2023年05月01日
中小企業庁では、経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充 収益力改善・事業再生・再チャレンジをさらに加速していくために、「中小企業活性化パッケージNEXT」を策定し実行に移しています。
資金繰りや債務に苦しんでいる中小企業に向けて、事業再生の手段があることを解説する本パッケージには、どのような内容があるのでしょうか。
目次
「中小企業活性化パッケージNEXT」とは
2022年9月に公表した「中小企業活性化パッケージNEXT」は、2022年3月に公表された「中小企業活性化パッケージ」を発展させたものです。
「中小企業活性化パッケージ」とは、コロナ関連融資の返済が難しい事業者を支援するために策定された中小企業に向けた支援策でした。この支援策をさらに加速するために、収益力改善支援のための実務指針の策定や中小企業基盤整備機構が出資する再生ファンドの組成を促す優先分配スキームの創設などの措置を講じた拡充策が「中小企業活性化パッケージNEXT」です。
本拡充策により中小企業に対する支援をより一層強化し、収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援を図るものとなっています。
「中小企業活性化パッケージ」のポイントについては以下の過去記事をご覧下さい。
「中小企業活性化パッケージNEXT」のポイント 主な2つの柱
「中小企業活性化パッケージNEXT」は、「経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充」と「中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合支援」の2本柱で構成されています。
具体的な内容については、以下のように13分類された施策がまとめてパッケージ化されています。
① 伴走支援型特別保証の拡充
② スーパー低利・無担保融資を2023年9月末まで継続・拡充
③ 別枠のセーフティネット保証4号(上限2.8億円、100%保証)の期限を延長
④ セーフティネット貸付(物価高騰対策)の金利引下げの期限延長
⑤ 借換保証など、中小企業の返済負担軽減策の検討
⑥ 事業者の資金繰り支援等のための金融機関などへの要請
⑦ 認定支援機関による伴走支援の強化
⑧ 中小企業活性化協議会による収益力改善支援の強化
⑨ 中小機構が最大8割出資している再生ファンドの拡充
⑩ 事業再構築補助金に「回復・再生応援枠」を創設
⑪ 中小企業の事業再生等の「経営者退任原則」「債務超過解消年数要件等を緩和」といったガイドラインの策
⑫ 経営者の個人破産回避のルール明確化
⑬ 再チャレンジに向けた支援の強化
1.経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充
「経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充」の詳細は以下のとおりです。
ポストコロナに向けた段階的移行
ポストコロナに向け段階的移行していくために、経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援を拡充しています。
保証料を0.85%から原則0.2%などへと引き下げる特別保証について、前向き投資を促すために保証限度額を6,000万円から1億円へと引き上げる伴走支援型特別保証を2022年10月から拡充しています。対象となる中小企業については、「売上減少が15%以上」などの一定要件を満たしており、早期に経営改善などを取り組んでいる企業となっています。
「日本公庫のコロナ無利子融資」の借換円滑化や、「日本公庫の資本性劣後ローン」を活用した新規融資の促進を通じて、コロナ禍で債務が増大した中小企業を支援することが必要と考えた政府では、「日本公庫のスーパー低利融資」などの申込期限を2023年9月末まで延長しています。
コロナ資金繰り支援等の継続・拡充
自然災害などの突発的事由により、売上高などが減少している中小企業・小規模事業者の資金繰り支援措置として、信用保証協会が一般保証とは別枠で融資額の100%を保証する制度である「セーフティネット保証4号」(別枠で上限2.8億円)の期限を2023年6月末まで延長しています。
最近3ヶ月の売上高が前年同期または前々年同期に比べて5%減少している中小企業に対して設備資金および運転資金を中小企業事業1.03%、国民生活事業1.78%の金利で貸し付けていましたが、利益率が5%以上減少した事業者に対する金利を0.4%に引下げています。同時に、期限を2023年9月末から2023年12月末迄へ延長しています。
民間ゼロゼロ融資の返済開始が2023年7月~2024年4月に集中していることに対し、返済負担軽減のために、保証限度額1億円、保証期間10年以内(据置期間5年以内)の新たな借換保証制度(コロナ借換保証)を創設しています。
新型コロナウイルス感染症に関連した債務の条件変更・新規融資など、事業者の実情に応じた万全の対応を金融庁では金融機関に要請しています。要請内容は、事業者からの条件変更等の相談があった場合や、今後も事業を継続させていくため1年間の元金据置・期限延長を実施事業者からの条件変更等の相談があった場合には、審査を行うことなくまずは3ヶ月の元金据置ないし期限延長を実施すること。などとなっています。
2.中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合支援
「収益力改善」「事業再生」「再チャレンジ」の3つのフェーズに分けて、中小企業を総合的に支援しています。
収益力改善フェーズ
認定経営革新等支援機関による計画策定支援に加えて、計画実行までのフォローアップや助言などの伴走支援を強化するほか、企業と経営者の資産の区分など、経営者保証の解除に向けた取り組みも支援しています。
中小企業活性化協議会(旧・中小企業再生支援協議会)がコロナ禍で緊急的に実施している特例リスケジュール支援について、ポストコロナを見据えて収益力改善支援にシフトしています。
事業再生フェーズ
債務超過に陥った企業の既往債務の買取、ハンズオン支援等の再生支援を実施するため、地域金融機関と中小機構(中小企業基盤整備機構)が出資して組成される中小企業再生ファンドを拡充。中小機構の最大出資比率を50%から80%へと引き上げし、補正予算(300億円)も活用し、コロナ禍の影響が大きい業種を重点支援するファンドの組成やファンド空白地域の解消を促進しています。
第6回の公募で事業再構築補助金として新設された枠組みとして、「回復・再生応援枠」を新たに設けました。さらに、第9回公募までの回復・再生応援枠と緊急対策枠を統合し、「物価高騰対策・回復再生応援枠」として設置しています。
2022年1月以降の連続する6ヶ月間のうち任意の3ヶ月の合計売上高が、2019年~2021年と比較しての同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少しているか、中小企業活性化協議会などから支援を受け再生計画等を策定しているか、いずれかを満たしていることが応募の条件です。
「中小企業活性化パッケージ」と同時に、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を策定しています。
このガイドラインでは、中小企業者の「平時」や「有事」の各段階において、中小企業者・金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、事業再生に関する基本的な考え方を示しています。そして、より迅速に中小企業者が事業再生に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続である「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」を定めました。
再チャレンジフェーズ
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることで企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済することを求められ個人破産することが多くありました。これをなくすために、経営者の個人破産回避のルールを明確化した「経営者保証に関するガイドライン」を策定しています。
収益力の改善や事業再生に取り組んでいるものの、達成が困難で悩みを抱えている経営者、廃業や再チャレンジを検討されている経営者、すでに廃業して保証債務の整理に悩んでいる経営者に対して、中小企業活性化協議会では再チャレンジに向けた支援を実施しています。
収益力改善・事業再生・再チャレンジを一元的に支援する体制の構築
「中小企業活性化パッケージNEXT」では、全国47都道府県にある中小企業再生支援協議会を関連機関と統合し、収益力改善・事業再生・再チャレンジを一元的に支援する「中小企業活性化協議会」を設置。中小企業活性化協議会がハブとなって金融機関、民間専門家、各種支援機関とも連携し、苦しむ中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを地域全体で推進しています。
本パッケージにより、経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充と収益力改善・事業再生・再チャレンジのさらなる加速を目指しています。
さらに加速するための追加措置とは
さらに加速するための追加措置 | ||
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収益力改善支援実務指針の策定
支援機関向けに、収益力改善支援の実務指針を策定。経営改善計画策定支援事業と連連携し、実効性を確保。
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①再生ファンドの組成を促す優先分配スキームの創設
中小機構が出資する再生ファンドについて、民間出資者に優先分配する仕組みの創設。
②再生系サービサーを活用した支援スキームの創設
中小企業活性化協議会との連携による、再生系サービサーを活用した支援スキームの創設。
③金融機関との連携によるREVIC等のファンドの活用促進
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経営者の個人破産回避に向けた取り組みの促進
再チャレンジのネックとなる個人保証について、個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策を2023年中にとりまとめ。
融資先の廃業時等に「経営者保証に関するガイドライン」に基づく保証債務整理を行った割合を把握するなど、金融機関に対して、よりきめ細かいフォローアップを行う。
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中小企業活性化協議会の機能強化 |
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飲食業・宿泊業支援専門窓口の設置
信用保証協会・中小企業活性化協議会・地方経済産業局の間で連携協定を締結。民間無利子融資先を中心に、収益力改善等を連携して支援。
中小企業活性化協議会(416人体制で稼働中)について、サテライトでの相談対応(17協議会)を行うことで体制を強化。
地域金融機関職員を再生支援のノウハウ習得のため中小企業活性化協議会に派遣するトレーニー制度の拡充。
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資金繰りや事業再生は、プロの手を借りるのが成功のカギ
事業を継続し安定した経営を続けていくためには専門家への相談は不可欠です。しかし事業再生や事業継続のための手続きを個人で行っていくには、少々ハードルが高いものがあります。事業再生や事業継続で迷っている経営者であれば、まずはプロに相談するところから始めてみませんか。