターは金融機関に対して借入金90億円の借り換えを要請しています。ただ、融資を続けることのリスクが大きいとしてその融資は金融機関に断られ、ビッグモーター側の預金を取り崩して返済を行っています。
ビッグモーターは、これからどうなっていくのでしょうか?

企業売却に向けて再生計画の策定へ

2023年7月には、監査法人として有名なデロイトトーマツの子会社であるDTFA(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー)合同会社が再生計画の策定に入りました。

M&Aで豊富な実績を残している同社では、買われる側の企業への支援案件も多く、「身売り」を検討しているビッグモーターは最適と判断したようです。

伊藤忠商事など3社連合が企業買収を検討

2023年11月には、伊藤忠商事と、その子会社でエネルギー商社の伊藤忠エネクス、そして投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズの3社連合が、ビッグモーターとの独占交渉権を含む基本合意書を締結。資産査定を行い、2024年春までに出資の可否などを判断するとしています。

ビッグモーターの買収にはこれまでも、オリックスやガリバーを運営する自動車の販売・買取会社「IDOM」などの名前が挙がりましたが、話はまとまりませんでした。しかし3社連合は、支援の条件に創業家の影響力排除を挙げています。そのため、創業家である兼重親子が保有するビッグモーターの株式は手放す必要が生じるとみられています。

今後、ビッグモーターがどのような形で事業再生を果たしていくのか、これからも目が離せないようです。

この記事のまとめ

創業から40年ほどで中古車販売業界業界のシェアナンバーワンにまで上り詰めたビッグモーター。しかし、2022年から2023年にかけて次々と不正行為が明るみになり、中古車販売業界だけでなく保険業界も巻き込んで日本を騒動に巻き込みました。
独自のビジネスモデルで利益を上げていた同社ですが、本来の中古車販売での利益ではなく、保険手数料での利益を追求したため、不正な水増し請求や、顧客の車を破損してまでの不正な保険請求につながったのです。
今では創業家である兼重親子が経営陣から外れ、伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、ジェイ・ウィル・パートナーズの3社連合が事業再生に乗り出そうとしています。ビッグモーターの今後の動向に注視していきたいといえるでしょう。

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