いきなり!ステーキ、破産寸前からの事業再生方法

急成長した「いきなり!ステーキ」の今

今春からの新型コロナウイルスの影響により、多くの業界で深刻な経営不振を招いています。こうした中で、最も身近で多大な影響を受けているのが外食産業です。毎日のようにテレビをつければ、その厳しい経営状況が報じられています。

一口に外食産業といっても、様々な業態の店があります。多くはイートインと呼ばれる店内での飲食が中心の店舗が多いのですが、店頭でのテイクアウトやデリバリーのような宅配も少なくありません。

多くの店がイートインやテイクアウト、デリバリーを組み合わせたり、新たな商品を提供するなど、現状から脱しようと努力しています。

また、外食産業には家族経営による個人店舗から、海外まで含め数百から数千といった多店舗展開している外食チェーンまであります。

こうした外食チェーンの一つに「ペッパーフードサービス」が展開する「いきなり!ステーキ」があります。

平成25年に1号店をオープンしたのち、4~5年の間に直営・加盟店を合わせ300以上の店舗展開する、一大外食フランチャイズチェーンになりました。 量り売りによるステーキの提供、立食形式(基本)、肉マイレージの導入など、商品はもとよりいろいろなサービスにより話題となり、テレビをはじめとしたメディアにも盛んに取り上げられてきました。

連日、行列ができるほどの盛況で、売上、利益、そして株価も大幅に上昇するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。ところが令和元年あたりから急激に業績が悪化し、同年末辺りくらいから、店頭に来店をお願いする社長直筆のポスターが掲示され、一部ネットで炎上する騒ぎとなりました。

そこにおおい重なるように、今回の新型コロナウイルスによる自粛要請から、大幅な来客数の減少となりますます苦境に立たされています。

私も興味を持って近くの「いきなり!ステーキ」を見ていたのですが、以前は、昼前からピークを過ぎても店先まで行列があったのですが、昨年あたりからピーク時にも空きスペースが見られるようになっていました。「そろそろ飽きられてきたのか」と思ったのですが、原因はそれだけではないようです。

昔から他の業界同様、外食産業・飲食業界でも「のれんと屏風は広げると倒れる」という言葉があります。急激に事業拡大、店舗増加すれば、そのひずみはいたるところに出てきます。たとえば、経営者の目が隅々までいき届かず、社員や従業員の士気は低下し、教育・訓練なども不十分になり、オペレーションはうまく回らなくなります。

また、飲食店を1店舗オープンさせるには数千万円から億単位の出店コストがかかります。そのため金融機関からの借り入れ負担も、その後の経営に重くのしかかってきます。

その上、新型コロナウイルスによるさらなる業況の悪化ですから、同業者や経営コンサルタントの間から「いきなり!ステーキ」は危ない、倒産するなどの噂が出ているのです。 その一方で、「いきなり!ステーキ」を含めたペッパーフードサービスの代表は、過去幾多の経営危機を乗り越えてきた外食業界を代表する経営者ですから、今回も何か革新的なアイディアや手法で挽回できるのではないかなど、いろいろな意見があります。

そこで今回は、ペッパーフードサービスの新たなフランチャイズチェーンである「いきなり!ステーキ」について、その事業再生の可否や再生スキームなどについて検証します。また、運営会社であるペッパーフードサービスや、創業経営者のプロフィールなどにも言及しながら、様々な面から見ていきます。

ペッパーフードサービスの概要と沿革について

まず、「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスという会社について、その概要や沿革から見ていきましょう。

ペッパーフードサービスの会社概要

社 名 ペッパーフードサービス
創 業 昭和45年2月 「キッチンくに」として開業
資本金 1,644百万円(令和元年12月末現在)
代表者 一瀬邦夫(いちのせ くにお)
本社所在地 東京都墨田区大平4丁目1番3号 オリナスタワー17F
電話・ファックス 03−3829-3210(代表)・03−3625−9250
取引銀行 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行
決算期 12月
主要取引先 エスフーズ株式会社、株式会社富士エコー、株式会社ホクビー、デリカフーズ株式会社、ジェノスグループ株式会社

経営理念等

経営理念 お客様の笑顔、お取引先の笑顔、皆が喜ぶ私の仕事 地域社会も豊かにします
社 是 感謝 創造 努力
経営方針 従業員と共に夢を実現する経営
お店をきれいにします 美味しい料理を提供します お客様に喜んでいただく努力をします

沿革

昭和60年10月 東京都墨田区向島三丁目に「有限会社くに」設立(資本金5,000千円)レストラン事業開示
昭和62年11月 東京都墨田区両国に「ステーキくに」、「炭焼ステーキくに」オープン
平成6年7月 神奈川県鎌倉市に「ペッパーランチ」1号店をオープン、ペッパーランチ事業開始
平成7年8月 称号を「ペッパーフードサービス」に変更
有限会社から株式会社に改組、資本金を1,000(千円)に増資
平成7年11月 事業規模拡大のため本社を東京都墨田区吾妻橋三丁目に移転
平成15年11月 海外第1号店として、韓国ソウル市に「ペッパーランチ」オープン
平成18年9月 東京証券取引所マザーズに株式上場
平成25年12月 東京銀座に新業態「いきなり!ステーキ」オープン
平成26年4月 海外子会社「Kuni’s Corporation」設立
平成28年8月 「いきなり!ステーキ」恵比寿店オープンにより100号店舗出店達成
平成29年5月 東京証券取引市場第二部へ市場変更
平成29年8月 東京証券取引市場第一部指定
平成30年2月 「いきなり!ステーキ」200号店舗出店
平成30年8月 「いきなり!ステーキ」300号店舗出店
平成30年9月 米国NASDAK市場へのADR上場
平成30年11月 「いきなり!ステーキ」47都道府県に出店達成

事業紹介

ペッパーランチ 国内170店舗(令和2年7月)、海外321店舗(令和2年6月)
いきなり!ステーキ 国内374店舗(令和2年7月)、海外1店舗(令和2年6月)
牛たん仙台なとり 国内8店舗(令和2年7月)
炭火ステーキくに 国内5店舗(  〃  )
92’s 国内9店舗(  〃  )
武蔵ハンバーグ 国内6店舗(  〃  )
ペッパーランチ・ダイナー 国内4店舗(  〃  )
その他5業態 各1~2店舗

代表者プロフィール

昭和17年 静岡県に生まれる
昭和35年 日の出学園高等学校卒業後、山王ホテルに入社
昭和60年 独立「キッチンくに」を開店
昭和62年 有限会社くに設立 4店舗の直営店を展開 資本金500万円
平成6年 低価格ステーキ店「ペッパーランチ」を展開
平成7年 株式会社に組織変更「株式会社ペッパーフードサービス」となる

※ペッパーフードサービスホームページ、会社四季報オンライン参照

なぜ、「いきなり!ステーキ」は経営不振に陥ったのか

なぜ、「いきなり!ステーキ」が経営不振になってしまったのか、その原因を調査してみると、大きく2つありました。

ひとつは、短期間に多くの店舗を出店してしまったため、同じチェーン加盟店での共食い(カニバライゼーション)が起きたこと。もうひとつは、単に客に飽きられてしまったというものです。

前者の原因については、主に「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスの一瀬社長など会社側の見解です。そして、もうひとつ「飽きられてしまった」のはお客様から寄せられた多くの意見です。これらのことから、多くの店舗で経営不振に陥ってしまうのも当然といえます。

共食いが原因とするならば、それは経営トップの社長以下、経営陣の戦略上の判断に問題があったということです。そもそも、4〜5年の間に300店舗以上を開店させれば、共食いが生じるのは容易に予想できます。通常、外食フランチャイズを展開する場合、本部直営店として1店〜数店舗、異なる立地エリアに出店し、加盟店の指導マニュアルなどを含め、本部としての体制、運営方法、オペレーションなどを試行錯誤しながら確立していくものです。その後、加盟店募集出店といった流れになりますから、4〜5年で出店できる店舗数には限界があります。

こういった中で加盟店オーナーが、その後2店舗、3店舗と多店舗展開し、フランチャイズチェーン全体の底上げをしてくれるのです。こうした点を見誤ると、加盟店から金銭的な請求を受け、本部の財務も毀損することになります。事実、「いきなり!ステーキ」でも、 加盟店への保証のため、手持ちのキャッシュフローがかなり悪化しているようです。

これらのことは20年ほど前、外食フランチャイズ立ち上げに参画し、同じように早期に強引な加盟店募集をし、失敗した私自身の経験からいえることです。

次に、お客様から飽きられたことが原因とする考えは、正にそのままです。お客様のクレームや要望を見ると、「量が多すぎて残してしまう」、「肉が硬い」、「もっとゆったり食事したい」、「安さを売りにしている割に商品にコストパフォーマンスがない」など、かなり手厳しいものです。

これはビジネス、マーケティングの基本中の基本であるお客様の視点を欠く近視眼的な考えからくるものです。昨年末、店頭に掲示された社長直筆によるお客様に来店を促すメッセージなどは、その最たるものでしょう。

かつて「狂牛病(BSE)」の時も、当時主力事業であった「ペッパーランチ」が不振になった際も、社長直々のお願いメッセージを掲示し、かなり共感を得たようです。当時は狂牛病という外的な要因による経営不振でしたが、今回の「いきなり!ステーキ」は社長その他経営陣の判断ミスによるものですから、お客様には思うように共感してもらえないようです。

ただ、一瀬社長は、かつて何度経営危機に陥っても、事業や会社を再生してきたとのことですから、今回も経営上の問題点を認識し、すでに「いきなり!ステーキ」の事業再生、そしてペッパーフードサービスの企業再生に向け、具体的な行動を始めているようです。

「いきなり!ステーキ」の事業再生と「ペッパーフードサービス」の企業再生

「いきなり!ステーキ」の急激な業績悪化に対して、なんら有効な手当をしなければ、早晩「いきなり!ステーキ」を含むペッパーフードサービスは倒産してしまうでしょう。

倒産すれば当然会社は消滅してしまいますが、それだけではありません。倒産により社員・従業員は失業し、お客様は今まで食べられた商品やサービスが受けられず、取引先企業も最悪連鎖倒産、融資していた金融機関も貸倒れによる損失が発生してしまいます。

経営者であれば、なんとしても倒産だけは回避したいと考えます。

ここでいう倒産とは一般的な用語で、具体的な法律用語では「破産(破産法)」、「特別清算(会社法)」です。ただ、倒産という用語の概念は広く、こうした最終的な法的処理以外にも、「民事再生(民事再生法)」、「会社更生(会社更生法)」といった再建の手続きや私的整理(任意整理)という法的手続きによらない清算、再建型の手続きもあります。

簡単にまとめると下記のような分類です。

倒産処理手続き 清算型 私的整理(任意整理)
破 産(破産法)
特別清算(会社法)
再建型 私的整理(任意整理)
民事再生(民事再生法)
会社更生(会社更生法)

清算型手続き

破産

破産とは債務者が経済的に破綻(支払不能、支払停止、債務超過)し、債務の返済ができなくなった場合に、その財産を清算する手続きで、個人、法人とも対象です。

  • ①裁判所への破産手続開始申し立て
  • ②保全処分
  • ③破産手続開始決定・破産管財人選任
  • ④債権者集会(破産債権の届出・確定・換価)
  • ⑤債権者への配当
  • ⑥債権者集会(計算報告)
  • ⑦破産手続終結決定

特別清算

清算中の株式会社が清算を進めて行く上で、著しい支障が生じる事情があったり、債務超過の疑いがある時、清算人や債権者の申し立てにより裁判所が開始・決定します。

  • ①裁判所への申し立て
  • ②特別清算開始決定
  • ③清算人による協定案の作成
  • ④債権者集会で可決
  • ⑤裁判所による認可
  • ⑥協定案に基づいて弁済
  • ⑦特別清算終結決定

再建型手続き

民事再生

民事再生とは、経済的に窮地にある債権者の事業や経済的生活の再生を図ることを目的とするもので、個人、法人とも対象です。

  • ①裁判所への再生手続開始申し立て
  • ②保全処分
  • ③再生手続開始決定
  • ④債権届出・調査・確定
  • ⑤再生計画案提出
  • ⑥債権者集会
  • ⑦再生計画遂行
  • ⑧再生手続の終結

会社更生

会社更生は、事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務を弁済できない株式会社や破産手続開始の原因である事実の生じる恐れのある株式会社に対し、債権者や株主などの利害を調整しながら、事業の維持と更生を図るものです。

  • ①裁判所への更生手続開始申し立て
  • ②保全処分
  • ③更生手続開始決定
  • ④債権届出・調査・確定
  • ⑤更生計画案提出
  • ⑥関係人集会
  • ⑦更生計画遂行
  • ⑧更生手続の終結

私的整理(任意整理)

私的整理は、任意整理・内整理とも呼び、裁判所が関与しない法的手続以外のものです。

「事業再生ADR」などが代表的な手法です。債権者・債務者との任意の話し合いにより、会社の債務を整理するもので、円滑に進めば法的手続きよりも時間やコストが節約できます。

反面、裁判所が関与しないため法的拘束力がなく、透明性・公平性の確保が難しく、話し合いが長期化することもあります。清算型・再建型があります。

事業再生スキーム

事業再生となると、破産手続のうち再生型手続きが前提になります。民事再生、会社更生、再建型の私的整理を、単独あるいは複数組み合わせた手続きとなります。

この再建型手続きを進める際の事業再生スキームとして、「グッド/バッドカンパニースキーム」があります。これは、再生対象企業の事業のうち、コア事業、金を生む事業、将来性のある事業群を 「グッド事業群」、それ以外を「バッド事業群」とし、グッド事業群を中心に再生を図り、バッド事業群は売却、あるいは処分するというものです。グッド事業群に対し、他の企業(取引先企業など)をスポンサーとして招いたり、他の企業やファンドなどに売却し、その下で再生を図るといった手法です。

「いきなり!ステーキ」の事業再生や事業展開するペッパーフードサービスの企業再生に関しては、大幅な減収・減益で、二期連続赤字のため、金融機関からの追加融資は難しいかもしれません。

もっとも、一瀬社長はかつての経営危機の際、取引銀行などからの融資が受けられなくても、知り合いの経営者などにスポンサーとなってもらい資金調達し、事業再生を果たした経験があります。そのため今回も、スポンサー企業などから資金を借り入れ、「いきなり!ステーキ」の事業再生やペッパーフードサービスの再建を画策しているように思われます。事実、「ホルモン焼きこてっちゃん」で有名な食品会社の経営者である村上氏から、 PE(プライベート・エクイティ)ファンドという形で、すでに20億円の資金を受けているようです。

ちなみに、PEファンドとは、機関、個人投資家から集めた資金を企業に投資し、その経営に深く関与しながら企業価値を高めたのち、IPO (株式公開)M&Aにより高く売却することを目的としたファンドのひとつです。
食品会社の経営者である村上氏も、以前から個人投資家としてPEファンドに出資し、多くの企業の再生に関わっています。

「いきなり!ステーキ」の事業再生とペッパーフードサービスの企業再生としては、まず、「ペッパーランチ」事業をカーブアウト(切り離し)して別会社にしたあと売却する。(すでにファンドに80~100億円で売却済)。そして前述の村上氏からのPE20億円出資と合わせて、コア事業である「いきなり!ステーキ」の再生費用にあてます。不採算店舗の大幅な スクラップ(閉店)を中心とし、徹底したリストラによる早期の黒字化を目指すと思われます。

アフターコロナでも外食業界がV時回復するとは考えられませんから、今のうちに足腰の強い企業にしておかなければなりません。そのためにも、ペッパーフードサービスのコア事業である「いきなり!ステーキ」の事業再生は待ったなしです。

ペッパーフードサービスのような規模の大きな飲食フランチャイズばかりでなく、中小・零細の飲食店もコロナ禍では苦戦を強いられ、廃業に追い込まれる店舗も少なくありません。廃業することなく事業や企業を再生し、存続させようと考えても再生手続きは複雑で、高度な専門知識も必要なため、あきらめてしまう経営者も少なくありません。このような時に頼れるのが、 「みそうパートナーズ」、「山田コンサルティンググループ」、「フロンティア・マネジメント」などのコンサルファームです。

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