短期的な事業再生のみならず、将来の企業の安定を図るべく、『人間力』で親族間のドロドロも解消

事業再生を行う際には、社員や株主など様々なステークホルダーと喧喧諤諤と議論が行われ、時にはこれまで築いてきた関係性に亀裂が入ってしまう可能性もあります。
事業再生における人間関係に関して、今回は家族間での経営権争いにまで発展した企業の事例について、担当者のMさんに伺いました。

コンサル会社 Mさんの紹介 経営コンサルタント。
建築系の経営コンサルタントに特化しており、受注率アップや業績改善を得意としています。これまで中小企業から上場企業まで幅広く担当しておりクライアントからの信頼も厚いです。

先妻の息子VS後妻及びその娘の経営権争い

──事業再生のコンサルをしていると経営者、社員などで人間関係がドロドロしていることが多いと思いますが、その中でも印象に残っている事例をお聞かせください。

【コンサル会社 担当Mさん】人間関係がドロドロしていた事例としては、以前担当した建設会社B社の案件が非常に印 象深い案件です。社員は千人規模の中堅企業です。

私が最初にオーナーとお話した当時、B社の業績は赤字続きで深刻な状況に陥っていました。しかしながらオーナーが事業意欲が旺盛な方で、なかなか銀行の意見に耳を傾けない。だから銀行との関係も相当悪化しており、資金繰りも綱渡りの状態でした。

オーナーが70代半ばと高齢で、かつ独裁者として君臨していたので、コンサルの意見にもなかなか耳を傾けてくれない(笑)
それでも根気強くオーナーと話し合って、企業の改革を進め、なんとか黒字を確保できるようになりました。

その後、僕はオーナーが高齢だったこともあり、赤字を数期計上したことで株価が低くなっているので、これを機会に事業承継もしてしまったほうがいいと提案しました。実は何らかの理由で再生フェーズに入ってしまった企業は、株価が低くなっており、事業承継を進めるにはいい機会にもなるんですよ。
実はこの会社には、前妻の子である現社長、後妻及びその娘が事業に関与しており、仮にオーナーがいきなり亡くなられた場合に、相続の問題が複雑になることが想定されたのです。よって「いずれ死ぬのだから、株は誰に譲る、その他の資産は誰に譲ると決めて相続問題を解決しておかないといけないですよ」という話をご提案し続けていました。ところがオーナーは、「俺が死ぬと思うのか。死ぬわけがないだろう!」とおっしゃって。結局私は、1年間怒られ続けながらも説得を続けていました。

しかし1年後、オーナーはあっさり亡くなってしまったのです。その後B社に呼ばれて行ったら、案の定、株を誰が相続するかという問題で泥沼の争いになっていました。
僕は、建設業界はまだまだ男性中心に回っている部分もありますし、現社長のご子息も会社に入られているので、今後の会社の安定・成長を考えた場合に、現社長に経営権を集めておくべきと判断し説得していきました。

後妻とその娘さんに、「オーナーの持っている不動産や資産を合わせると、多分10億近くあるでしょう。なのでそれをあなたたちがすべて相続し、株は現社長にお譲りして、オーナーが築いてきた会社の安定を図るべきではないでしょうか。しかも会社の借金もまだ多く、その個人保証をするのは荷が重すぎませんか?現社長は不動産や預金はいらないとおっしゃっていますので、それで相続問題を解決しませんか?」と。
ところが、なかなか納得してくれない。というのも、その時に会社の業績が少しずつ上向き始め、外部要因も相まって好調をキープしていたからです。将来的に会社の価値がもっとあがると考えたのでしょうね(笑)何度も後妻と娘さんに怒鳴られ、泣かれしながらも、半年ぐらいかけてじっくりと説得しました。株は現社長に、その他の財産はすべて後妻とその娘さんにという形でなんとか決着しました。

短期的な再生の視点だけでなく、中長期的な企業の安定を見据えたアドバイスが必要

──その後、B社はどうなっているのですか?

【コンサル会社 担当Mさん】 私たちの再生施策が功を奏したこと、またマーケットの好転により、かなりの高収益企業へと変貌しました。社長は当時価値が低くなっていた株だけを相続しましたが、高収益企業に変貌した結果、社長の持ち株も大きな価値をもつようになりました。結果としてどの親族も損をせず、企業の安定を図れる、いい形が作れたと思います。

再生とは少し話が変わってくるのですが、事業承継に関する話では兄弟間や家族間のドロドロは避けて通れない事が多く、人間模様としては面白い部分がありますね。

事業承継を考える際には必ず株価の算定をします。再生フェーズに入っている企業は、一般的に債務超過に陥っている企業が多く、株価は0円となります。要は後継者に株を譲渡しても相続税や贈与税がかからないのです。よって再生フェーズに入っている会社の社長には、明確な後継者がいるのであれば、今の機会に株の承継だけはしておいたほうがいいとアドバイスします。

ところが、B社のオーナーもそうですが、「自分が株を贈与したら、息子に全部乗っ取られてしまう!自分は会社から追い出される」といって、なかなか手放さないのです。そういうオーナーには、種類株(種類株式)というのを使って、社長が生きている間は少しの株式だけを持ちその株式に議決権の多くを付与すればよい、と説得します。
種類株とは、株式の権限が異なる株式を意味します。種類株式は、例えば議決権を特定株主のみに集中させたり、議決権はないものの配当金をより多く受け取れたりとそれぞれ異なる権利内容の株式を発行できるのです。

実は再生の場面では、よくこのようなケースがありますが、ほとんど資金の流出がなく、会社の安定・成長のための株式の承継ができるのです。
我々のようなコンサルタントは、常にクライアントの現在のみでなく将来まで見据えた中で、適切なアドバイスをしてこそ価値があると思います。

──他社さんでは、そこまでやっていらっしゃる?

【コンサル会社 担当Mさん】もちろん、やっているところもあるでしょうね。ただかなりドロドロした部分が多いので、どこまで深く人間関係に立ち入りますかね(笑)
本当にこの機会に承継案を考えたのでどうですか?というのは基本誰でも提案できると思います。ただそれをオーナーと腹を割って説得し、かつ親族間のもめごとがあれば深く関わって解決してあげる、そこまでは踏み込めないですよね。
うちの人間でも、そこまでできる人間は限られるので、こういった案件は私が直接、オーナーと話すことが多いですね。

──事業再生であらためて会社の価値を見直す局面に承継まで解決してしまった事例ということですね。ただ、後継者は決まっても、たくさんの問題が噴出して八方ふさがりになってしまい、1人ではなかなか対処が難しい面もありますね。自分も含め、家族や親族の利害が絡んでくるし、冷静にアドバイスができる誰かが横についてくれる人がいると安心です。どうしても事業再生、承継はドロドロしがちですから。

【コンサル会社 担当Mさん】 親子関係が悪化をたどる案件は、めちゃくちゃ多いですよ。
もともと独善的だったワンマンのオーナーが、高齢になればなるほど他人の意見に耳を貸さなくなるケースが多い。オーナーが間違ったことをしたり、おかしな意思決定をしても、会社の人は誰も批判しないし、後継者と目される息子が言っても聞く耳を持たないのです。「お前に何がわかる!」の一言で終わってしまうのです。

結果、父子の仲が険悪になり、後継者であったはずの息子が辞めてしまったり、関係会社を1つだけ持って、「後は知らん」とだんまりを決めこんだり……。そういうのは案件の中でもかなりありますよ。

会社のピンチの時こそ、オーナーと親族といった親しい間柄で力を合わせてやらなければいけないのに、大概いい関係にはなっていません。それぞれ意見をすり合わせることもなく、利害関係もバラバラで、なかなかひとつにならない。

──再生や承継には、人間関係の確執まで、やはり入り込んでしまうのですね。
そのため、不合理なところまで追い込んだり、追い込まれたりしてしまいます。オーナーや親族以外は蚊帳の外だし、その人たちも沈む船には関わってこないのですね。

【コンサル会社 担当Mさん】中小企業の役員は、サラリーマンが多いですし、多くは自分が株を持っているわけでもありません。再生の場面では、「沈む船からいち早く逃げよう」と思っている人もいます。
ですから、こういう再生の場面になると、真っ先に逃げる人、キーマンとなるべき人がいなくなるなど本当にさまざまな出来事に遭遇しますよ。

また、承継という観点で言うと顧問の弁護士の先生や税理士の先生がアドバイザーとなっているケースも多い。多くは本当に親身に会社のことを考えて適切なアドバイスをしている先生なのですが、たまに株の承継の際に、会社の将来の安定を考えず、相続税の節税だけを考えてスキームを考えてしまう方もいらっしゃいます。
だから業歴の古い会社では親族で株式が分散しまくっている会社も結構あります。このようなケースでは後々大きなトラブルが生じる可能性が高いのに・・・

正しいゴールに導くために

──ハードなネゴシエーションが必要です。強いコミュニケーション能力、ひいては人間力みたいなものが問われますね。

【コンサル会社 担当Mさん】 オーナーを務める方は経験豊富な年配の方も多く、私たちはオーナーより年下の若造です。ご子息より年下の場合も多々あります。そんな若い奴が正面切って正論を言ったところで聞いてもらえません。
誰にむかってえらそうにいっているのだと、反感を買ってしまうケースもあるのですよね。若いコンサルタントはこのような失敗をしているケースが多いんじゃないでしょうか(笑)

僕がオーナーと接する際に気をつけていることは2つ。1つは会社の歴史も踏まえてオーナーを理解すること。オーナーがどのような思いで会社を作り、どのような苦労をして会社を成長させ、どのように会社の将来を考えているか、まずそれを深く理解しオーナーと接するようにしています。今ダメになっているのは当然理由があるのだけれども、今まで作ってきた功績を無視してダメ社長のレッテルをはるということが若いコンサルタントによく見受けられます。当然オーナー社長に対し失礼な態度をとるのでオーナーとコンサルの関係もこじれる。

曲がりなりにも会社を作り現在まで事業を拡大してきた会社のオーナーです。その過程では幾度も試練を経験し、それに打ち勝ってきたはずですから、そのへんをきちんと理解したうえで、現在からの会社の発展の形を共有し、そのために改善すべき事項について言い方も考えながら説得することでスムーズに行くケースも多い。
まずは人間関係を築き、そのコミュニケーションの中で何とかゴールへ持っていかなければならない、正しいゴールに。先の建設業B社の時も、後妻と娘さんとはどれだけ話したかわからないくらい話しましたね(笑)

誰がオーナーになるかによって、会社の将来、行く末は大きく変わってしまいます。ですから、そこでは相続税等金銭的価値が優先されるものでもなく、家族仲良く平等に所有しましょうといった玉虫色の決着にもすべきではありません。家族仲良くといった形式は現在はよくても次の世代、また次の世代に問題を先送りしているにすぎません。

我々コンサルタントは会社にとって一番よいと思われる形を構想してアドバイスするだけでなく、高いコミュニケーション能力をもって人間関係の調整を図り解決まで導くことで本当の価値を提供したといえると思います。

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