【特別インタビュー】飯川隼斗社長が語る、地方老舗企業の事業再生の苦難 | 事業再生のリアル

【特別インタビュー】飯川隼斗社長が語る、地方老舗企業の事業再生の苦難

2026年07月08日

資金繰りや組織運営の壁にぶつかり、孤独に闘う経営者の方へ。

本記事では、創業50年の老舗企業「リサール酵産株式会社」の3代目代表取締役社長・飯川隼斗さんが語る事業再生の道のりをお届けします。

営業利益3期連続赤字という厳しい状況に直面していた地方企業が、YouTubeを使ったマーケティングによって売上を急増させるまでの軌跡を、ぜひご覧ください。

今回のインタビューのお相手

次世代の土づくり資材メーカー「リサール酵産株式会社」とは?

-農業の常識をことごとく覆す「カルスNC-R」-

リサール酵産は創業50年を迎えるそうですね。おめでとうございます!まず、そんなリサール酵産の事業内容について教えてください。

ありがとうございます!

私の祖父が創業して、父が30年以上守り、2025年8月に3代目の私が代表に就任しまして。今年で記念すべき創業50年目を迎えたんです。

リサール酵産は、「カルスNC-R」っていう微生物資材を作っている農業資材メーカーです。微生物資材っていうのは、元気がなくなってしまった畑の土を再生するために、微生物を土に直接届ける資材のことで、私たちは土を扱う多くの人に向けて「カルスNC-R」の魅力を発信し続けています。

リサール酵産の主力商品であるカルスNC-Rの商品画像「カルスNC-R」は、一言でいうと「微生物の力でカチカチの土をふかふかにする資材」です。畑に入ったことがない方でも、ふかふかの土が良い土だってイメージはありますよね?
ふかふかの土には必ず豊富な微生物がいて、カルスNC-Rは、微生物を直接土に届けることで効率よく土づくりを行えるよっていう資材なんです。

土づくりは、健康な植物を作り、人の生活を作り、ひいては未来を作ります。カルスNC-Rは、微生物という自然を支える目に見えない生き物たちの力を借りて、次世代に豊かな土を残す未来のための資材なんです。これを作って販売するのが私たちの仕事ですね。

主力商品の「カルスNC-R」。SNSを中心に話題を集めているようですが、こちらの資材は従来の農業資材とどう違うのでしょうか?

カルスNC-Rのすごいところは、生ごみや落ち葉みたいな捨てるはずの有機物を、そのまま畑に入れて土の栄養に変えちゃうところなんですよ。捨てるはずのものが堆肥になるっていう。

しかも、通常なら何ヶ月もかかる土づくりが、これを使えばたった1週間で終わって、すぐに苗を植えられるんです。ゴミを減らして時間も節約できる、超魅力的な資材です。嘘でしょっていうくらい画期的で、農業の常識をことごとく覆す商品なんですよ。

強い薬で土を無理やり消毒するのではなく、自然の力で土本来の生命力を高めていく。そういう環境にやさしいアプローチができるので、既に多くの農業従事者から注目を集めているんです。

経営者『飯川隼斗』のバックボーン

-新卒でノンバンクに就職。その経験が今に活きる-

リサール酵産はお祖父さまの代から続く老舗資材メーカーです。幼いころから、家業を継ぐおつもりで勉強されていたのでしょうか?

飯川隼斗氏のインタビューでの様子1全然そんなつもりはなかったですね。両親も「家業を継いでほしい」みたいな素振りは見せず、僕は自由に生きてましたね。日本大学経済学部の金融公共経済学科ってところに入ったんですけど、それも経営者になることを見据えていたわけではなくて。当時、成績はあまり良い方ではなくて、内申点もギリギリだったんですけど、新設される学科に運よく滑り込むことができたんですよね(笑)。

大学卒業後は、新卒で銀行系ノンバンクへ就職されています。どうして金融業界に就職を決めたのですか?また、当時その会社ではどんな業務を担当されていましたか?

経済学部で金融について学んでいくうちに、その知識を仕事でも活かしたいと思うようになったんです。やっぱり就職先は銀行かなと考えていましたが、銀行以外にも、証券会社とか不動産会社とかを見て回って。あと飲料メーカーの採用面接にも行きました。5社以上は内定をいただいていたんですが、結局金融業界に進みたいなという思いがあって、一部上場のノンバンクへ就職したんです。

業務内容は、銀行が融資しづらい層に向けてビジネスローンとか不動産担保ローンを提供するという感じですね。ご高齢の経営者の方とか、銀行の審査に通らない経営者の方とか、赤字決算の会社とか、そういうお客さんと話す機会が多かったですね。だから「事業再生」というワードも馴染みがあります。

金融業界で培った能力は、現在の経営者としての実務の中で活かされていると思いますか?

常に活きていると思います。

担保にする不動産の価値調査を行ったり、さまざまな経営者の方と直接お話ししたり、あるいは財務を分析するために決算書に触れたり。融資の判断を下す業務の中で、企業の財務や経営状態をシビアに見る能力が自然と身についていたんですよね。

リサール酵産に入社して以来、この力はずっと活かされていると思います。

入社当初の苦悩と奮闘!決算書に記された3期連続の赤字

-全社員ベテランの地方企業。前職との温度差に危機感を抱いた-

リサール酵産を継ぐつもりも特になく、金融業界へ順調に就職していた飯川隼斗さん。入社を決意された決定的な出来事は何だったのでしょうか?

新卒で就職して1年半ほど経った時、祖父(1代目)が危篤状態だって連絡が来て、急遽帰省することになったんです。そのタイミングでふと、自分の親父の会社の決算書ってどうなっているのかなと思って、決算書を見せてもらったんです。そしたらなんと、営業利益が3期連続の赤字だったんです。

純利益は黒字だったんですけど、それもギリギリの黒字で。金融業界にいる身からして最終的な純利益よりも営業利益が大事だよねって思っていたんです。その営業利益が赤字だったので驚きました。

大学に入る前くらいから、農業関連の企業は世の中の流れとして衰退していくと感じていました。「農業界のこの先、ほんとに大丈夫なのかな」という不安は昔からあったんです。だから、決算書を見てその思いがいっそう強まったかたちです。この状況で祖父が亡くなってしまったら、いよいよ次どうするんだろう。そう思っていた矢先、祖父の介護の疲れから父の体調も悪くなってしまって。

この危機的な状況の中で、「自分だったら親父の会社を再生できるんじゃないか」っていう根拠のない自信が湧いてきて。だから誰からお願いされたわけでもなく、どちらかというと「私がやるよ!」という強い気持ちで、26歳のときに入社を決めたんですよね。

事業再生への力強い意気込みを持って入社されていたんですね!では、そうして入社された当初は、どのような業務に注力しましたか?

飯川隼斗氏のインタビューでの様子2入社当初から、ゆくゆくは経営者になって会社を立て直す立場になると意気込んでいましたから、まずはお金の流れを把握しようということで経理に入りました

それで早速実務に触れてみると、シールタイプの切手を使わずわざわざ水で濡らして貼ったり、商品は工場から発送しているのに本社から納品書だけを郵送したり。経理以外でも、工場の在庫だったり納品だったりの管理表も手書きだということもあって。とにかく無駄な作業が多かったんです。こういう例がいくらでも出てくるんですよ。
だからこうした非効率的な事務作業を一つずつ見直し、順番に排除していくことから始めたんです。それだけで2年くらいかかりました。古い体質の企業だったからこそ、基本的な作業の効率化に時間をかける必要があったんですよね。

26歳で入社した隼斗さんの周囲には、長く勤めるベテラン社員ばかりで、考え方の相違が生じてしまうこともあったと思います。そういう周囲の社員の方々からの風当たりや社内の雰囲気はいかがでしたか?

入社した当初のリサール酵産は、実は暇な日も多くて。残業がないどころか、明るいうちに仕事が終わっちゃうこともあったんです。前職とは真逆のゆったりとした雰囲気でしたから、このままじゃ潰れてしまうって思っていました。営業担当者がずっと席に座っているだけなんてこともあるくらいで、会社を立て直そうと意気込んで燃えているのは私だけでした

当時、私は26歳だったのに対して、次に若い社員は40代。7名程度の社員のうちほとんどが50代以上のベテランという環境でした。直属の上司も、10年以上金庫番を務められていた70代の女性で、ベテラン社員に囲まれて仕事していましたね。

そういう老舗企業であるがゆえに、一つひとつの事務作業もデジタル化されていないものも多くて。例えば、商品の決済方法に関しては、クレジットカードすら対応していなくて。若年層を取り込むならクレジットカード決済は必須なのに、提案しても「手数料がもったいないじゃないか」と突き返されることもありました。

新しいことを始めて会社を立て直そうとする私に対する風当たりは、決して良かったとは言えませんね。まさに孤軍奮闘って感じです。

農業界は高齢化、後継者不足、輸入依存っていう現状もあり、衰退の一途をたどっている。その厳しい状況に対する危機感リサール酵産を立て直してやるという強い気持ちが私にはありました。だからこそ、周囲の社員との温度感の違いを強く感じてしまったんですよね。

事業を立て直すのには難しい環境だったので、何度も「辞めてやろう」と思ったくらいです(笑)。

【転換点】事業再生のための一手はYouTubeを使ったマーケティング

-身内からの猛反発。しかし自分を信じ抜き、新たな市場を摑み取った-

古い体質をどうにか改善し、事業再生を果たすために、最初にどのようなことに着手しましたか?

事業再生のために着手した大きな取り組みが「YouTubeを使ったマーケティング」でした。

その時期は、ちょうどコロナが流行し始めた時期で、それまでのお客さんを足繁く訪問して商談につなげるという営業手法が全くできなくなってしまったんです。集客力を完全に失ってしまって、その危機感から、YouTubeをやってみようと考えて勉強し始めたんです。再生数が増えやすい動画の構成だったり、話し方だったり。

それまでは、資材販売をやっている特定の代理店からの購入が売上の大部分を占めている状況でした。でもYouTubeを活用してユーザー目線で「カルスNC-R」の効果を伝えることができれば、もっと多くの新しいユーザーを獲得できると思ったんです。

それまでのお客さんは、40年以上にわたって農家さんのみだったんです。でも、コロナ禍で巣ごもり需要が高まっていたので、家庭菜園やガーデニング、芝生育てといった一般ユーザーに目を向けるべきだと感じたんですよ。

YouTubeはそうしたお客さんを集めるための最適解でした。

コロナ禍で対面の営業が忌避され集客力不足が課題となったことで、ターゲットを見直し、今の時代に合ったYouTubeの施策に踏み切ることができたのですね。では、YouTubeを使ったマーケティングとは、具体的にはどのようなことを行ったのでしょう?

とりあえず、『土作りチャンネル』という自分のYouTubeチャンネルを立ち上げて、土づくりや「カルスNC-R」の使い方を解説する動画をアップしていました。このチャンネルは、今でも『隼斗の土づくり教室』に名前を変えて、熱心に投稿を続けているんですよ。しかも、欠かさず毎日投稿。

※飯川隼斗さんの現在のYouTubeチャンネルはこちらから。

飯川隼斗氏のインタビューでの様子3「カルスNC-R」がいろんな人に知られるようになった今でこそ、再生数40万回を超える人気動画が生まれてきていますが、当時は顔出しもせずに淡々と解説するだけの動画で、10再生も行かないものばかりでした。知り合いしか見てなかったんですよ(笑)。

それで、このまま自分で発信するだけではダメだと思って、農業YouTuberに注目したんです。コロナを機に畑いじりを始める人も多くて、家庭菜園やガーデニングに関する動画が人気を集めていたっていう背景もあって。それで、農業YouTuberさんに直接会いに行ってカルスNC-Rの魅力や価値を伝え、「もし気に入ってもらえた時には動画で紹介してほしい」と伝えたんです。

よくある企業案件の形式で、お金を払って都合の良いことを言ってもらうのではなく、「カルスNC-Rが本当に良いものだと感じたときだけ紹介してくれれば良い」と伝えることにはこだわりました。

カルスNC-Rの良さを伝えれば、きっと紹介したくなるに違いないと確信していました。リサール酵産のカルスNC-Rはそれくらい魅力的な商品なんです。

まさに想定していた通り、カルスNC-Rの魅力がYouTuberの方々に伝わり、多くの農業YouTuberに紹介される人気資材となったのですよね?どうして多くの人に商品の魅力が伝えられたのでしょうか?

皆さん、カルスNC-Rが今までにない素晴らしい商品であることを理解してくれて、たくさん動画で紹介してくれました。なぜ農業・園芸YouTuberの方々がカルスNC-Rを紹介していただけたかというと、カルスNC-Rがやる土づくりって今までの農業の常識と真逆だからだと思うんです。

今までの常識を覆す画期的な商品だからこそ、賛否も巻き起こる。でも、40年以上の実績があるメーカーが作る資材だからこそ、家庭菜園やガーデニング、芝生愛好家の方たちを驚かすことができる。農業界に革命を起こす資材として確実に注目を浴びる! こういうメッセージを熱意をもってYouTuberの方々に直接伝えるようにしていたんです

最初は電話でお話ししていたんですが、熱意がうまく伝わらないなと思って、400kmの距離を車で走って説明しに行ったんです。コロナ感染を危惧する社員からの風当たりも強くて、宿泊や新幹線移動も許されなかったので、その結果、宿泊なしの車で往復することになったんですよ(苦笑)。しかも、その日はクリスマスイブだったんです。「こんな日にまで帰りが遅くなるなんて」と妻にまで怒られてしまいました(笑)。

こうやって直接お会いして、カルスNC-Rの効果を力説した甲斐あって、畑で試してもらえて。「これだけ効果のある資材、今までありませんでした!」と絶賛してもらえたんです。

熱意を伝えることがYouTubeを使ったマーケティングの秘訣だったように思います。

YouTube施策からは、どのような結果を得られましたか?

予想以上の反響がありましたね。カルスNC-Rは微生物という目に見えない生き物の力を活用する資材ですから、今まで、あまり良さを理解してもらえていなかったんです。でもYouTuberさんは、一つひとつの局所的な土の状態をしっかり見える形にしてくれて、土をふかふかにするとか、土に入れた有機物を分解してくれるとか、そういう分かりにくい効果を視覚的にわかりやすく発信してくれたんです。

特に、家庭菜園YouTuberさんや芝生愛好家のYouTuberさんの3人が素早くポンポン紹介してくれて、その結果、注文が一気に増加しました。電話も殺到してしまって。

売上で言ったら、入社前の1億円程度だったのに対して、YouTubeの施策を始めてからは毎年1億円くらい増加していって。YouTubeの影響力の大きさを感じますね。

それで、嬉しかったのは、今まで気づいていなかったお客さんを見つけられたことですね。私のYouTubeにもたくさんのカルサーの方々(カルスNC-Rのファンの愛称)が見に来てくださっているんですけど、今まで全くターゲットにしていなかった家庭菜園とかガーデニング、芝生とかへの需要が想像していた以上に大きくて。自分の知らない業界の方から、「〇〇にもカルスNC-Rは使えるんじゃないでしょうか!」ってコメントが来るんです。

YouTubeでの発信をきっかけに、新たなお客さんをどんどん見つけられるのがやりがいになっていたと思います。

ただ、父は当初、YouTubeを活用した発信に慎重でした。カルスNC-Rは、一般的な農業資材とは異なり、使い方に独自の考え方があります。そのため、商品の本質を十分に理解していないYouTuberが紹介すれば、誤った使い方が広まってしまうのではないかと懸念していたのです。

私自身が責任を持って発信することには父は理解を示してくれましたが、第三者に発信を任せることには強く反対されました。良かれと思って始めた情報発信が、かえって商品の信頼を損なう可能性もある。その不安を抱えながら、私はYouTuberさんに一つひとつ正しい使い方を伝えていきました。会社の売上を上げるために色々新しい取り組みを始めようとしても、周りからは冷ややかな目で見られるという孤立した状態でしたね。

在庫切れ解消のために新工場建設に着手!社運を賭けた大規模借入

-注文殺到で供給が追いつかない。売上は好調でも社員からは不満の声が…-

売上急増となったカルスNC-R。これだけで事業再生を果たしたと言えそうですが、成功の裏でさらなる問題が発生したそうですね?

飯川隼斗氏のインタビューでの様子4そうなんです。カルスNC-Rが人気を集め、注文があまりに殺到して、供給が追いつかなくなってしまいました。その品薄の状況下で、ホームセンターの在庫が転売ヤーに刈り取られる事案が多発したんですよ。1kg1000円ほどの資材なのにフリマアプリで5000円で取引されていたり。5倍以上の高額設定にもかかわらずフリマアプリでもすぐに売り切れてしまうっていう状況でした。

カルスNC-Rの販売を行ってくださっている代理店の方々からは、毎日嵐のように問い合わせが来て、「カルスの製造どうなってるんだ」「いつになったら届くんだ」と。慌てて納品しても、すぐまた転売ヤーに買われてしまってっていう。もう埒が明かない状態でした。

でも、売上がどんどん上昇する状況ではあったので、商品が売れないって状況の何倍も好調だと感じていましたね。でも、社員たちからしてみれば、どんどん残業が増える苦しい状況だったと思います。実際そういう不満の声を直接聞くこともありました。営業担当者が製造現場へ手伝いに行かなければならないほど忙しかったので、売上が伸びたからと言って、素直に喜べる状況ではありませんでしたね。

在庫切れという新たな課題を乗り越えるために、どのような対策を採りましたか?

新しく工場を建てることが、在庫切れという課題を乗り越える最善策だと考えました。 社内からは、注文が殺到しているのは「一過性のブームなんじゃないか」という声もありましたし、品薄の状況に対しても「プレミア感があっていい」という意見もありました。でも、それだとメーカーとしての信頼が揺らいでしまいますよね。さらにもう一つ不安要素があって。既存の工場は平成元年とかに建てたものだったので、老朽化がかなり進んでいたんです。カルスNC-Rをこれからも安定して供給し続け、お客様からの信頼に応え続けるためには、新しく工場を建てる必要があると考えたんです。

新工場の建設のためには銀行から融資を受ける必要があったと思います。どのようにして大規模な借入を実現しましたか?

銀行に行って、私は最初、「5億円貸してください」って言ったんですよ。でも、当時の年商じゃ過剰融資だって指摘されて、5億円規模の事業投資はできないって断られたんです。でも、「今こういう状況なんですよ」って殺到している注文状況を見せたり、これからのビジョンを根気強く話したり。それで担当者の次に部長が出てきて、部長の次に支店長とも面談して。事業計画書も作成して、いよいよ5億円の借入の許可が下りたんです

それこそ、金融業界に勤めた頃の経験も活きたと思います。あとは、こういう局面のために、自分の意志を伝える熱意あるコミュニケーションは欠かさず行ってきたつもりでした。

結局、工場建設は5億円でも足りなかったんですけどね(笑)。どうにかリースを活用して設備投資の費用を削減したり、業者に値引き交渉したりして、どうにか資金を工面した感じでしたね。

土地に関しても、農業資材はどうしても匂いが出ますから、住宅地を避けなければいけません。それに、今いる社員が今後も通い続けられる範囲の距離に建てたかったんです。でも、たまたま既存の工場の近くに良い土地があって、そこは本当に幸運でした。そのおかげで、とんとん拍子に進めることができました。

無事、工場が完成し、在庫切れの課題を乗り越えて、順風満帆な現在へと至るリサール酵産。現在の売上はどのような状況ですか?

新工場が無事竣工して、カルスNC-Rの供給体制が安定したことで、売上も伸び続けています。先ほども言いましたけど、YouTubeによるマーケティングが軌道に乗ってからは1億円ペースの売上増が実現してます。

YouTubeだけでなく、SEO対策やリスティング広告といったWeb集客であったり、「花友フェスタ」っていうガーデニングの祭典で世界記録に挑戦するといったイベントでの集客であったり、時代に合ったマーケティングに取り組んで、さらなる成長を目指していますね。

遂に事業再生を果たした現在ですが、今後、事業のさらなる拡大を目指して、どのようなビジョンをもっていらっしゃいますか?

農業・園芸業界全体を牽引するトップメーカーを目指しています。YouTubeやSNSを含め、集客に力を入れている会社として周囲から知られるようになったと思っているので、今後も必ず出てくるであろうカルスNC-Rを模倣した商品には、絶対に真似できない強みを磨き続けていきたいです。私自身、YouTube動画の毎日投稿を心がけてるんですけど、こうした積み重ねも、簡単には真似できない強みのひとつだと思っています。

あと、事業を継続していくうえでは、リスクヘッジが極めて重要なテーマですね。過去の東日本大震災の時なんかには、局地的な災害によって農業そのものが滞って、カルスNC-Rの売上も大きな打撃を受けました。畑全体がだめになって再建しなければって時に、カルスNC-Rはどうしても優先度が低く見られてしまうんですよ。

だから、特定の取引先に依存しすぎていると、不測の事態に陥った時に連鎖倒産のリスクが高まるんです。安定して多く仕入れてくれる優良な販売代理店の開拓もしっかり続けていきますが、実は、海外市場への展開も視野に入れているんです。

先日、海外進出のためのクラウドファンディングにも取り組んで、目標額を超える本当に心強いご支援をいただきました。これを足がかりに、日本の素晴らしい土づくり技術を世界へ広める新たな取り組みにも取り組んでいきたいですね

事業立て直しのための急務。それは「組織改革」と「優秀な人材の獲得」

-定着しない若手社員。熱意を伝え続ける、孤独な事業再生への道-

ここまで、事業再生に着手してから実現するまでの軌跡を順を追ってお話しいただきました。3期連続の赤字から、事業の完全なる再生、さらには今後拡大という大幅な躍進のために、どんなことが最も不可欠な要素だったと思いますか?

飯川隼斗氏のインタビューでの様子5リサール酵産のようなベテラン社員が多い地方企業を再生するとなると、「組織改革」と「優秀な人材の獲得」が急務になると思います。これが不可欠な要素ですね。

入社当初、前職の人とリサール酵産で働く人の働き方のギャップを強く感じた、という話をしました。ぬるま湯といったら悪いですが、そういう社内の温度感に危機感を抱いて改革を進められたのが良かったと感じています。「会社の売上やお客さんの喜ぶ顔を想像して、より多くの方に商品を届ける」っていう基本的な目標を共有できていないと、会社は成長できません。

目線のそろっていない社員のいる企業では、どうしても軋轢が生じてしまいます。実際、私たちにもそうやって意見をぶつかり合わせなければならないタイミングがありましたが、私はそういう場面でも、しっかり事前準備をして冷静に対話できるように努めていましたね。そして、自分が目指しているビジョンをはっきり伝えるようにもしていました。会社を良くするためにみんなで動くということを共通認識として得るために、とにかく正直に想いを伝えることを意識していました。

事業再生を推進していく中で、社員との向き合い方は本当に難しかったですね。でも、その一つひとつを乗り越えていくこと自体は、案外楽しんで進められていたと私は思いますね。今振り返ると、あの時間は絶対に欠かせない、大切な時間でした。

苦戦しながらも社員と熱意を共有することを大切にされていたのですね。では、昔と今とで、組織運営や人材獲得に対する考え方の変化はありましたか?

大きな変化がありましたね。最初は、とにかく若い人を採用したいと考えていて。自分より若い人なら、育て方次第でいくらでも活躍できるはずと考えていたんです。応募してくれた若い人はみんな採用するってくらい(苦笑)。

地方企業を志望してくれる若い子はそう多くありませんから、一度断ったら次いつ応募が来るか分からないんですよ。でも、そうやっていい加減に採用した人は、すぐに辞めてしまう場合が多くて。採用する人をきちんと選ばないと、仕事に対する考え方のギャップが大きくなってしまうんです。だから、若者を雇って育てればいいという私の認識は甘かったと気づいたんです。教えられることには限りがあるし、教育には多くのリソースを使わなければいけないんだって。

それで、リサール酵産に必要な人材を雇うには、リサール酵産の精神、私自身のマインドをもっと明確に伝えて、共感してくれる人を探さなければいけないと考えるようになったんです。

そこから求人情報の書き方も一新して、求人サイトも変更して、気になる人に直接オファーを送る形式で中途採用に乗り出しました。優秀な人材を狙い撃ちするイメージです。正直、一筋縄ではいかないと感じていたので、これを実現するために社員全体の給与水準の向上も図りました。

若手採用からキャリアのある中途採用を強化した結果、どのような結果が得られましたか?

なんと、本当に優秀な人材が何人も入社してくれたんです。カルスNC-Rの魅力を知り、リサール酵産のビジョンを深く理解したうえで入社してくれた社員は、今では私の右腕と言えるほどの活躍を見せてくれています。

高い視座をもって商品を売り出してきた私だからこそ、その視点を採用とか組織運営でも反映することで、会社の成長に追い風を吹かせられているんだと思います。もちろん、新しく入ってくれた社員だけでなく、継続して働き続けてくれている社員たちとも同じ方向を向いて働けていると思います。

自分の熱意を伝え、共感してくれる人を集めるという成功を積み重ねたことが、事業再生の実現と今後の成長の礎になったと自信をもって言えますね。

経営者の方々へのメッセージ

-「折れない心」が事業再生と再成長の扉を開く-

最後に、経営難に苦しみながら事業再生を目指す、かつての飯川様のような経営者の方々に向けて、心強いメッセージをお願いします。

飯川隼斗氏のインタビューでの様子6事業再生の過程では、本当に数え切れないほどの壁にぶつかります。

資金調達のプレッシャーや身内からの反発、社員との軋轢など、孤独で逃げ出したくなる場面は必ずやってきます。そうした状況下で経営者が持っているべきなのは「折れない心」ですね。

PDCAが大切だって人は多いですけど、多くの人はプランだけ立てて行動できないんです。私はそれでも行動を起こして来れましたし、アクションまでやり切る「折れない心」が経営者には必ず求められます。行動すればするほど、ぶち当たる壁は増えるものなんです。でもそれは、確実に前進している証拠なんですよね。

そして、経営者だけでなく社員の方々にもメッセージを述べるとしたら、「挑戦する心」を忘れるなと伝えたいです。やったことのないことに直面したとき、多くの人は「わからない」「できない」と挑戦しないうちから諦めてしまいますよね。私の元で働く人の中にもそういう人は大勢いました。でも、やってみないと分からないじゃないですか。やってみて初めて、どうしてできないのか、どうすればできるのかが見えてくるわけですから、「一回挑戦してみようぜ」って思います

折れない心、挑戦する心、この2つの心をもって取り組んで、一度でも成功体験が得られれば、見えてくるものがあるはずだと思います。自分はそれが楽しかったし、きっと多くの人にとってのやりがいになるはずです!

point
  • 飯川隼斗さんは、3期連続赤字でベテラン社員ばかりという停滞した老舗企業へ飛び込み、周囲から冷ややかな目を向けられ孤立してもなお、会社を立て直すという強い意志を曲げずに業務改善に奔走した。
  • コロナ禍で対面営業の道を絶たれたピンチを逆手に取り、既存の常識にとらわれず、家庭菜園やガーデニングという新たな市場へ向けてYouTubeでの発信にいち早く挑戦した。
  • 往復400kmを走ってYouTuberへ直接商品の魅力を訴えかけるという熱意が深い共感を呼び、結果として画期的な資材の魅力が広く周知され、爆発的な顧客獲得に繋がった。
  • 需要急増に伴う品薄の危機に対しても、事業計画と自社のビジョンを銀行へ根気強く伝えて5億円規模の大規模融資を引き出し、新工場建設による供給体制を安定させ、事業再生を実現した。
  • 組織の再建において、単に若手を雇うのではなく「自らの熱意とビジョンを明確に伝えて深く共感してくれる人材を探す」方針へ転換したことで、同じ方向を向いて会社を牽引する優秀な右腕となる人材に出会えた。
おすすめ企業5 社おすすめ企業5 社

関連記事

事業再生の知識

成功したリアルな事業再生事例

事業再生を依頼する
おすすめ企業3社

みそうパートナーズ

再生から成長へ導く事業再生のプロ集団

AGSコンサルティング

10億以下の小規模での事業再生なら

ロングブラック
パートナーズ

現場常駐で地域の中小企業をメインとした事業再生なら

事業再生に関する
人気コラムTOP3

  • 事業再生の知識

    成功したリアルな事業再生事例

    おすすめ企業5社