【徹底解説】『経営者保証に関するガイドライン』の活用法

2022年09月23日

【徹底解説】『経営者保証に関するガイドライン』の活用法

リスクが大きな従来の経営者保証は、企業の再生や事業の承継でさまざまな弊害が出ていました。その弊害を見直すために策定されたのが「経営者保証ガイドライン」です。本コラムでは、多くのメリットを持つ経営者保証ガイドラインの活用方法を解説していきます。

経営者保証に関するガイドライン概要

従来の経営者保証は、中小企業や小規模事業者の経営者にとって大きなリスクを持っていました。

リスクの高い経営者保証が事業再生の妨げに

これまで、中小企業や小規模事業者が銀行などの金融機関から融資を受けるとき、その企業や事業者の経営者個人が連帯保証人になることが多くありました。しかしその場合、その企業が負債を負ったときには経営者個人が責任を負う必要があります。

そうすると経営者は個人的責任が負わされることを恐れ、事業承継や事業再生、事業清算などが必要な場面や思い切った事業展開が必要な場面でも、なかなか踏み切れないことがあります。その結果、事業承継や事業再生できる企業でも廃業に追い込まれることになってしまったり、事業清算の遅れによって利害関係を持つ人たちに迷惑をかけてしまったりすることになります。

このような弊害をなくすために経営者保証に関するガイドライン研究会で策定したのが、経営者保証に関するガイドライン(以下、経営者保証ガイドライン)です。

経営者が残せる財産

経営者保証ガイドラインでは、企業が事業再生、事業清算などになった際に経営者が残せる財産について以下のように規定しています。

破産手続における自由財産

破産手続開始決定の後で取得した新得財産や99万円以下の現金などは破産法でも自由財産として認められています、この自由財産は経営者に残せます。

一定期間(90日~330日)の生計費に相当する預貯金

標準的な生計費である月額33万円を、雇用保険の給付期間である90日間~330日間を月換算した掛け合わせた預貯金であれば残すことができます。

華美でない自宅の土地や建物

自宅が店舗や事務所などを兼ねており資産の分離が難しいとき、「華美でない自宅」であれば売却する必要はありません。

事業再生時や事業清算時には、これらの残せる財産を除いた財産を売却処分。そこで得られた金額を支払い、それでも支払い切れない個人保証債務はカットしてもらうというパターンが考えられます。また、一定の間(原則5年以内)、個人保証債務を支払い続けることで、それ以外の債務をカットしてもらうということも考えられます。

なお、経営者保証ガイドラインを利用して債務整理を行った場合には通常の債務整理手続とは異なり、「信用情報における事故情報」いわゆるブラックリストには登録されません。そこで事業再生後や事業清算後の融資も受けられやすくなります。

経営者保証を不要とするためには

経営者保証が不要となるには、以下のような条件を満たす必要があります。

  1. ①法人と経営者の関係を明確に分ける
    個人保証債務を持つ経営者は、法人の業務、経理、資産所有などで法人と経営者の関係を明確に分ける必要があります。

    法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬や賞与、配当、オーナーへの貸付など)を、社会通念上適切な範囲を超えない体制を整備するなど、適切な運用を図って法人と個人の一体性の解消に努めてください。

  2. ②財務基盤を強化する
    個人保証債務を持つ経営者が財務状況や経営成績の改善を通じた返済能力の向上などを行うことで、企業の財務基盤を強化していく必要があります。

  3. ③財務情報を随時適切に開示する<
    個人保証債務を持つ経営者は、資産負債の状況や事業計画、業績見通し(進捗状況や財務情報などを含む)を随時適切に開示する必要があります。

    開示情報の信頼性を向上していくためには、外部専門家による情報の検証を行ってその検証結果と合わせた開示が望ましいとされています。

経営者保証ガイドラインの詳細は、経営者保証に関するガイドライン研究会が公表しています。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf

経営者保証に関するガイドラインのメリット

経営不振に陥ってしまった企業を救ってくれる経営者保証に関するガイドラインには、さまざまな方面に対してメリットを持っています。

事業再生・事業承継がスムーズに

債務の経営者個人保証を解除することで、事業清算や事業再生、事業承継など、思い切った経営を行うことがスムーズ行えるようになります。

経営者保証なしで融資が受けられる

これまで、中小企業や小規模事業者が融資を受ける際に求められていた経営者の個人保証なしで融資を受けられるようになります。経営者保証がなくなることで思い切った事業展開ができるようになります。

既存の経営者保証も見直し可能に

経営者保証を不要とする上記3つの条件を満たしていれば、既に提供されている経営者保証を見直すことも可能です。ただし、経営者の個人保証を解除するかどうかの最終的な判断は金融機関側に委ねられることになります。

債権者にもメリットが

経営者保証ガイドラインは、債務者である経営者だけでなく、債権者にも以下のようなメリットがあります。

  • 債権放棄をした債権者は全額分を損金算入できる
  • 保証債務の減免をしたときには保証人・対象債権者ともに課税は生じない
  • 関連会社の連鎖倒産を防げる

経営者保証に関するガイドライン活用事例

実際に経営者保証ガイドラインを活用しスムーズに事業継承や事業再生を行うことができた活用事例を紹介します。

制度を活用し息子に事業承継した老舗温泉旅館

ある老舗温泉旅館では、周辺旅館・ホテルの競争激化に加え、リーマンショックなどの影響で来客数が大幅に減少していました。それに加え、増改築による資金負担も重なり資金繰りが圧迫されていたのです。代表者とその息子は金融機関に多額の経営者保証を負っていましたが、個人破産は回避したいことと、温泉街に廃ホテルを残すことは避けたいことから、温泉権利用を活用した事業継続の道を模索していました。そこで経営者保証ガイドラインにある「早期に債務整理に着手した場合は一定期間の生計費等が残存資産に含まれる可能性」があることを金融機関が説明。ホテル施設の一括売却による他事業者による事業継続を提案し、代表者の息子へと事業承継を果たすことができました。

弁済額1億5千万以上の土木工事業者

河川・道路などの法面工事の技術力が評価されていた土木工事業を主体とする事業者は、公共工事や地場ゼネコンなどからの下請工事受注により業容を拡大。ピーク時には10億円を超える年間売上高を計上していました。しかし公共工事の減少や他社との受注競争激化の影響で業績と資金繰りが徐々に悪化してきたことで事業継続を断念。関連会社と共に破産手続申立を行って同日破産手続開始決定となりました。その際、代表者の経営者保証が多額となっていたため、経営者保証ガイドラインを活用して保証債務を整理することになりました。最終的には企業の弁済額は1億5千万以上にのぼることとなりましたが、経営者保証ガイドラインの活用で経営者にも資産を残すことができ、経済的再生も確保できました。

Q&A

経営者保証ガイドラインの活用方法について、よくある質問と答えをまとめてみました。

Q1.経営者保証ガイドライン制度を利用するにはどうすればいいですか?

A1.取引金融機関または近隣の中小企業基盤整備機構地域本部、商工会・商工会議所にお問合せください。

Q2.事業承継をしたいのですが、既存の個人保証も引き継がれますか?

A2.旧経営者の個人保証を解除するためには、事業用資産の経営者個人所有の解消をはじめ、企業から経営者への貸付などによる資金の流出の防止など、企業の資産と経営者の資産を適切に分離することが求められます。、また、金融機関との信頼関係の構築も必要です。

Q3.債権者に財務状況を説明する前に相談する「外部専門家」とはどのような専門家ですか?顧問契約をしている専門家は含まれますか?

A3.資産負債の状況や事業計画・事業見通し、そしてこれらの進捗状況を検証できる弁護士や公認会計士、税理士といった専門家を指しています。顧問契約を結んでいる弁護士や公認会計士、税理士などの専門家でもかまいません。

経営者は早めに専門家に相談を

経営者の個人保証を解除するかどうかの最終的な判断は金融機関が行います。そこで経営者個人が金融機関と交渉してもうまくいくかどうかわかりません。交渉を行う前に、経験豊富な事業再生の専門家へ相談をすることをおすすめします。早めに相談することで企業が破産や事業清算へと追い込まれずに済むだけでなく、経営者保証があることで踏み切れずにいた「事業再生」「事業承継」の道も拓けてくるでしょう。

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