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EBOを選ぶも、最終的には法的整理へ。ユニゾの経営破綻にはホテル事業低迷の影響も
一時は日本の上場企業として異例の「EBOを成功させた!」と話題を呼んだユニゾホールディングスが経営破綻をし、民事再生法の申請に至りました。本記事では、その背景と同社の今後の見通しを解説します。
負債総額1262億円、今年最大のユニゾの経営破綻
ホテルや不動産などの事業を手がけ、2018年3月期には525億円もの売上高を計上していたユニゾホールディングスですが、2023年4月26日東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請しました。
負債総額は1,262億円にも上りましたが、その負債の要因は無謀なEBO(Employee Buyout:エンプロイー・バイアウト/従業員による企業買収)による2,000億円超の貸付金を短期間で返済したことがあげられます。その返済資金のために不動産を次々と売却し、キャッシュフローが悪化していったのです。
当初は私的整理も視野に入れていましたが、最終的に法的整理を選ぶこととなりました。
度重なる増資がTOBを誘引
ユニゾホールディングスを構成するユニゾグループはもともと、旧・日本興業銀行(現・みずほ銀行)系の不動産会社が前身です。
同社の2011年3月期売上は134億円でしたが、2018年3月期には525億円まで成長。そこで不動産の取得費用として、増資による資金調達を繰り返すようになっていきます。その結果、安定株主だったみずほ系の保有比率が下がり、増資を繰り返したことで株価が低迷。同社が保有する現金は1年間で760億円の増加となる1,200億円(2019年3月末時点)を超え、いびつな構造となっていました。
それに目を付けたのがエイチ・アイ・エスや米資産運用会社であり、TOBを誘引するようになったのです。
ユニゾの概要と沿革について
ユニゾホールディングスは、1959年9月に設立した大商不動産を前身に、旧・日本興業銀行系の不動産会社である常和興産のビジネスホテル部門として1977年5月に設立したサン・ホテル(現・ユニゾホールディングス)をルーツとしています。2009年6月には東証2部に上場し、2011年2月には東証1部に指定されるまでとなっていましたが、2020年6月には日本初となる上場企業のEBOにより上場廃止されています。
会社概要
ユニゾホールディングスの会社概要です。
商号 | ユニゾホールディングス株式会社 UNIZO Holdings Company, Limited |
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設立年月日 | 1959年9月1日 |
本社 | 〒108-0073 東京都港区三田三丁目4番10号 TEL:03-5484-7130 代表アドレス:unizo.contact@unizo.co.jp |
資本金 | 320億6,288万円(2022年9月末現在) |
決算期 | 3月末 (年1回) |
従業員 | 連結142名(パート・派遣社員を除く2022年9月末現在) |
事業内容 | 不動産事業(ビル賃貸事業)・ホテル事業 |
株主 | 株式会社チトセア投資 |
経営理念
ユニゾホールディングスは以下のような経営理念を持って運営しています。
私たちは、
- 1.全てのステークホルダーとともに豊かさと価値を創造する企業
- 2.お客様の信頼と期待に応え、選ばれ続ける企業
- 3.社会と環境に貢献する企業
を目指します。
グループ会社一覧
ユニゾホールディングスには、国内外に以下のようなグループ会社が存在します。
国内
所在地 | 東京都港区三田三丁目4番10号 |
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事業内容 | 国内オフィスビル等の保有、賃貸、アセットマネジメント 及びプロパティマネジメント業務並びに不動産仲介等 |
所在地 | 東京都港区三田三丁目4番10号 |
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事業内容 | 国内オフィスビル等の清掃、管理等 |
所在地 | 東京都港区三田三丁目4番10号 |
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事業内容 | ホテルの保有、運営 |
海外
所在地 | 米国デラウェア州 |
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事業内容 | 米国オフィスビル等の保有、賃貸、管理等 |
社長プロフィール
ユニゾホールディングスの現在の代表取締役は、2012年3月に常和ホールディングス(現・ユニゾホールディングス)へ入社し、2020年3月に取締役社長、2021年3月以降から代表取締役社長に就いている山口雄平氏が続投しています。
1999年4月 | 三和シヤッター工業(現・三和ホールディングス)入社 |
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2000年9月 | 住友不動産販売 |
2005年3月 | パシフィックマネジメント |
2009年6月 | ㈱シスコ・アセット・マネージメント |
2010年11月 | レーサム |
2012年3月 | 常和ホールディングス(現・ユニゾホールディングス) |
2016年4月 | ユニゾ不動産 ビル営業第一部長 |
2019年5月 | 同社執行役員 国際営業部長 |
2019年12月 | チトセア投資代表取締役(現職) |
2020年6月 | 当社取締役社長(代表取締役)与信企画部長 ユニゾ不動産 取締役社長(代表取締役)審査部長 ユニゾホテル 取締役社長(代表取締役)広報部長兼審査部長兼 オペレーション事業部長兼ホテルシステム部長兼店舗経理部長兼法人営業部長兼広告宣伝部長兼店舗備品部長兼ホテルオーナー事業部長 |
2020年9月 | ユニゾホールディングス取締役社長(代表取締役)ホテル事業部長 ユニゾ不動産 取締役社長(代表取締役) ユニゾホテル 取締役社長(代表取締役)ホテル事業部長 |
2021年4月 | ユニゾホールディングス取締役社長(代表取締役)(現職) ユニゾ不動産 取締役社長(代表取締役)(現職) ユニゾホテル 取締役社長(代表取締役)(現職) |
経営破綻を招いたユニゾの背景とは
ユニゾが経営破綻を招いた背景にはEBOがありました。
「従業員による企業買収」EBOを成功させた
ユニゾの株価が低迷していた2019年。それに目を付けたのが、大手旅行会社であるエイチ・アイ・エスです。2019年7月に買収価格1株3,100円で敵対的TOB(Take-Over Bid/株式公開買付け)を仕掛けてきたのです。
そこに割って入ってきたのが、米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループやブラックストーン・グループです。フォートレス・インベストメント・グループは買収価格1株4000円で、ブラックストーン・グループは買収価格1株5000円で、TOBを提案してきたのです。ユニゾではその提案を検討するとしていたものの、本音では拒否をする方向でした。
EBOにかかった資金の返済に苦しむ結果に
このような状況に変化が生じたのは、米投資ファンドのローン・スターが買収資金を支援して行うEBOの提案です。2019年12月に提案されたもので、買収価格は1株5,100円に設定されていました。
経営権の外部流出防止の観点からこの提案を受け、2020年4月にローン・スターが27%、従業員が73%出資する「チトセア投資」を設立する形でEBOを成立させています。なお、このローン・スターの支援は、決済の開始日から半年後にローン・スターから経営サポートを得て協業体制を継続するか、資金を返済して独立するかという2つの選択肢が提示されていました。
ユニゾが選んだのは資金を返済して独立する道です。貸付金を返済するために不動産を売却して充当。その結果、ユニゾが保有している現金は2020年3月末から9月末までの短期間で、1,635億円から550億円まで縮小しました。
コロナの影響でホテル事業が低迷
ユニゾは、コロナ禍のまっただ中である2021年3月期上半期に2,649億1,800万円にも上る最高売上高を計上しました。ただし、その多くは不動産の売却で得たものです。コロナ禍によりホテル事業は低迷しており、最終黒字は確保したものの資金繰りが悪化していました。保有ビルの売却などを進めていましたが、社債償還の原資を確保するのが困難な状況となってきたのです。
ユニゾが行ったEBOとは何か
ユニゾが行ったEBOという用語は最近耳にすることが増えてきました。TOBやMBOなどと比べてまだ耳馴染みが薄い、この用語について以下で解説します。
企業買収の1つとして注目を集めるEBO企業買収の1つとして注目を集めるEBO
EBO(Employee Buyout:エンプロイー・バイアウト)とは、従業員が自社事業や株式を買い取って経営権を取得するM&Aの1つの手法になります。
後継者不足による事業承継が問題となっていますが、従業員に事業や株式を買収させる手法は自社の将来を考える選択肢として注目されています。
EBOは中小企業の事業継承において有効な手法となっており、従業員が経営者になることで離職率の低減やモチベーションのアップも期待できます。会社の継続性を確保できるところも注目されています。
EBOとMBOの違いは?
EBOに相対するのはMBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)です。MBOとは、会社の経営陣が自社事業や株式を買い取って経営権を取得するM&Aの1つの手法です。経営陣が自社の経営に投資をすれば、その経営陣のモチベーションがアップしますし、経営に対するコミットメントが高まるといった効果もあります。
なお、EBOとMBOを合わせたものであるMEBO(Management Employee Buyout:マネジメント・エンプロイー・バイアウト)というM&Aの手法もあります。このMEBOは、従業員と経営陣が共同で自社事業や株式を買い取り、経営権を取得していく形になります。
メリットやデメリットは?
EBOのメリットは、これまでその企業に勤めてきた従業員が事業を引き継ぐことになるため、経営方針や社風をスムーズに引き継げることが挙げられます。
また、TOBによる敵対的買収を防ぐために株式の非公開化を実現します。株式を非公開化すると上場に必要になる事務処理が不要となって、その人的コストを他の業務に回すことができます。
逆にEBOのデメリットには、EBOのために多額の資金調達が必要になることも挙げられます。
また、それまで勤めていた従業員が事業を承継するので、大きな変革による成長が見込めない可能性もあります。
国内ファンドの支援を仰ぐユニゾの今後は
資金繰りが悪化していたユニゾでは、私的整理を前提とした第三者スポンサーを模索し、複数の候補先と協議を重ねてきたのですが、最終的な支援を取り付けるまでにならず2023年4月26日の民事再生法適用申請に至りました。
ただ同日付で日本産業推進機構とスポンサー支援にかかる基本合意を締結しています。今後は日本産業推進機構の支援の下で再生を図っていくことが予定されています。
事業再生にはアドバイザーのへの相談が不可欠
企業の資金繰りが悪化し、破産や民事再生などの法的整理の手続きに入るのは最終手段です。このような最悪の事態を招きそうになる前から早めに事業再生のプロアドバイザーのもとを訪れ、企業が今後も存続していくためにはどうすればいいのか相談することをおすすめします。
事業再生のプロであれば、資金繰りから会社の立て直しまで対応をしてくれますし、経営者目線で寄り添ったコンサルティングを受けることができます。